掴まれた手が熱を持つ
※R15くらいの表記あります。苦手な方は飛ばしてください
「ふう…結構遠かったですね、キンセツシティ。
118番道路…どんなポケモンと出会えるんだろう。楽しみだな!」
早速103番道路から波乗りを覚えさせてキンセツに戻った。こんなに早く使うとは思わなかったから、マリルリも困ったようにしていたのが申し訳ない。
予定ならもう少しゆっくりするはずだったのに、と恨んでも仕方がないことはわかっているので、ミツルが気づかないように小さくため息をついて不平不満を飲み込んだ。
「じゃあシズクさん、ぼくは先に行きますね。次に会ったときには絶対ポケモン勝負しましょうね。絶対、絶対の約束ですよ!」
ミツルはというと、眩しい笑顔をこちらに向けてライバル宣言をして118番道路へと走っていった。本当に忙しない。
こっそりミツルのことをライバル認定しておこう、とマルチナビの登録名を書き換える。ハルカはお隣さん兼ライバルとして勝手に認識しているが、それは余談としておく。
既にキンセツのポケセンで回復を済ませたフレアたちを連れてキンセツの屋上に出た。この前と同じく走っていこうとする八匹をリオルと協力して捕まえ、ベンチのところへ連れていく。
「さて、これから118番道路に向かうわけだが…」
まず考慮すべきなのは手持ちの多さ。九匹も持ち歩いているおかげでボールを装着する部分がなく、交代でカバンに二匹を入れている状態だ。
まずポケモンリーグの規定では手持ちの上限は六匹までとされている。リオル含め三匹もオーバーしているこの状況はあまりのぞましくないだろう。
おそらくどのポケモンにしてもタイプのバランスは崩れない、と思うのだが、いかんせん自信がほとんど無い。「昔」つくっていたパーティとは違うつくりをしているから難しい。
というわけで、バランスを考えても自信がないのだったら、いっそのことポケモンたちに決めてもらおうと提案することにしたのだ。
俺の提案を聞いたポケモンたちはそれぞれに顔を見合わせて沈黙する。決めかねると判断したんだろうか。
『お前なあ』
「な、なんだよ」
『それって、自分たちで仲間外れを選べって言ってるようなものだよ』
リオルの言葉にぐっと詰まった。言われてみれば確かに、一応三匹同時だとはいえ、パーティから外れるということは置いていくということを指し示していることでもある。
置いていかれるのはかなり堪えることは俺自身が知っている。だからここまで連れてきたんだが、これ以上増えたら流石に俺も持ち歩きはできない。
今後手持ちを増やすつもりはない。しかしこんなに連れて行くわけにもいくまい。
俺が決めてもいいものかわからないしどうすればいいんだろうか。ううん、と頭を抱えて悩み続けていると、足を小さな手のひらが叩いた。
「ピカチュウ?」
叩いたのはピカチュウだった。ピカチュウは俺と目が合うとチルットの手(翼?)をとってぴか、と鳴いた。
現状が理解できないままピカチュウを見つめる俺をリオルが呆れたように叩く。手加減してくれているとはいえ、馬鹿力なのは変わりない。
『ボックスで待つってさ』
リオルの伝えてくれた言葉に耳を疑った。ええと、それはいいのか。今までも上手く育てられた自信はないが、多分ボックスに入ったらますます構ってやれなくなるぞ。
一応そのことを言ってみたが、ピカチュウもチルットも異論はないらしい。なんていい奴らなんだ、自ら身を引いてくれるとは。
ボックスと手持ち、なるべく高頻度で交換してやろう。全員同じくらいで一気に育ててやる。
残るはあと一匹かと一息つく。どのポケモンもかなりの頻度で使うとなると、手持ちから外すのは難しいと言える。
『思うんだけど』
「?」
『そもそも俺はコトアのポケモンなんだから、お前は公式戦で俺を使えないんじゃないか?』
…言われてみれば、確かに。
別にボールに入れておかなければならないというルールはない。現にジョウトのリーグで優勝した中には、ボールに入ることを嫌っているピカチュウを扱っている人もいたはずだ。
確かカロスの新しいチャンピオンもバトル用じゃないポケモンを連れていたと聞く。一応申請すればバトル用じゃないポケモンも入れられるらしい。
