ぴんと張ったねずみ色
「よし、あたしもいーっぱい可愛いポケモン捕まえてお友達になっちゃおう!」
となりでポケモンを捕まえるために意気込んでいるサナちゃんにその意気だよと告げてセレナちゃんが走っていった。目的はやっぱりハクダンの森みたいだ。
ずり落ちてきたカバンの紐をかけ直して、森の入口を見つめる。少し暗そうだ。
「コト、早く森に入ろうよ!」
「サナちゃんも一緒に来てくれるの?」
「…もしかして、一人じゃ怖い…とか?」
いや、怖くはない。けど一人より二人の方が森を抜けやすいのは事実なので、そういうことにして森に進むことにした。
一歩足を踏み入れるとたくさんの草むらが出迎えてくれる。あちこちにバオップやヤナップたちが顔を覗かせて、興味深そうにこちらを見てくるのがわかった。
セレナちゃんが言うには、ここにはヤナップ、バオップ、ヒヤップ、コフキムシなんかが出るとか。もちろん二番通りと同じくヤヤコマもでるそうだ。当面の捕獲対象はヤヤコマくらいだろうか。
久々に感じる冷えた空気を大きく吸い込んだ。森はひんやりとして涼しい所がいいところだ。
「初めて森に入っちゃった…ちょっと肌寒いね」
「カロス自体が気温が低いからね。はい、上着」
「えぇっ!?い、いいよ!」
「風邪ひいちゃったら元も子もないんだから、ほら」
長袖の僕は涼しいくらいで終わるけど、半袖の上にスカートなんて常夏の格好してるサナちゃんには少しきつい。上着は持ってないとダメだろうに、どうしてそんな格好できたんだろうか。
無理やり上着を押し付け、草むらを覗き込む。ポケモンの種類もだけど、同じ種類でもやっぱり体型が違っていたりする。ヤヤコマはちょっとスレンダーなものが好ましい。
サナちゃんも似たように覗き込みながら捕まえるポケモンを定めているようだ。
「んー…なかなかいいヤヤコマがいないなあ」
「ピカチュウもいないね」
サナちゃんがちょっと残念そうに呟いた。ああ、ピカチュウは個体数が少なめだから、あんまり姿を見せることもないんだと思う。リマなら相性がいいな…
襲いかかってくるポケモンを撃退しながら進み、お互いに目的のポケモンを探す。
「やっぱり選り好みはダメかも。次に襲ってきたポケモンでも捕まえることにするよ」
「えーっ!コトってば、何も考えずにゲットしちゃうの!?」
「だってこのままじゃ森は抜けられないよ。僕、こだわりが強いタイプなんだよね」
「じゃあ捕まえても意味ないと思う!」
サナちゃんの言っていることは正論だ。うん、たまたま通りかかった人を刺しましたーなんていう状況と一緒だからね。それでずっと一緒にいられるかと言ったら微妙なところだ。
けど、この辺りに出てくるポケモンは大体ジムでも有利に戦えるから、そのあとに逃せばいいんじゃないかなとか思うこともあるわけで。こだわりを追求し続けると一日じゃ終わらないし…森での野宿はなるべく控えたい。
「それじゃあ森を抜けるまでに良さそうなのがいたら捕まえる」
「うんうん!それがいいよ!」
満足そうに頷くサナちゃんを見て、改めて目の前にある草むらを見つめた。だいぶ逃げたらしく、草が擦れる音が少ない。
先に森の中に入ったティエルノくんやトロバくんの頭がちらほら覗いていた。捕まえるコツや、ポケモンの状態をぶつぶつとつぶやいているのが聞こえる。
と、そこで大きく草むらが揺れた。生い茂る緑の中に潜んで色はわからない。そのことからして小柄な方のポケモンであることは確かだ。
急いで揺れた辺りまで走る。掻き分けられ、姿を現したそのポケモンは、
「…ぴ、ピカチュウだー!」
「ぴぃか!?」
後ろから感嘆の声が上がった。それもそうだ、今まで見つからなかったポケモンがようやく見つかったんだから、嬉しさに声を上げるのも仕方がない。
野生のピカチュウはそれに酷く驚いたみたいで、慌てて草むらの奥に進もうと身を翻した。道のない方へ進まれると、僕たちは迷ってしまうので先に進めなくなる。サナちゃんもそれがわかってるみたいで困惑するように足を止めた。
でも僕はピンと来た。あのピカチュウを捕まえたい。さっきのピカチュウの毛並み、耳の形、そして手の形。僕にとってはストライクも同然。
きっとここで逃がしてしまえば長らく人のいる方へは来ないだろう。来たとしても、僕より先にゲットしてしまう人がいるかもしれない。
「サナちゃん、ちょっと待ってて!」
「え、あっ!ちょっと、コトー!!」
「すぐ戻ってくるからー!」
少し重いカバンをサナちゃんに向けて放り投げた。持つのはリマの入ったモンスターボールと、空のボールを幾つか。コウとセイも後ろから追いかけてきてくれるはず。
見失わないように黄色の背中を睨みつけつつ、僕はひたすら暗い森の中を走り抜け始めた。