欲したのは強さじゃなくて

アクア団もマグマ団もいなくなった後、博士がふらふらで倒れそうなのに気づいて慌ててハジツゲへと戻った。

「ああ、博士!ご無事でよかった…」
「はは…この子達のおかげでなんとかね」

俺たちが博士を連れ帰ると、その姿を見た助手さんが大急ぎでこちらに向かってきた。助手さんの言葉に博士が苦笑いを浮かべる。
ふらふらの博士をベッドに座らせつつハルカはどこだと辺りを見回すと、連れてきてくれたらしいリオルの隣に座っていた。リオルも少し傷だらけだが無事な様子で安心する。

ようやく一息つくと、博士をさらっていた連中…アクア団の話になる。

「さっきの連中…博士の隕石を使って何をするつもりなのかしら」
「悪そうな人たちだったね…シズクくんも気をつけてね。強いから、あんまり心配はいらないと思うけど」

そういって俺の心配をしてくれるハルカには悪いが、多分これからも関わることはあるだろう。少なくともアジトに潜入するくらいにはなるはずだ。
しかしそんなことをハルカに告げるわけにも行かず、引きつった笑みをこぼしながら頷いた。

博士を連れてくるときについてきてもらったセレナが呆れたようにため息を吐いた。

「どう思ったとしても行く手を阻むのであれば戦うしかないわ。それにあなたは相手に顔を覚えられている…いつ狙われるかわからないわよ」
「それはセレナも同じだろ」
「ダブルバトルに悩むあなたよりは遥かに安全ね」

こいつ、平然と痛いところをついてくるな。こんなやつの友達ってどんな奴か、あってみたいものだ。…コトアってやつか。
少し気になってコトアというやつは見つかったのかと問いかけてみたが、セレナは首を振って見つかってない意を示した。コトアは本当に隠れるのがうまいようで。

険悪なムードを出している俺とセレナの気を紛らわすためか、博士が焦った様子で声を上げる。

「とにかく、助けてくれてありがとうね。本当に助かったよ。
そうだな、お礼にこのわざマシンを受け取ってちょうだい。撃ち落とすっていう技なんだけど」

そういって差し出されたわざマシンのディスクをお礼を言って受け取る。気持ちは嬉しいんだが、恐らくこれは使われることなく終わってしまうだろう。
ハルカのそばにいたリオルが俺に近づいてすねを容赦なく蹴ってきた。フレアに勝るとも劣らない威力が骨を軋ませる。

あまりの痛さにうずくまった俺にリオルが鼻を鳴らした。言葉は発さないが、置いていってしまったことがかなり不服だったらしい。不可抗力なんだから許してくれ。
突然のことで驚いているハルカたち。ああそうか、リオルと行動し始めてから会ったときに喧嘩をしたからハルカも知らないんだっけ。セレナも驚いているのは疑問だけど。

「悪かったって、次からは気をつけるから」
『次にやれば紐なしバンジーだ』
「はいはい」

おそらく冗談ではなく本気だ。このリオルがこういった類の冗談を言っているところを未だに見たことがない。
リオルがさっきの言葉を忘れるまで気をつけておこうと胸に留めておき、痛みをこらえながら立ち上がる。骨が折れているわけではないのは感謝すべきなのかどうか。

俺が無事だということに安心したのかホッと息をつくハルカが話題を変える。

「…ところで、シズクくんはこれからどうするの?あたしはね、次のジムを目指そうと思ってるんだ。キンセツシティはまだだからそっちに向かうつもりなの」

よかったらシズクくんも一緒にキンセツに行かないかな、なんて。
少し頬を染めながら俺にそう聞いてこられて言葉に詰まってしまった。いやだって、一応俺とはまだ仲直りをしてないわけで、だから行ってもいいものかわからないわけで。

中々答えを出さない俺をもどかしく思ったのか、セレナが眉を寄せる。なにか言いたそうにしている。
あー、うー、と言葉にならない声をあげながら頭を掻く。ハルカも段々と不安そうな顔つきになっていく。

「えーと…ご、ごめん」

ようやく口から飛び出した言葉にハルカが肩を震わせた。

「そ、そうだよね、えと、迷惑だったよね、ご、ごめんなさ…」
「この前、お前に本気を出せなかったこと」

え、とハルカが勢いよく顔を上げて俺の方を見る。思わぬ反応に俺のほうが驚いた。

「まだ110番道路でのことを謝ってなかっただろ。次にバトルするときは本気でやるから」
「え…」
「そんで、キンセツ行くなら俺も行きたいんだけど、…ダメか?」

せめてハルカに謝りたかった。キンセツに一度戻ってからフエンに向かうというのも前から考えていたことでもあるし、ハルカが誘ってくれるのなら尚更。
俺の言葉に大きく首を振ったハルカが大声で「全然」と手を握ってきた。お、おう、それはよかった。

「いちゃついてる最中悪いけど、私もキンセツに行くの。良かったら同行してもいいかしら」

セレナが俺の方を軽蔑するように見ながら尋ねる。なんで俺がそんな目線で見られる、というかいちゃついてるってなんだ。別に普通に話してただけだろ。
俺は別にいいけど、とハルカに振ると、少し思案する素振りを見せて頷いた。よし、それなら三人でキンセツだな。

博士の部屋を出るために扉を開けようとノブに手をかける。ひねっていざ外に出ようと押す直前、セレナが「ところで」と口を開く。

「あなたについてきたチルットが外にいるわよ」

扉に衝撃が走り、鈍い音が耳に届いた。まさか。

そのまま勢いでドアを開け切って外に飛び出した。ドアの後ろを覗き込む。
くちばしを痛そうに抑えて涙を滲ませているチルットがそこにいた。どうやら先ほどのドアの衝撃はこれが原因だったらしい。

ざっと見て確認すると、このついてきたらしいチルットもメスだった。本当にメスのポケモンにしか縁が無いようで。
リオルから呆れたような視線をもらいつつ、なんでチルットがついてきたのかを聞いてもらう。チルットは確かに114番道路に生息しているポケモンだが、なんで俺についてきたんだろう。

『エポナに惚れたんだと』

必死にリオルに伝えるチルット、聞き終えたリオルがついてきた理由を教えてくれる。
エポナといえば、確か博士を連れ帰るときにポケモンを倒すためにバトルをしたときに出したような。確かにポケモンから見ればエポナはイケメンの部類だしなぁ。

「よし。それなら一緒に行くか、チルット」
「ちるるっ!」

エポナはハルカが好きで努力してたし、まあ好意を寄せているやつがそばにいるってだけでも嬉しいものだろう。
嬉しそうにボールの開閉スイッチを押すチルットに対し、エポナのボールが反論するようにガタガタと揺れていたが気にしないことにする。精々板挟みにされてしまえ。

大人しく捕まったチルットをわざとエポナの隣に入れてやれば、エポナは諦めたようにゆっくりと揺れを抑えていった。