しかし、リオルは自分が入るためのボールを持っていない。持っていないというよりは本来の持ち主が持っているから俺がボールに入れられないと言ったほうが正しいのだけれど。
ボールを持たないポケモンは申請をすれば入れるが、申請をしたポケモン自体バトルに応じることはできない。つまり俺はコトアを見つけなければ公式戦でリオルを使うこともできないのだ。
意外に呆気なく解決してしまった問題にペースを乱されつつ、ポケセンでチルットとピカチュウを預けることを決めて解散宣言をする。
解散宣言をした途端、各々が行きたい方向に散らばって行った。今回はリオルも風景を見たいのか、少し離れたところへと向かっていく。この前は疲れさせたもんな。
「それにしても、自由すぎないか」
思わずぽつりとつぶやいてしまったのは仕方がないと思う。一応解散と言ってはいるが、そこまで広がるとは思ってなかったぞ。
とりあえずベンチに座って休もうとカバンからサイコソーダを取り出して座る。大分日が暮れてきて赤く染まる空が俺を照らしていた。そろそろポケセンにも向かわなければ。
もう少しいるかどうかと悩んでいると、足音がこちらに近づいて来るのがわかった。やけに慌ただしい足取りだがどうしたんだろうか。
顔を上げて足音の持ち主を確認する。顔を真っ赤にしてこちらに駆けてきたその人影は、なんと先日俺にきんのたまをくれたおじさんだった。一体何を焦っているんだろうか。
「きみっ!今日は来てくれてたんだね!」
「えっと、」
「きんのたまは持っているかい?おじさんのきんのたまはまだ持っているかい?」
荒く息を乱しながら意気揚々と話しかけてくるおじさん。心なしか距離が近い気がするのはなぜか。
つきない疑問を頭に浮かべつつ、とりあえずものを貰った立場のためにそれほど警戒をするわけにもいかないので愛想笑いを浮かべる。
きんのたまはまだ売り払っていない。呪いがかかっているのではないかと思うたびに「これを売ったら不幸がかかるんじゃ」と想像してしまって売ることができないのだ。
落ち着きなく聞いてくるおじさんに圧倒されながらもきんのたまを売ってないことを告げる。
「ああそっか、よかった!おじさんのきんのたま、まだ持っててくれたんだね!」
「はい、それでその、これはおかえ…」
これ以上この気味が悪いアイテムは持っていられない。おじさんは安心したみたいだが、俺としてはもう気が気でない状態だ。
カバンからとりだしたきんのたまを返そうと差し出して、俺を見下ろすおじさんを見上げる。
刹那、俺の肩に手が添えられたと思ったら強く押され、ベンチにぶつけられる。あまりの痛さに歪んだ顔、右手に持っていたきんのたまが滑り落ちた。
なんでこんなことを。いきなりのことで対処ができなかった俺の中で警報が鳴り響く。
視界の端で芝生に転がったきんのたま。日が陰っておじさんの表情が見えにくいが、楽しそうな声色だけがこの状況で異彩を放っていることだけは理解できた。
「いやいや、お金はいいよ!きみがそれを持っていたってことは、僕と同じ気持ちだったってことだろう?
だから…」
痛みに呻いて言葉が出せない。この人は何を言って、いったい俺に何を。
走ったせいなのか、汗ばんだ手が俺の服に手をかける。ゆっくりと捲し上げられる感覚がして鳥肌が立ったのがわかった。え、いったい、何が、
「きみもこういうこと、望んでるんだよね」
頭が混乱してまともに回らない。こいつはいったい何をしたいんだ、俺の服をたくしあげていったい、は、
停止した頭のせいでまともに動けないことをいいことに、湿った指がぎこちなく俺の腹を滑る。耳元で男が息を吹きかけてきた。気持ち悪い、吐きそう、なんで俺がこんなことに。
どうすればいいんだ、どうしたらこの状況から抜け出せる。誰か、
そのとき、男が勢いよく左に吹っ飛んだ。
地面を勢いよく転がっていった男。ベンチには服を上げられたせいで腹を丸出しにした俺。手足が震えてうまく動かせない。
男を殴り飛ばしたのは、こちらの状況を察したらしいリオルだった。リオルは無言で服を戻し、呼吸が浅い俺の頭を軽く叩いてくる。
一定のリズムで叩かれるそれに少しずつ落ち着きを取り戻す。なんでこいつはこんなに落ち着いていられるんだ。
震えが収まらない俺をリオルが慰めている遠くで、フレアたちが男に攻撃を仕掛けているところが見えた。