何かを伝えたがっている

助手さんから教えてもらったとおり、流星の滝ではアクア団とソライシ博士が向かい合って何かしらを話していた。

「おい、アクア団!その人を返してもらうぜ!」

アクア団が何を考えているかは知らない。流星の滝にポケモンを捕獲しに来たというわけではないだろう。
博士は握りこぶしほどの石を手に持っている。虹色に光るそれがどんな効果を表す石かはダイゴさんは知っているだろうが、石に詳しくない俺には理解することは難しいだろう。

俺が声を張り上げると、博士に詰め寄っていたアクア団がこちらを向いた。

「ん?なんだ、この生意気なオコチャマは…」

男のほうが眉をひそめてこちらに近づいてくる。ごく自然に伸ばされた手を振り払い、敵であるそいつを睨みつけた。
反抗的な俺の態度に、男のこめかみに青筋がたった。

どうやらこいつら、バトルをしなければ立ち退くつもりはさらさらないらしい。少なくとも、頭に血が昇って周りが見えていない男は確実だろう。
ボールを構え、臨戦態勢に入る。

「ハッ!アクア団サブリーダーのイズミさまもナメられたものだわねえ。
…いいわ!口の利き方を知らないオコチャマには、たーんとお仕置きしてあげないと、ねえ…?」

そんなハスキーな声が聞こえてきたかと思うと、男の隣にもうひとりが並んだ。こちらはかなりスタイルのいい女性だ。敵でなければ見惚れていただろうというほど。
相手が二人共構えたところを見るとダブルバトル。しまったと思ったときにはもう遅い。

二人が一匹ずつ、計二匹のポケモンがこちらを威嚇する。グラエナとベトベターだ。
俺の手持ちはグラエナに強いタイプが多いが、ベトベターには弱い。毒タイプは苦手だということを忘れていた。

タイプ相性は今さほど重要じゃない。けれど下手をすれば俺のポケモンが危ないのだ。
何を出せばいいのかなけなしの頭を回転させていると、誰かが俺の隣にたった。

「随分と悩んでるみたいじゃない?」

顔を上げると、強気な光を灯してこちらを見てくる瞳と目があった。
ピンクの帽子とこの地方ではあまり見かけない金色の髪。すらっとした体つき。カイナで会ったとき以来見かけてすらいなかった少女、セレナである。

突然の登場に驚いている俺を放置して、セレナはボールを構える。いつ始めるつもりなの、という言葉で俺がポケモンを出すときを待っている事を知った。
慌ててコノハのボールを取り、開閉ボタンを押した。

それに伴ってセレナが出したポケモンは前回とは違う、白い猫のような出で立ちをしたポケモン。なんという名前なのかはバトルが終わったあとに聞こう。
二人いるならなんとかゴリ押しでもいける、かもしれない。

「コノハ、グラエナにマッハパンチ!」
「ベトベターにねんりき!」

キノガッサに進化したばかりでパワー十分のコノハが一気にグラエナとの距離を詰める。こうして見ると、進化したエポナをいたぶっているようにしか見えない気がするが目をつぶっておこう。

見た目に反してそれほど素早くないらしいグラエナが吹っ飛ばされ、壁にぶつかる。そこにセレナのポケモンによって宙に浮いたベトベターが追い打ちをかけた。
ねんりきの威力が強かったのか、あっという間に伸びてしまったポケモンに拍子抜けする。

「なっ…!?手を抜きすぎちゃったかしら…!」
「あら、こっちこそ舐めてもらっては困るわね」

子供でも、才能があれば強くなるのよ。
そういった彼女のポーチに視線がむかう。そこには小さいながらもリーグへの挑戦権の証が刻まれていて、彼女の確固たる強さを表していた。

刻まれている模様からしてホウエンリーグのものではない、恐らくカロスのものだろう。
敵であるイズミという女性もそれに気づいたのか、歯ぎしりをしながら戦闘不能になったポケモンを戻す。これ以上戦っても並大抵のポケモンじゃ勝てないしな。

「隕石とえんとつ山の莫大なエネルギーを合わせられれば、あたしらアクア団の望む世界にドーンッと近づくことができるんだ!何も知らないオコチャマもどきがジャマすんじゃないよっ!」

苛立ったように足踏みをしているイズミだったが、洞窟に反響する低い声に表情を変えた。

「ふん…子供風情に手こずるとは笑止なり、アクア団の者共よ」

アクア団の背後から聞こえたそれに視線を向ける。
赤をふんだんに使った衣服。真ん中に立った男性はいささかごついメガネをかけていてインテリな印象を受ける。後ろに控えている人間たちもどこか几帳面そうだ。

少し衣装は変わっているが、この人物にも見覚えがある。マグマ団のリーダーのマツブサだ。
こんなところにマグマ団がなんで、と考えたところで違和感の正体に気づいた。ハルカが話してくれたものとストーリーが違う気がするのだ。

あいつが話してくれた過去じゃ、隕石を取りに来たのはマグマ団ではなかったか?

「フンっ…マグマ団まできやがったか…仕方ないわね…
オイ!とりあえず隕石を奪っちまいな!」

別の考えに頭をとられたその一瞬で、イズミが隕石を奪うように指示を出した。突然のことに反応できない俺とは裏腹にセレナが素早く博士の前に躍り出る。

「邪魔だ!」
「っきゃ…っ!」

しかし所詮は鍛え上げられた男と細身の女、しかも大人と子供だ。セレナが勝てるはずもなく、アクア団に思い切りぶつかられて体をよろめかせた。
男はその一瞬で博士が持っていた石を奪い取った。逃げようとして後ろに下がった博士がその勢いで足を踏み外しそうになるのを慌てて支える。

「ハハハッ!そんじゃーねー!オコチャマアンドマグマ団!
さ、えんとつ山に急ぐわよ!」

アクア団はそんなことも気にすることなく逃亡。ソライシ博士を安全な場所に誘導し、そしてもう一度見る頃には姿かたちもなかった。
どういうことだ。確かあいつの話じゃ流星の滝の隕石を奪ったのはマグマ団で、アクア団はここには出てこなかったはず。

ムロの壁画といいこの出来事といい、アクア団に関することのほうが力が強い関係に変わっているのか?
だとすると、アクア団はこれから一体どんな行動をする?このままいけばアクア団はマグマ団と同じ道もたどるはずだ。つまりグラードンも復活する可能性だって、

想像したらおぞましい一途を辿っていて、気が遠くなりそうだった。
固まったまま動かなくなった俺に影が差す。洞窟だというのに周りが明るいのは発光するコケがそこかしこに生えているからだろうか。

「………私の名前はマツブサ。人間の幸せを追求するための組織、マグマ団の長を勤めている」

先ほどアクア団と対立していた男だった。
どうやら俺の見立ては間違っていなかったらしく、マツブサと名乗った男はリーダーにふさわしい厳格な雰囲気を匂わせつつ俺に告げる。

「見たところキサマらはアクア団と対立しているようだが…まあよい。

アクア団とじゃれあうのは構わんが、くれぐれも我々の邪魔にならぬよう気をつけることだな。
ものの一秒でも我らに楯突こうものなら、このマツブサ容赦はせぬぞ」

言いたいことを言い終えたのか、俺たちの隣をすり抜けてアクア団が消えた方向と同じ方へと消えていく。俺もセレナもそれを追いかけることはせずに見つめるだけだった。