持った光を埋め立てる
橋が揺れて擦れる。
「流石だね」
気絶して倒れたカクレオンに一息つき、装着していた機械を頭から外す。ダイゴさんは感心したように拍手を繰り返した。
今回は予想できていたから対処ができたが、これが何の前触れもなければ恐らく負けていたことだろう。それにダイゴさんは手を貸そうとすらしなかったし。
確かに対処法を教えてもらおうとは思っていたが、こんな教え方をされたくはなかった。
「それはデボンスコープといって、姿を隠しているポケモンを見つけることができる優れものなんだ。ボクからきみへのプレゼントだよ」
今適当に決めた様子が否めないんだが。
外したものを複雑な気持ちで眺めていたら、ダイゴさんはなんてことないように「返してもらえるならありがたいけど、さっきの言葉からすると使うだろう?」と言い放った。
ヒマワキジムに挑むためにはあの場所を通らなければならない。他に方法があるならばそれでいいが、今のところこれ以外は見つかっていない。
しかしこれをもらうのは嫌だ。というより、デザインが気に入らないというか。一回使うだけのそれを荷物の中に埋もれさせてしまうというのも気まずい。
「それじゃあ、ヒマワキの道で使ったあとにボクに返してくれないかな。データもとりたいしね」
唸る俺に根負けしたのか、ダイゴさんが妥協案を出してくれた。時間はなさそうだが、どうやら付き合ってくれるらしい。
そのことに感謝しつつ、動かないダイゴさんに近づいて腕を引っ掴んだ。行くなら早めに済ませよう。
「ちょ、ちょっと、シズクくん?」
「?」
「なんで腕を掴んでるのか聞いていいかい?」
ダイゴさんの焦った声が鼓膜を揺らす。なにをそんなに動揺しているのか。
男が苦手だからといって、目を離した隙に逃げられそうなら掴むことくらいはできる。冷や汗もだらだらで呼吸も上手く出来ている自信はないが。震えも止まっていないが。
「このまま、帰るつもり、なら、ゆるさないので、」
ダイゴさんならやりそうだ、というより恐らくやるだろう。神出鬼没なのは今に始まったことではないし、妥協案を出す前は本当に帰るつもりだった。
恐らくこのデボンスコープとやら、彼の趣味や仕事の関係でつくっていたわけではなさそうである。
引っ張る力はかなり弱いが、それでもダイゴさんは俺の歩調に合わせて歩き始める。もう離して逃げ出したい。しかしこのスコープは何が何でも押し返してやる。
俺の執念が伝わったのか、ゆったり引きずられていたダイゴさんが腕を掴んだままの俺の手のひらに軽く触れて言った。
「そんなことしなくとも、後ろからちゃんとついていくから」
そうですか、と返事しようとして、ふと見えたダイゴさんの顔。
彼のかんばせはどこか寂しそうに歪んでいた。
―――
――――
デボンスコープであたりを見渡し、先ほどと同じように発見したカクレオン。見つかったことに驚いて逃げ出していったのは性格の違いというわけか。
大きく息を吐いてスコープを外して壁があったあたりに軽く突き出したが、そこにあったはずの壁は跡形もなく消え去っていた。
「ありがとうございます、こんなところにまで付き合ってもらっちゃって」
「半強制的だった、のほうが正しいけどね」
否定はしない。
デボンスコープをダイゴさんに手渡し、もういちどカクレオンがいたところに手を差し出す。先程と同じように空気をかき混ぜるだけになったそこがどこか物寂しい。
「あんなことしなくても逃げなかったのに」
ダイゴさんが苦笑しながらスコープをカバンの中にしまいこんだ。彼の言っていることはヒマワキ付近まで俺が腕を引いていたことについてだろう。
彼が言うことが完全には信じられないと判断して腕を引っ張っていったが、ヒマワキの手前でどうしても耐え切れなくなって手を離したのだ。もちろんダイゴさんは逃げなかった。
「この機械は試作段階なわけだけど、一応渡す相手もいたんだ。だからきみが要らないというのなら返してもらうつもりで」
「…あの、渡す相手がいるなら俺に渡すのはやめてもらえますか」
相手と俺の心臓に悪い。
「渡す相手と言っても、向こうもそれほど重要じゃないらしいことを言っていたからね。あげる人がいるのならそっちを優先に、とも言われた」
だからきみに渡そうかと思ってたけど…手を出して。
ダイゴさんがポケットから何かを取り出す仕草をしたあと、こぶしを握って前に突き出した。言われるがままに手を下に出せば、彼の手が開かれる。
光の加減によって様々な色を暗く映し出す石。中心には炎のように揺らめく輝きが入っていて幻想的な輝きを放っている。どこか神秘性すら感じるものだ。
「代わりといってはなんだけど、ボクのお気に入り史上、五本の指に入る石だ。きっときみのポケモンも気に入ってくれること間違いなしだろう」
「…は?」
「デボンスコープは受け取ってもらえなかったからね」
いや、石をもらっても嬉しくないというか。それより見覚えがありすぎる形の石じゃないか、嫌な予感が俺の頭で警鐘を鳴らし続けている。
ティアのメガストーンとデザインが似ているのは偶然か?いや、きっとこれは偶然じゃないはず。誰かのメガストーンの可能性はどう足掻いたって拭えない。
慌てて突き返すも、ダイゴさんは頑なにその石を受け取ろうとしない。デボンスコープの時とは違ってやけに強情なのはなんでだ。
「ボクは頑張っているトレーナーとポケモンが好きだから、きみのことはいいと思うよ」
「はあ、それとこれとは話が別ですよ」
「そうかな?どちらにしても、ボクはバシャーモを使うことはないから、そのメガストーンは宝の持ち腐れになってしまうんだけど」
やっぱりメガストーンかこれは!金銭感覚狂ってるんじゃないかこの御曹司、庶民じゃ手の届かないものだって知っててこれか。使わないならなんで持ってるんだ。
ああそうか、この人が重度な石マニアだってことを忘れていた。珍しい石なら尚更自分で発掘してそうだ。
「…ん?」
お互いに一歩も引かない押し問答を繰り広げていると、ダイゴさんが細めていた目を少し見開いて首をかしげた。
「きみのバッグの中…いま、少し光ったような…」
光ったような、とは。何かしらの衝撃で懐中電灯の明かりでもついたんだろうか。
俺が改めて見てみたが、特に光が漏れ出た様子はない。そのことにますます疑問を感じる。
ダイゴさんの見間違いなのではないかともう一度そちらを向いたが、いつもしているポーズでこちら…正確には俺のカバンを見つめながら、何かを考えている。
「この感じは、……?いや、まさかね…」
肝心のところが聞こえなかった。
無駄だと分かっていても、どうしても気になるので訊ねようと口を開いたその時、ダイゴさんのマルチナビがけたたましく鳴り響いた。
肩をはねさせた俺と、なんてこともないようにマルチナビを取って何かしらの操作をし終えたダイゴさん。
「すまない、もう時間がないみたいだ。今日はここで失礼させてもらうよ」
「へっ?」
「それじゃあまた!」
無駄のない動きでボールからエアームドを取り出し、そのまま大空へと消えていったダイゴさん。おい、まだメガストーン返してないんだけど。
なんだか色んな人に役立つものをもらっている気がする。このままだと将来ヒモみたいな生活を送りそうで怖い。…そうならないように努力するしかないか。
とりあえず、次に会ったときにでもメガストーンを返すことにしておこう。あまり使わないわけだし。
これがダイゴさんからの贈り物だと知って、フレアは喜ぶんだろうか。それが一番の気がかりだったりする。