赤く浮かんで捕まえて
宙を舞い、地面に落ちたのは相手のサメハダー。ライラは肩で息をしつつもしっかりと両足を地につけていた。
ぎゃふん!と女の方からも声が上がり、ダイゴさんも勝ち星を上げたことが知らされる。流れるように協力バトルになったが、どうしてダイゴさんは俺に力を貸してくれたのだろう。
そこまで深く考えることでもなさそうなので言及するつもりもないけれど、別にバトルに加わらなくとも流れはこっちだったはずだ。
頭を悩ませる俺とは裏腹に、負けたはずなのに清々しい笑みを浮かべたウシオが機嫌よく声を上げた。こっちが勝ったが、一見すると向こうが勝ち越したような印象を受ける。
「オウホウ!つええナ!オメえ!おもしれえナ!テメえ!
オレッちはつええヤツ、おもしれえヤツがダイスキだ!だからアオギリのアニイをアイシテル!」
愛してるとまでいうか。
「だからこれカラはテメえらのこともアイシテやるゼ!
次にあったときにはたっぷりモミつぶしてヤルからナッ!」
てめえら、ということは俺だけでなくダイゴさんもか。たまたま引き合わせただけなのに、ダイゴさんも不運だな。
愛するやつを揉み潰すなんて考え方、俺には到底理解できそうにない。ウシオは最後になればアオギリでさえも揉み潰そうとするつもりだという解釈にもなるが黙っておいてやろう。
ひきアゲるゾ、つまらネエしたっぱッ!と、ウシオが俺たちに背を向けてさっさと元来た道を戻り始めた。負けたショックなのか茫然自失としていた女の方も、ウシオの激励で我に返ったらしい。
気の抜けるような返事をしてウシオを追いかける女を見送り、出していたライラの頭を撫でた。サーナイトに進化して俺と同じくらいの身長になったライラは少しなでにくい。
重傷ではないが擦り傷や軽い怪我が目立つので、せめて傷薬で手当してやろうと座らせる。
地面に女の子らしく座ったライラ。傷口に直接触れないように気をつけながら肌の調子を確かめ、なるべく勢いを殺すように傷薬を吹きかけた。ライラは少し肩を跳ねさせた。
俺が傷を手当している間も周りを警戒していたらしいダイゴさんが深く息を吐いて力を抜いた。
「お疲れ様、…えっと、」
言葉を詰まらせた彼に首をひねり、そこでラティオスに助けられる前に名前を教えるだの聞くだのと話していたことを思い出した。
ダイゴさんに名前を教えていなかった。先ほど行き詰まったのは俺の名前を呼ぼうとして知らなかったからか。別に名乗らなくても「キミ」とかでいいんじゃないかと思うんだが。
「シズクくん。やっと名前を教えてくれたね」
名前を名乗るだけでやけに嬉しそうなのはどうしてなのか。こんな子供の名前を知ってどうするつもりなのかは知らないが、とりあえず悪用されないことだけを祈ろう。
まあダイゴさんはそんなことはしないと知っているので特に気にすることでもないが。
「素晴らしい活躍だったよ。このコの持つメガストーンも守りぬくことができたのはシズクくんのおかげだ」
「いえ、俺は別に何も。ライラが戦ってくれただけだし」
なあライラ、と手当中の本人に声をかけてみたが、不満そうにダイゴさんを見ているだけで返事はしない。俺だけが褒められたことが嫌だったらしい。
一応フォロー入れたんだから胸を張ってればいいのに、なんでこんなにダイゴさんに敵意を持つかな。
「そのサーナイト、ボクがしたことを見ていたみたいだね」
「へ」
「ボクがきみに遠慮なく近づいただろう?」
そう言われて合点がいく。そうか、ライラは一応テレパシーで人の感情をキャッチできるんだっけ。それなら俺がこの人に怯えていたことも知っていて、だからこそ気に食わないのかもしれない。
俺の手持ちって頭いいやつ多いな。リオルといいエポナといいライラといい、いつか俺が顎で使われるんじゃないかという不安が膨らむばかりだ。
ライラはダイゴさんが言ったことも理解できているらしい。怪我だらけではあるが、俺の前に立ちはだかってダイゴさんに攻撃しようとする。リオルは全く動こうとはしなかった。
慌てて技を使おうとするライラの前に躍り出る。確かにあの嫌がらせは憤りを感じたが、何もダイゴさんにわざわざ攻撃する理由にしてほしいわけではない。
どうどう、となんとか宥めて怪我の手当てに戻らせる。ダイゴさんは拍子抜けした顔をしていた。
「…何ですか?」
「てっきりまた殴られるものかと思っていてね」
失敬な。今は近づいてきてないし、失礼なことをされたわけでもない。というよりこっちに助力してもらったんだからこうするのは当然だ。
顔を露骨に歪めた俺。ダイゴさんが苦笑いをこぼしたそのとき、いきなり右側からタックルをくらった。
ライラに支えてもらってなんとかバランスをとった俺の隣には、上機嫌で頬ずりしてくるラティアスの姿。敵意は感じられないのだがこの状況は一体なんだ。
よくわからないまま触り心地のいい毛並みを堪能する。
「ラティアスもきみのことを信頼できるトレーナーとして認めてくれたのかもね。警戒をあっさりと解いてるみたいだし」
「へえ…ラティアス、お前いいやつだな」
「?何を思ってるのかしらないけれど、ラティアスもそこまで簡単に認めてくれるわけじゃないよ」
ほら、ボクはあまり好かれていないみたいだ。
ダイゴさんの言うとおり、ラティアスはあまりダイゴさんに近づこうとはしていないらしかった。一応恩人とは言え、想定していない人物だったからじゃないだろうか。
ラティアスはほおずりしていた頭を下に持っていき、腰につけているボールを興味深そうに覗き込んでいる。モンスターボールのことを知らないのか、それとも中に入っているポケモンが気になるのか。
しゅわん、一言鳴いたラティアスの言葉がわからなくて首をかしげた。そもそも、リオルを通じていなければ俺はポケモンの言語がわからないのだ。
『お前の手持ちに加えて欲しいらしい』
いつの間にかとなりに来ていたリオルがラティアスの言葉を伝えてくれる。へえ、自分の意志でついてきてくれるとは珍しい。
そこまで考えてふと、今までの手持ちってどうやって捕まえていたのかを思い出す。半分は戦ってないよな。ほぼポケモン同士で話をつけてきてくれる場合が多かったし。
これ、いつものパターンとほとんど同じじゃないか。いや別にいいんだが。
うろたえつつ空のボールを差し出せば、ラティアスは躊躇いもなくボールのボタンを押した。ラティアスがボールに収まってから赤く点滅するボタン、揺れる球体。すぐに止んだそれに、彼女は本気で俺についてくることにしたのを悟る。
ついてくるといっても、多分ボックスで待機してもらうことになるんだがいいんだろうか。不満に思ったのならあとから進言してもらうことにしておこう。
ボールを懐に仕舞い込もうとして、そういえばニックネームを付けていなかったことを思い出す。マリルリもナックラーもつけてなかったな。早く付けてやらなければ。
「よし、お前のニックネームはティアだ!それにマリルリとナックラーも考えとかないとな」
ラティアス、もといティアが入ったボールが揺れた。どうやらお気に召したらしい。
止めていた手を進ませ、ボールをカバンに放り入れる。ダイゴさんの言葉を信用しているわけじゃないが、ティアはコンテスト向きのポケモンだ。コンディションを整えてやれば挑めるかも知れない。
少年に会ったときにでもティアの意思を聞いてみるか。