迷宮に求めた流れ星

「ど、どうしよう…パーツを奪えないとまずくないか?」
「うむ…まさか子供に邪魔されるなんて、これっぽっちも思ってなかったぜ…」

手持ちのポケモンがいなくなったらしい、目の前のアクア団二人がうろたえ始めた。敵の前で作戦を立てるのは命知らずがやることだと思うんだが。
不意に、警戒していたことによって研ぎ澄まされていた聴覚が、誰かしらが階段を登ってくる音を拾い上げた。

まずい。一瞬でその判断が出たのは、最悪の状態が想像されてしまったからだ。
もしここでポケモンも扱えない一般人…例えばここの従業員さんたちが上がってきたんだったとしたら、人質に取られてしまう可能性だってゼロではない。そうなったら俺は攻撃する術を失ってしまう。

頼むから一般人は来ないでくれ。
願う俺に神は微笑んだ。

「ぼ、ボス…」

アクア団だということを示す、カイオーガの手についていたものと似ているシンボルが刺繍されたバンダナ。胸元が開いている青い服。首にかけられたものは…船の碇?のようなペンダント、だろうか。
ぎらりと鈍く光る碇のペンダントには虹色に輝くものが埋め込まれている。今まで一度も見たことがないそのペンダントに、何か嫌なものを感じた。

多分、この男はアオギリだ。アクア団のボスというのはアオギリしか思い浮かばない。
しかし「昔」見たスタイルと全然違っているような…口調も荒くなったし、そもそもこんなに日に焼けていたか?日焼けサロンでも通ってたんだろうか。

「やれやれ…」

アオギリらしい男が口を開く。

「パーツひとつ奪うのにいつまでかかっているのかと思えば、こんなガキンチョに手こずっていやがったのか」

その言葉遣いに少し、いやかなりカチンときた。確かにまだ成人すらしていない子供だが、ガキンチョというのはいかがなものか。一応俺も前世の分を足したら二十歳は過ぎてるんだけど。
とまあ、そんなことは言える訳もなく。

男は俺と少女、そしてクスノキさんとリオルをそれぞれ見たあと、もう一度俺に視線を戻して「ほう」とつぶやいた。

「ガキンチョのくせしてなかなかいい面構えしていやがる。ただのオコサマトレーナーじゃねえってわけか」
「…そりゃどーも」
「ハッ、ガキンチョは不満ってか」

大いに不満だ。

「改めて…オレの名前はアオギリ。そこの野郎どもみてえなヤツらと、アクア団ってチームで活動してるモンだ」

男、もといアオギリはそう告げて自らの計画を告げる。
アオギリがいうに、海は全ての命の源である。つまり海というのはかけがえのない存在だ。

しかし人間は自分のエゴのために海を汚したり潰したりして破壊を繰り返している。無論その代償として人間やポケモンに影響がでるんだと。
人間がその苦しみを味わうのはまだいい。が、なんの関わりもないポケモンが被害を受けている。住む場所がなくなったり、たまごを産めなくなったり、いろんな弊害を受ける。

「そんなモンが許されるわけがねえ!」

だから決めた。
人間の愚かな行為も、破壊された海や自然も、全てを始まりに還すと。

既にちんぷんかんぷんな俺など気にせず、海に関する説明をするアオギリ。お前は俺が理解できる時間をもう少しくれたっていいと思う。

とりあえず、海は大事なのに人間が壊していろんなところに被害が出ている。人間は開発している張本人だからいいとして、ポケモンは理不尽にその影響を受けなければならない。
そしてそれをマツブサは許せなくて、いっそ全部を始まりに還そう、と。

なんか同じことを言っている気しかしないが、数行にまとめればそういうことだ。

「…っと、ガラにもなく語っちまったぜ。
ガキンチョ、今日のところは大人しく引き下がってやる。だが次にオレのジャマをしやがったらタダじゃすまさねえ…それだけは覚えておけ!」

いくぞ、野郎共。
そう言って歩いていくのを見届け、クスノキさんに向き直る。特に怪我もないようで、今起きたことの半分も理解できていないままらしかった。俺と同じだ。

もう一度カバンにしまっていた荷物を取り出し、クスノキさんの手に握らせる。なにかのパーツだと言っていたが、船の備品だろうか。
ああ、ありがとう、と呆然としたままのツワブキさんがその荷物を握って帰っていった。道端に落とさないか心配だ。

「それにしても、まさかあなたが持っていたなんてね」
「?」
「デボンの荷物。こんなところに子供がいるのも珍しいのだけど、そういうことだったの」

確かに、子供に重要なものを送るようにって頼むのもおかしいよな。俺がバトルできたからまだしも。
しかし俺も子供だが、この少女だって俺と同じくらいの年じゃないか。この少女はいったい何のためにこの博物館に来たって言うんだ。

「紹介が遅れたわね、私はセレナ。人を探してこの地方に来たのだけど…」

へえ、セレナって名前だったのか。
セレナは自分のことを紹介している最中、自分から一定の距離で離れているリオルを見た。

「あのリオルは、あなたについてきているの?」

その質問はどういうことだ。思わず固まってしまった俺に、セレナは再度質問を繰り返す。
確かにポケモンをボールから出して連れ回すトレーナーはそうそういない。でもなんでそんなことを聞かれる?リオルが粗相をやらかした?いや、このリオルがやるはずない。

よくわからないまま頷く。どちらにしても、リオルが俺と行動を共にしているのは紛れもない事実だからだ。
セレナはそれを確認し、

「コトに会ったのね?」

俺に勢いよく掴みかかってきた。