勘違いは出会いのもと

「は?」

思わずつぶやいてしまったのだって仕方がないはずだ。誰だよ、コトって。俺はそんなやつは知らないし、そもそもリオルの親だって知らないんだ。わかるはずがない。
セレナは俺の服の胸元を掴み上げ、その端正な顔立ちを最大限に歪めて詰め寄ってくる。美人は怒ると怖いということをここで初めて実感した。

「コトア。このリオルの持ち主のはずよ」

コトア?いやいや、そんなこと言われたって調べたことはないし。
そもそもどうやって調べるんだと頭を回していると、ふと思いついたことが一つだけある。

マルチナビの機能だ。

マルチナビはポケナビよりもはるかに便利な機械。捕まえたポケモンに向けると今の持ち主が分かるようになっている。
それにはポケモンサーチの機能も必要になってくるが、それはハルカに入れてもらっているので問題ない。調べようと思えば調べられるのだ。

慌ててマルチナビを起動させてリオルに向ける。一瞬遅れて鳴ったそれが指し示した名前は、コトア。

「コトに会ったから、そのリオルを貰ったんでしょう?」

コトアって名前だったのか、リオルの持ち主は。
ここで俺がそんなことを知ったところで、この持ち主に会ったことがないのは事実だ。だからといって「会ったことはありません」などと言えない雰囲気。どうしよう。

それより、セレナが詰め寄ってきた理由はなんとなくわかり始めたが、何故か先程見たリオルが顔を歪めていたような。持ち主のことはあまり話したがってる様子はなかったから仕方ないのかもしれない。

真実を話すしかないと判断し、どこで会ったの?と迫ってくるセレナの手を掴んだ。

「コトアなんてやつとは会ってない」

ひゅっ。息を呑む音が聞こえた。
掴んでいた手が力をなくす。大きく見開かれた目。わなわなと震える薄い唇。数秒か数分かわからない時間が過ぎて、セレナは目をつぶって大きく息を吐いた。

「そうね、コトがこんなに簡単に尻尾を出すはずなかった。ごめんなさい」
「いや、それは別にかまわないんだけど…あんまりリオルの前でその話を出されたら、あとからリオルが怖いからやめてくれ」
「ああ…そのリオル、コトや私には懐かなかったものね」

見るとセレナはだいぶ疲弊しているようだった。コトアってやつはどんだけ隠れるのがうまいんだよ、俺に見つけられる自信ないんだけど。
それにしてもリオルの飼い主とセレナが探している人物が一緒だとは思わなかったな。世界は狭い。

「見つけたら教えてちょうだい。連絡が取れなくなってしまって不安なの」
「ああ。…聞いとくが、連絡が取れなくなってどれくらい?」
「半年よ」

半年。…半年?

「半年も!?」
「ええ。何の連絡もなしに、そのままね」

カロスでは見つからないからホウエンに来たのだけど。と疲れた様子を隠しもせずにため息をついたセレナ。お、おう、大変そうだな。俺に見つけられるかわからないが頑張ろう。

カロスって少し離れたところにある、洒落てるところが多い地方だよな。セレナはそこの出身なんだろうか。
ということはリオルやコトアってやつもカロス出身か。そういえばリオルはカロスにも一箇所だけ分布図があったな。

用件が済んだからか、セレナはそのまま階段を降りていった。
俺としてはもうちょい聞きたいことがあったんだがまあいいか。

さっきのセレナの発言…このリオルが持ち主に懐いてなかったってどういうことだろうか。懐いてないならトレーナーのところに戻るはずがないだろ。
俺もやることは終えたので博物館を出る。なんだかひどく疲れた気がする。

一応宿は取ってるし、今日はカイナに一泊するか、とリオルに告げて、まだ余力が残るフレアたちを鍛えるために草むらを目指す。リオルのレベルを勝手に上げていいものか悩む。

『俺はポケセンで休む』

悩んでいる俺をよそに、リオルはそう言ってスタスタとポケセンの方に向かっていった。慌てて鍵を放り投げると振り返る素振りすらみせずにキャッチした。こいつ…
鍵を開けて部屋に入るリオルを見る人がいたら相当シュールな絵面になるな。

しょうがない、と街の外に向かっていると、不意にコンテスト会場のほうが騒がしいことに気づいた。

「おい!あっちでルチアたちがロケしてるぞ!」
「マジかよ!ルチアちゃーん!」

ルチアって誰だよ。
テレビ好きな母さんとは違って俺はあまりテレビを見ないほうだ。精々母さんがいつも見せてくるドラマくらいで。

そういえば、コンテスト会場も昔はここになかったな。コンテストはやってないけどバトルアリーナっていう施設があった。
俺としたらあっちのほうがよかったんだけど、この世界じゃコンテストなんだから仕方ない。バトルアリーナができるのを願うばかりだ。

少しの興味でコンテスト会場の方に行ってみる。あれくらい熱狂的なファンが居るんだから、結構人気なんだろうし。近くで見るのもいいよな。
コンテスト会場の入り口付近に少女がいた。青いコンテストドレスを来てチルタリスを連れている少女だ。その前には撮影道具が広げられていて、さらにその周りを大量の人々が取り囲んでいた。

俺の方は幸いにも人の層が薄いところで、恐らくルチアらしい少女が見える。
少し見えたくらいだけど十分だ。そう思いつつ、コンテスト会場の入口の方に視線を向ける。見覚えのある背中がそこを通り過ぎた。

「あ、」

116番道路の少年だった。コンテストに興味でもあるんだろうか。
とりあえず、ムロで約束した通り話しかけようと思ってそちらに走る。あれから少ししか経っていないが、何か面白いことでもあったらいい。多少のロスは我慢してもらおう。

おーい、と声を掛けようとして、身体が前につんのめった。右腕を引っ張られている感覚。

「今コンテスト会場に入ろうとしているあなた!こんにちは!」
「へ?」
「コンテストはまだやったことない?」
「や、やったことないけど…」

テレビに撮されていた少女が俺の手を握っていた。なんで俺がこの人に目を付けられたのか。というよりなんの用だ。
あまりの勢いにたじろぐ俺に、少女…多分ルチア、が目を輝かせる。

「それは良かった!
ではでは、今回は!こちらのトレーナーさんをスカウトしちゃいます!」
「は!?」

スカウトってなんの。っていうかさっきからルチアの後ろにいるファンとかカメラとかの視線が痛いんだけど。
混乱する俺を、ルチアはずるずると引っ張っていく。