淡く記された絆から

「それじゃあ私、ジムに挑戦してくる!またね!」

キンセツに来るなりそういってジムの方に走っていくハルカを見届ける。少し長い道のりだったんだが、ポケモンたちの体力は回復しなくても良かったんだろうか。
静止する間もなく消えていったハルカを眺めていたセレナが忙しないわね、と一言漏らした。まったくもってその通りだと思う。

「んで、セレナはこれからどうするつもりなんだ?お前はジム攻略するって素振りはないみたいだけど」

俺の問い掛けに数秒黙り込む。そう、セレナがなぜキンセツに戻ってくるつもりだったのか、俺とハルカは全く知らないのだ。
別に話さなくともいいとは思うのだが、場合によっては同じ場所に向かうかも知れない。別れたあとすぐにまた会うとなると気まずく感じてしまう。

「そうね…このあとはシダケに行って、カナズミの方を回るつもり。今日はシダケで一泊するわ」
「シダケに行ってカナズミ…って、カナシダトンネルでも通るつもりか?」
「ええ、最近トンネルが開通したって話を聞いたから。…コトらしい人物の働きでね」

トーンの下がった声色に背筋が凍る。どうやら見つからなくてかなりご立腹らしい、半年も連絡もなかったら人間ってこうなるんだな。
本当に連絡してやれよ、コトアってやつ。多分これは周りが被害を被るパターンだぞ。

俺にもこれから何をするかという問いが返ってきたので、これからえんとつ山にロープウェイで登ってフエンへと向かう事を告げる。
フエンは温泉町として有名な場所で、えんとつ山の近くにあるのでロープウェイを活用しないとたどり着くことは難しい場所だ。温泉に浸かるために登る人は少なくない。

そしてえんとつ山は恐らく、アクア団かマグマ団に遭遇する確率が高い場所。
前の世界ならえんとつ山にはグラードンが眠っているとされていて、マグマ団はそれを実証してみせた。そこにあいつは立ち会ってしまったというのだからもしかすると。

それに確かあのイズミとかいうアクア団の人間が、次はえんとつ山に向かうと言っていた。タイミングが良ければ再び会うことは確実だ。

「それじゃあここで別行動になるのね」
「ああ、そうだな。流星の滝じゃ世話になった」
「ちょうど鬱憤を晴らしたかっただけだし、気にしなくていいわよ」

それはそれで恐ろしいが。
セレナは懐から一枚の紙を取り出し、俺の方に差し出してきた。受け取って開くとそこには数字が並んでいる。

「私の連絡先。思えばあなたの名前もまだ聞いていなかったわけだけど、信用できそうだし渡しておくわね」
「…言われてみたら、俺が名乗る前にさっさといなくなったもんな」

殴られた。
とりあえず聞こうと思っていた連絡先は手に入れたので、ありがたくカバンに入れて新たな通信機器を買うことを決めておく。マルチナビには通信機能が付いていないのが難点だ。

改めて名乗ってみれば、セレナは渋い顔をして「知ってるわよ」と吐き捨てた。俺もそのことは知っているが、名目上ということで目をつぶって欲しい。
そのままセレナはシダケの方に向かって歩き始め、117番道路に姿を消した。

「…さて、これからどうする?」

ボールに入ったままのポケモンたちに聞けば、我先にと言わんばかりにボールを揺らして言いたいことを主張してくる。そんなにいきたいところがあるのか。
順々に意見を聞いていこうとボールから出してやって、リオルに話を聞いてもらう。

そういえば、この前言葉を習うとか言っておきながらまだ言葉を教えてもらっていなかったような。結構時間がかかるものではないのだろうか。
話を聞こうと近づくリオルに呼びかけてそれを問いかけると、リオルは顎に手を当てて何かを考えたあとにやってみるか、と聞いてきた。

『まずはフレアからだな』
「しゃも。しゃーもしゃも」
「…えーと、行きたい場所だよな?んんー…117番道路?」

二度蹴りをお見舞いされた。
リオルから出された答えは俺の行きたい場所に行けばいいというもの。フレア、最初は俺の言うことなんて聞かなかったのになんていいやつに育ったんだ。俺はそんな風に育ててないぞ。

