旅は道連れ、世は情け

「私よりも華麗にポケモンを戦わせる人…初めて出会いました…」

目の前で地に落ちたスカイブルーの体を見つめ、ジムリーダーのナギさんはそう言ってバッジを差し出してきた。

「その実力を認め、このジムバッジをお渡ししましょう」

ヒマワキ戦ではフレアが苦手なタイプが多いため、残念ながらバシャーモナイトが活躍する場面はなかった。これからも恐らく使うことはないだろう。
野生のポケモンたちにはフレアが一番なんだが、野生にそれほどの強さを持つやつはそうそういない。チャンピオンもミクリさんなんだろうから水タイプだし。

これこそまさに宝の持ち腐れというものでは、と思いながらも、一応フレアに持たせてはいるが。

「…私に勝利したあなた。これからも更なる高みを目指していくのでしょうね」

ジムバッジを受け取った俺を観察していたらしいナギさんがそんな言葉をこぼす。ナギさんの言うとおり、俺の目指すところはジム制覇で止まらない。リーグ制覇だ。
このまま順調に勝ち進めばいい。アクア団やカイオーガのことも気になるが、一番の目標はリーグでてっぺんに輝くことだ。

「そうしてあなたはいつの日か、大空にさえも飛びたってゆく…そんな予感がします」

頑張ってくださいね。
柔らかく微笑んだナギさんはすぐにそっぽを向いて風を楽しみ始めた。ポケモンの回復はさせなくてもいいんだろうかと疑問に思ったが、回復のタイミングは人によりけりともいうし、俺が口を出していいことでもないのだろう。

ジムから出ると、空は黄金色に染まって木々を暗く照らしていた。ジム戦の突破にも時間がかかったが、予想外のカクレオン騒動にも手間取った結果である。

リオルはイズミの後を追うことが出来ているだろうか。俺たちのことは懸念されていないことは何となくわかっているが、多少なりとも苦楽を共にしたポケモンだ。気になって仕方がない。
今の自分は周りからしてみればかなり変な人間だということは何となく理解できた。

とにかく、いないポケモンのことを考えていても埓があかない。アクア団に接触するのならいずれ戦うかも知れないんだから気を引き締めなければ。

ヒマワキ独特の移動方法でポケセンの前まで降り立つ。息をついたところで、どこか見覚えのある姿が静かに佇んでいた。

「…シャンデラ少年?」

俺がそう呼べば、どこを見ていたかもわからない瞳が徐ろにこちらを向いた。
シズク、俺の名前がか細く呟かれて固まった少年に首をかしげる。今回は変なことはしていないつもりだが。

「ここにはジムしかないのに、なんでこんなところに?」
「これから行く場所のために準備をしてたから」

どこに行くつもりなんだろうか。このあたりに少年が行きそうな場所なんてあった記憶がないんだが、少年のことを無闇に詮索するまい。

「それで、実は少し迷っちゃってて」
「?」
「もし道を知ってるなら教えて欲しいんだけど」

放たれた言葉に呆然とする。迷ったって、道を教えるって、少年は今までホウエンを歩いてきただろうに。俺と同じか、あるいは俺よりこのあたりの土地に詳しいはずなんだが。
確かに俺は昔このあたりも散策したことはあるけど、と考えたところで、目の前の少年が俺と同じく他の地方から来た人間らしいということを思い出した。

そうか、いくら少年が強いトレーナーだったとしても、知らないところでは流石に困ったりもするか。なんというか意外だった。
そういえばマルチナビも使っているところを見た覚えがない。それもそうだ、ホウエンはマルチナビを主流に使っているが、他の地方ではまだ浸透しきっているわけでもないだろう。

知っている場所なら簡易な地図でも描いて渡せるだろうと行き先を尋ねる。

「送り火山」
「…へ」
「送り火山、っていうところに行きたい」

頭を抱えた。
送り火山ならばミナモから行ったほうが近い。だからミナモで準備を整えて送り火山に向かえば良かったのでは。

あとで教えてやろうと心に決め、相変わらず静かな表情の少年の手をとった。どうせ一泊したら俺もミナモの方に行くんだから、少年さえよかったら同行させてもらうことにしよう。
目を瞬かせた少年にその旨を伝えれば、少し考える素振りを見せたあとに承諾をもらった。

「誰かと一緒に旅をするのは久しぶりだ」
「ひさしぶり…ってことは、前に言ってた友達と一緒だったのか?」

感慨深く呟いた少年。思わずその言葉に反応すると、少し間が空いて肯定を示す答えが返ってきた。
フラダリさんのことといい、いくらなんでも自分のことをここまで秘密にすることもないだろうに。

ふと、少年が何かを思い出したようにあたりを見回して俺に問いを投げかけた。

「シズク、今日はリオルが一緒じゃないの?」
「…えっとだな、言いにくいんだけど、喧嘩別れしちゃったんだよ」

今まさに気にしていることをぴたりと当ててくる少年が怖い。少年、実はエスパータイプのポケモンだったりとかしないんだろうか。
先に別の街に行ってる、と、喧嘩した理由を言うのも忍びなくなって話を終わらせた。本当の持ち主のところに戻ろうとするポケモンに追い縋るって、いったいどこのダメ男だ。

少年も深く掘り下げることはしないらしく、ふうん、とどこかほっとしたような色の返事をした。それなら明日の朝にでも出かけようか、とも。
彼があまり深入りするような性格をしてなくてよかった。あまりにもカッコ悪い理由を好き好んで言いたくはない。

そのあとも静かに会話を弾ませていれば、黄金色だった空も群青に染まり、夜行性のポケモンたちが辺りに生えた草木をかき分ける音が耳に届いた。
ようやっとポケセンで部屋をとった俺たちは、お互いポケモンを回復させて今まで起こったことを口にした。会話自体はそれほど久々というわけでもないけれど、夜の部屋で自分以外の人間を見るのは新鮮だった。

「コンディションを整えるのは難しいね」
「ああ。でもその分ポケモンたちは喜んでくれるからな!」
「そっか…うん、実践してみるよ」

ようやくフエンで気になっていたコンディションについての話を終えた時には、既に窓の向こうが闇に包まれていた。そろそろ布団に潜り込まなければ明日に支障が出る。
寝る準備を済ませ、部屋を暗くしたところで心地いい眠気が襲いかかってくる。リオルが早く見つかるといいなと思いながら俺は意識を飛ばした。


 ピッ

「はい」
「明日、私用を済ませてから顔を出します。長い間連絡も取れなくてすみません」
「ええ。きっとシズクは僕たちの力になってくれるでしょう」
「…巻き込みたくないと思っていても、それが叶うような世界じゃありませんから」
「ではまた明日にでも」
「…おやすみなさい、―――さん」

 プツッ ツー…