マレインティーの招待状

外に出ていた全員をボールの中に戻し、服が乾くのを待って110番道路を駆け抜ける。
本当はハルカと出会った後すぐにでもキンセツに向かっているつもりだったっていうのに、それどころの話じゃなくなって夜にまでこけてしまった。

ハルカにも次に会った時はちゃんと謝らなければならない。きっと何も知らない俺なら、あのバトルは屈辱以外の何物でもなかったから。
ああでも、次はいつ会えるんだっけ。少なくともキンセツじゃ会わなかったよなあ。

いつになったらあいつに謝れるんだろう。なるべく早めに謝りたいが、少なくとも今日中は無理だ。日が暮れてあいつを見つけられない。
夜でも明るい光が見えてきて、やっとキンセツかと思って顔を上げる。

目を疑った。

「…ええとだな、」
『どうした?』
「これ本当にキンセツ?」

まず入口。ガラスでできた屋根があった。両サイドは暖色を中心としたレンガを綺麗に積んでいて、その様相はひとつの建物のようにさえ見える。
ただし曇りなく磨かれたガラスの自動ドアの向こう、広がっているのは大きな通路だが。

キンセツって、こんなのだっけか。俺の記憶の中ではどう間違えても屋根に覆われたキンセツじゃなかった気がするんだが。
唖然として中々動かないことを煩わしく感じたのか、リオルが俺をどついた。いやちょっと待て、本当に俺の記憶と違いすぎて驚いているんだ。なんだこのショッピングモール。

「俺、キンセツで迷わないでいれるかな…」

今までの街は大差ないものばかりだったので特に問題なく進んでくることができたが、この街は全然違う。恐らく内装も変わっているので道に迷わない自信がない。
とうとう痺れを切らしたらしいフレアが俺を入口に押し付けた。こいつ、また俺の扱いがひどくなってないか。

仕方なくキンセツに足を踏み入れる。夜でも随分と明るい街中。やっぱり作りそのものが違うし、店の場所も違う。これは絶対迷うわ。
とりあえず今日はもう疲れたし、ポケセンの場所でも探そう。ジムは明日の朝にでも探すことはできる。

ポケセンの場所を探そうと街中を見て回っていると、不意に見覚えのある姿を発見した。
エメラルドのふわふわした髪。華奢な体躯。薄幸の美少年といった容姿の彼は、トウカで俺と友達になったミツルそのものである。

「おじさん、お願いだから!自分がどれくらい強くなったか、このジムで試してみたいんです!」

目を輝かせて闘志を燃やしているミツル。おお、ミツルもジムに挑戦することに決めたのか。それじゃあ俺はハルカだけじゃなくミツルも警戒しなくちゃいけないな。
ね、ね、いいでしょう!?と詰め寄るミツルにたじろぎながら、おじさんは渋っている様子をみせる。ミツルが外に出ることに乗り気じゃないみたいだ。

「確かにミツルくんはポケモンと暮らすようになってから、随分と元気になった!だからっていきなりポケモンジムに挑戦なんて…無理していないかい?」
「無理なんかしてません。ぼくとラルトスが力を合わせれば、誰にだって勝てるはずです!」

ミツルはラルトスと随分と仲良くなったようで、自信満々の彼はとても強く見える。だからといって、キンセツジムでラルトスだけというのは無謀だが。
ラルトス以外にもなにかいいポケモンを捕まえたんだろうか、と考えつつ、久しぶりにミツルに話しかける。

「おーい、ミツル!」
「あっ!シズクさん!久しぶり!」
「久しぶり!最初に見たときよりも体調は良さそうだな、ラルトスも元気にしてるか?」

「うん!ぼく、あれから強くなったんだ!ラルトスと一緒に!」

さっきの会話を聞いてたから知ってるさ。ミツルがこれくらい元気なんだから、恐らくラルトスもだいぶ強くなっていることだろう。
嬉しそうにするミツルに、へえ、と返して笑う。ジム戦に挑むってことは、俺と同じくらい強くなっているということだ。

どうやらミツルはおじさんにバトルを見せて、ジムにも挑戦できる強さだということを証明したいらしい。それならちょうどいい。

「俺とバトルだ、ミツル!」
「はい!
…絶対勝とうね、ラルトス!」

ミツルが出してきたポケモンは案の定ラルトス。なら一番タイプ相性がいいのは、悪タイプの技を使えるエポナだ。
エポナを出してすぐに噛み付くを指示。素早さはそれほど高くないが、それでも攻撃力はかなり高い。

右手のも聞けば甘噛みだとか言われたので、こいつの歯はどれだけ鋭いんだと思いつつ治療したものだ。ポケモンって怖いな。
俺が現実逃避をしている間に、エポナがラルトスに飛びかかって牙を剥いた。ミツルの指示を待っていたラルトスは受身を取れずに餌食になる。

エポナの攻撃一発で伸びてしまったラルトスが地面に落ちた。

何も言えない気まずい雰囲気。ミツルも多分ラルトスをちゃんと育ててたんだろうけど、トレーナー歴が割と長い俺の育て方に叶うはずがなかったのだ。

「…えーと、なんか、悪かった」

まさかこんなにすぐやられるとは思ってなくて。心内で怒られても仕方のない言葉を浮かべつつ頬を掻いた。
そもそもを強化しすぎたような気がする。手を抜かないと誓ったばかりだっていうのに、まさかこんな気まずい罠が仕掛けられているとは。

ラルトスを抱えて俯いたミツルは、低い声で「シダケに戻ります」と俺に告げる。
これ、明らかに俺が原因だよな。どうにも後味の悪い結果になりそうで顔をしかめる。

「シズクさん、やっぱりトレーナーってすごいんですね。
ただポケモンと一緒に戦うだけじゃダメなんだ…本当の意味でトレーナーにはなれないんだね」

「お、おう?」

「シズクさん。ぼく…きっともっと…ずっと、ずーっと、強くなります。
たった一度のポケモン勝負で、自分の限界、ラルトスの限界…いろんなことが分かり始めた気がするから」

ミツルはそう言って顔を上げた。涙が目のふちに溜まっていて泣きそうだが、そのエメラルドの瞳には尽きることのない闘志が宿っている。
気まずいと思っていたが、ミツルはそんなこともなかったらしい。責められなくてよかったと思って気づかれないよう息をついた。

「それで、その、あの…シズクさん。もしぼくがあなたに勝つことができたら、ぼくの、お…」

安堵が胸中を占めているところで、ミツルがいきなりなにかの話を切り出す。予想だにしていなかったことで頭が追いつかずに内容が頭を滑る。
いきなり大きく反応した俺は傍から見るとかなりの変人だろう。

「あっいやっ、ごっごめんなさい!何でもないです!今のは忘れてください!」

悪い、聞いてなかった。その言葉を口に出そうとする前に、ミツルは勝手に言葉を撤回してどこかに走っていってしまった。
何だったんだ、今の。