真実とは予想を超える
案内されたアジトは確かにアジトだった。
町外れの洞窟、入口は見えるが海に囲まれているそこを指さしたリオルは、俺の腰からマリルリ…リライのボールを取って勝手に外へ出す。
リライに波乗りを使ってもらい、その体にしがみついた俺とリオルは洞窟へと突入する。入口はどこから見ても一つしかなく、潜入するには向かない。
しかし見張りは少ないようで、特に止められることもなく簡単に内部へと侵入できた。人気のない廊下にはポケモンの姿も見つからず、当然ボスであるアオギリの姿も見ることはない。
アオギリたちは既に海底洞窟に向かっている。ここの人数が少ないのも、そちらに人員を割いているせいだろう。
アクア団という組織は大勢の団員が所属しているとはいえ、全員がアオギリの思想に心酔しきっているわけではない。休んでいた人間に話を聞けば勤務時間も決まっていない云々といっていた。
流石に重要な仕事をするときは集合をかけるらしいが、幹部のような明確な目標をもって団員に入っている人間は少ない。大抵荒くれ者が集まってできたもののようだ。
なるべく姿を隠してアジトの中を調べる。行った先は様々なものが見つかった。
「プロジェクト…なんだこれ、あ、あぞ…あぞーす?」
『アゾート』
「ぐう…」
プロジェクトAZOTH、ファイルナンバー1。
"全てを始まりに還す作戦・プロジェクトAZOTHを実現するため、カイオーガのゲンシカイキに関する研究をすすめる。
ゲンシカイキはメガシンカとは異なるポケモンの進化の可能性。カイオーガは自然のエネルギーを体内に取り込むことで圧倒的なパワーアップ――ゲンシカイキを果たす。
人とポケモンのエネルギーによって発生するメガシンカと、自然のエネルギーによって発生するゲンシカイキ。ともに大幅なパワーアップをもたらすものだが、用いられるエネルギーは大きく異なっているようだ"
ファイルナンバー2。
"三千年前カロス地方で用いられた最終兵器の威力に注目、その技術を転用したドリル兵器の開発に着手する。
海底洞窟の封印は伝説ポケモンの力で行われている。洞窟内に進むにはそれ以上の力で封印を解く他にない"
『トウカ方面調査隊からの報告によれば、最終兵器の技術についてデボンコーポレーションが秘密を握っているとのこと。団の総力を挙げて技術の獲得に動く…』
「ファイルのデータ記入日は…俺が旅に出てすぐだな」
ということは、一番最初にトウカの森で会ったアクア団はこの技術を奪おうとしていたのか。
他に何か参考になりそうな文献はないかとその本棚をひっくり返す勢いで漁ってみたが、めぼしい収穫はない。また別の本棚を漁ることになりそうだ。
研究室らしき部屋では何かよくわからないスーツが作られていたり、この世界のパワーバランスを関連付けて人工的な藍色の珠が生み出せないものかと模索していたりと忙しそうだ。
たまたまそこにいた研究員さんに聞いてみると、スーツに関してはイズミが手がけているようで、構造は分からないがすごいものに仕上がっているんだとか。
「さすがは元デボンの社員さんですね!」
「…その、イズミサンってデボンの人だったんですか」
「おや?知らなかったんです?」
優秀な人だったそうですよ、と、アクア団の衣装すら来ていない俺に快く教えてくれる彼に少し不安を覚える。確かに教えたところでなんの不利益もないが、それでもこっちは侵入者なわけで。
アクア団の警備はどうなっているんだと敵ながらに心配してしまうのは仕方ないと思う。それでいいのか、悪の組織。
また別の場所は誰かの私室だったらしく、整えられてはいるが生活感もあるような部屋にも足を踏み入れた。
私室の中で気になる部屋は三つ。ホエルコドールの隣に写真立てが置かれていた部屋、サンドバッグとラジオカセットのあった部屋、そして船の模型が置かれた部屋だ。
「この写真に映ってるポケモン…」
『知ってるのか?』
「あ、いや、知ってるってほどじゃない。どっかで見たことある気がするってだけだ」
『ふぅん』
一応ホウエンのポケモンなら大体わかるつもりではあるので、このポケモンはホウエンに生息していないか、あるいはティアやラティオス、カイオーガなんかと同じ、伝説と称されるポケモンの一匹か…
生憎文字は擦り切れていて読めなかったが、映っているのは幼少期のイズミとアオギリとそのポケモンだけだということはわかった。
ラジカセとサンドバックの置かれた私室は誰の部屋かはすぐにわかった。ラジカセのデッキの中には「アニィスペシャルvol.7」という名のテープが入っていたので、あいつ…ウシオの部屋だろう。
一日五千回サンドバッグを殴るってどうなんだろうか。あれほど筋肉が付くためにはやはりそれくらい…
『見るからに筋肉がつかない体してるから、やめといたほうがいいと思う』
「うっうるせー!」
『…気にしてるんだ、それ』
男なら筋肉がついてる体が羨ましくなるのは当然だろう。たとえどんなに筋肉がつきにくい体だとしても。いや、つかないからこそさらにその感情は増すことをこのリオルはわかっていない。
もしウシオにまた会うことができるのなら筋肉の付け方の秘策を聞こうと決心しておいた。
一方というか、どうやらアオギリの部屋らしいところには船の模型などがあるだけだった。サンドバッグなど、体を鍛えるようなものはあまりおかず、執務に必要な机や何やらが置いてある。
奥の方に無造作に置かれたきんのたまを見て少し顔を歪めてしまうのを見たのか、リオルがそれを引っつかんで壁に投げつけた。壁が壊れた。
そういった何でもないやり取りをしつつ奥の方へ向かっていくと、そこはカイナの造船所と同じような作りをした場所につながっていた。
水に何か巨大なものが浮いている。サメハダーをモチーフにしたようなデザインをしたそれは、まるで潜水艦のようだ。…潜水艦?
思わず柵のぎりぎりのところまで行き、その姿を覗き込む。見間違うことはない、あれは潜水艦だ。しかもかなり大型でそれなりの人数は載せられる。
次々に乗り込んでいく団員たち。もしかして、俺が知らなかっただけで潜水艦はまだ海底洞窟に向かっていなかったのか。
それなら、あれに紛れ込さえすれば、と、リオルに話しかけようと顔をそちらに向ける。
『見つけた』
表情を見ることはかなわなかった。
リオルの口からその言葉が発されると同時、想像もつかないような速度で走り出し、俺を置いて潜水艦に続く列に突進していく。
慌ててその後を追いかけ、そして俺はその場面に出くわした。
コトアと叫ぶリオル。そいつに向け、赤い光線でボールに戻そうとするその子供の姿。
緑のピンズがついたベージュのハンチング帽、オリーブ色のフード付きパーカー、黒のチノパンツ、茶色のショートブーツ。黒とオレンジに彩られた肩掛けカバンは適度に膨らんでいて、その様子からも旅慣れていることがわかった。
間違いない。あいつはどう見ても、俺が知っている、
「シャンデラ、しょうねん」