窮鼠、猫は噛まれたのだ
ガラス張りの人工的な道を走り、火口がのぞき込める位置まで進む。ポケモンバトルをしても大丈夫な作りをしているとは思うが、割れたらと思うとぞっとする。
アオギリはそんな通路の最端部…マグマが吹き出している火口の中心に置かれた装置の前で画面を見つめていた。
「マグマの奥深くに眠る莫大な力…超古代ポケモンを制御するためのカギとなるとはな…」
超古代ポケモンを制御できるほどの強大な力。それはそうだ、ここにはグラードンが眠っているのだから、カイオーガと同等の力を持っているに決まっている。
ただ、アオギリの発言はグラードンのことを何も知らないように取ることもできる。ムロの石の洞窟といい、アクア団の勢力といい、一体この世界はどうなっているんだ。
疑問が絶えない俺の気配に気づいたのかは知らないが、突然アオギリこちらを向いた。
「あー…オマエ、…えー…
ああ、そうだ!そう!カイナの科学博物館でオレたちの邪魔をしやがったガキンチョじゃねえか!」
またもや癇に障る呼び方をされて、自分の眉間にシワが寄ったのがわかった。イズミといいアオギリといい、いい加減子供扱い丸出しの呼び方はやめてほしいものだ。
俺の近くにきたアオギリが俺の頭を勢いよく叩く。伸び盛りの身長が縮みそうなので叩き落とした。それすらも楽しそうに見てくるのだから、この男の器の大きさなるものがよくわかる。
「オレの前に現れたってことは、イズミのヤツをぶっ倒したってワケかい」
「違う。マツブサが引き受けただけだ」
今頃交戦中だろうが、そんなものは俺には関係ない。今ここでアオギリの前に立っているということが重要だ。
しかしアオギリは俺の言葉が意外だったらしく、ギラギラとした野心が宿る目を見開いて俺の方を見た。
あまり関わったことがない俺でも驚いたほどだ、長らく争っていただろうアオギリにとっては天地がひっくり返るほどのことだったに違いない。
アオギリの視線が俺の体をなぞる。今身にまとっている服を見てその言葉が本当だということを実感したのか、時が経つにつれて俯いていく。何事かと思えば、いきなり上を向いて笑い始めた。
「…ククク……くはっ、…ふはははははッ!
ただモンじゃねえとは思ってたが、なかなかどうして、モノホンだったぜ。まさかマツブサと手を組んでるたあな!」
組んでいないのだが、今俺の状態は虎の威を借る狐だ。マツブサと手を組んでいると思わせておいたほうが物事が円滑に進むだろう。
そもそもこの上着を借りている時点で俺がマグマ団の傘下に置かれているという認識をされていることはほぼ確実。悔しいが、ここは話を合わせたほうがいい。
「…そうさな、モノホンのテメェには少しだけ話しておいてやるか…」
アオギリは独り言のように呟いて、この前ナントカいう博士サマからいただいたこの隕石、と虹色のそれを取り出した。流星の滝で博士から奪い取ったものと記憶が合致する。
「こいつにはな、ある条件で様々な種類に変化する特徴があるのさ。
あるときはメガストーンに…
あるときはキーストーンに…
そしてここ、えんとつ山ならば…」
次々に放たれる言葉をぶれる思考で切れ切れに拾い上げていく。そろそろ水分を取らなければまたあの時のように倒れかけるのは間違いない。
カバンから取り出しておいた飲みかけのサイコソーダを口に含んで流す。弾けながら喉を通り過ぎていく生ぬるい液体が、ひどく甘ったるくて気持ちが悪い。
メガストーンとキーストーン、その二つは最近聞かされ始めたものの名前だ。
カロス地方で見つかったとされるのがメガストーンとキーストーン。その二つと、ポケモンとの間に生まれた絆があって初めて成されるというもう一つ上の進化。
もちろんその進化ができるポケモンは全て発覚しているわけではないし、それに関してのメリットやデメリットは未だ曖昧さを回避できないでいる。
噂によると中にはその進化の姿を二つ持つとされるポケモンもいるというが、進化を目にしたわけでもないので定かではない。
「っと…ふははっ!いけねえいけねえ!これ以上のネタバレはオレたちの物語をつまらなくしちまう。続きは次回のお楽しみ、ってな」
アオギリがえんとつ山では、とこぼしたまま固まっていたかと思うと、思いついたように豪快に笑って全てを流した。
恐らく彼の言うネタバレというのは「自分たちが練ってきた計画を露呈する」という意味で、これ以上話すと自分の身が危ういということを感じたのかもしれない。
「えんとつ山じゃ、古代ポケモンを制御する力を発する…っていうんだろ」
俺に知らせるつもりがないのなら、あえてその答えを出してやればいい。
発した一言、テッカニン顔負けの素早さで表情筋を引き締めたアオギリが俺を睨みつけた。俺が来た時に呟いていた独り言を聞かれているとは思わなかったらしい。
口がつり上がって弧を描く。アオギリにして見れば俺は相当な悪役だろうが、そんなことは関係ない。
「えんとつ山のエネルギーは膨大だ。海を増やしたいお前らにとって、ここは目の上のたんこぶといってもいい。
だから、お前らはえんとつ山のエネルギーを潰すか…奪うか。そのどちらかを選ぶんだろう」
違うか。
問いかけると少し肩を揺らしたアオギリを見て、どちらかの答えが正解だということを知る。
推測をするにしたってあまりにも簡単な場所に答えがある。
マグマ団は陸地を増やしたい、逆にアクア団は海を増やしたい。二つの組織はその理由で争っていて、アクア団リーダーであるアオギリはもちろん海を増やしたいと願っている。
つまりこのえんとつ山という活火山はマツブサにとってはいいものに思えるが、アオギリにとっては邪魔な存在でしかない。
邪魔な存在であるなら、一体この活火山をどうすればいいか。避ければいいのかと聞かれればそれは違う。この山のエネルギーを消しさるしか方法がない。
活火山のエネルギーを止めるためには一つ、アクア団が博士から奪った隕石を使うという手立て。
もちろん俺の頭ではどこをどうすれば隕石の欠片一つでこの暑い空間を変えるのかを理解することはできない。だが恐らく隕石を奪ったということは、ここで何らかのアクションを起こすために必要だということだ。
アオギリは睨みつけてくるのをやめ、頭を掻いて視線を逸らした。
「これは一本とられたってやつか。ガキンチョ…テメェ、中々いいカンしてるんじゃねえの」
「そりゃどーも」
「…んまー、テメェが理解したとしても、そんな細けえこたあいいや。
オレたちにはなすべきことがあり、テメェはそんなオレたちにとってぶっ潰すべきカタキ役、だ。
アクア団リーダーとして、テメェのポケモンもろともバッキバキに揉み潰してやるよ」
男の頭を掻く手とは反対の手がボールを掴む。声のトーンが一段階下がったのがわかり、反射的に掴んだボールを前に出した。
先程まで俺に見せていた気さくな態度はナリを潜め、アクア団リーダーとしてのアオギリが俺を見据えて告げる。
「…来な!」