久しぶりにフレアを抱き上げて次に挑む。次に進み出たのはエポナだ。

がう、と相変わらずの不機嫌な顔つきで睨みつけてくるエポナが静かに吠える。何となくこれは行きたい場所ではないだろうと察してしまった。
エポナの後ろで目を輝かせていたチルットが大きく飛び跳ね、落ち込んでキルリアに進化しているライラの後ろに向かっている。…これは、ハルカに関することでも言ったのか。

もっとハルカがいるときに出せとか、と答えると思い切り帽子を齧られた。これも外れかよ。
リオルが言うには、エポナはチルットを連れてくるのは元々反対だったそうで。そこで言った言葉が「チルットのときのように余計なことをするな」なるものだったらしく。

これはチルットが可哀想だ、今すぐ恋する相手を変えることをおすすめする。

女心がわからないと自負する俺だが、これは友達として考えても酷い。エポナは俺には酷いと思っていたが、まさか他のやつらにもこんな風に接していたんじゃないだろうな。
状況を理解していないらしいピカチュウに問いかけると、それは違うというように首を振られた。

念の為にライラやチルット、マリルやコノハにも問いかけてみたが別にそんなことはなかったらしい。エポナ、お前はどうしてそんな悪い奴に。
エポナはもういいと思ったのか、さっさと後ろに下がってチルットの方に声をかけている。俺には何を言っているのかわからないので話の筋は全く見えてこないが。

リオルが疲れた様子で息を吐いたのが見えたので、全然進んでいない今日の訓練を終わることにする。リオルは今まで歩きっぱなしだったことを忘れていた。

「よーし、それじゃあ屋上に行ってみようぜ。あんまり回ってなかったもんな、キンセツシティ」

ジム戦を中心に回っているので基本はトレーニングが中心となる生活をしているが、たまには息抜きも大事だろう。
それでもいいかと確認を取っても異論は出なかったので、ボールに入れることなくそのまま屋上へと向かう。窓から見える外の景色がどんどん空に近づいていく。

気持ちがいい風が吹き抜ける屋上に出た。空がだいぶ赤く染まってきているのがわかって気持ちが上昇する。
すぐさま手すりの方に走っていくフレアやエポナたちに対し、リオルだけはそばにあったベンチの方に歩いて行った。協調性がないというか、なんというか。

かくいう俺も自転車を漕いだせいでかなりの疲労が体に残っているので、ベンチに座っているリオルの隣を陣取る。久しぶりに休んだのはきっと気のせいじゃないだろう。

カバンから昨日買ってきたモーモーミルクを出してリオルに手渡した。一応ポケモンが摂取しても大丈夫だとは思うが、リオルが好むかどうか。
案の定あまりいい顔をせず受け取ったリオルは瓶の蓋を開け放ってはみたものの、それを飲む仕草は見せなかった。

手すりの前ではしゃぐ自分の手持ちを見つつ、もう一本出しておいたサイコソーダの口を開けた。一口口に含んで喉に流す。炎の抜け道を抜けた時に熱されたのか、温くなったそれはかなりまずい。

ポケセンに付随している冷蔵庫で冷やしなおすことを念頭に入れながらも飲むことをやめずにいると、目の前に誰かが立ちはだかった。

「キミキミ!はいっ!」

小太りのおじさんが顔を赤くさせて、息を荒く吐きつつ何かを差し出してくる。歳は多分40…いや、50代だろうか。随分と興奮している様子だが、一体何を。
俺が状況を理解できないままに握らされたそれはきんのたま。売るとかなり高い代物で、手に入れるのも少し難しいとか聞いたことがある。

「あー、手に持っちゃった!それじゃ、それは今からキミのものだね!」
「え、あの」
「いやーよかったね!おじさんのきんのたま!」

何を言っているんだこの人は。手に持っちゃったって、さっきこのおじさんも手に持ってたじゃないか。
疑問が絶えないうちに身を翻し、いそいそと向こうに走っていくおじさんが何度も「おじさんのきんのたまだからね!」と振り向いては念押ししていく。じゃあ俺に渡すなよ。

何が何やらよくわからないまま手に持たされたきんのたまの意味を理解できずに首をひねる。隣にいたリオルが嫌悪感丸出しでベンチの端に寄っているのはなんでだ。
まさかこれを持っていると呪いがかかるとか…いやまさかな、そんなアイテムはほとんど聞いたことがないし…それが本当にそうだったらどうしようか。

頭を抱える俺の背中をリオルがやけに優しく叩き、遠目にこちらを見ていたらしいフレアたちも戻ってきたが、俺の疑問は解決することはなかった。