捕獲したい一心は

「待って…っ!まっ、ピカチュウ!」

電光石火に負けず劣らず、ポケモンの動きは素早い。人じゃギリギリ追いつけないようなもので走っていくピカチュウと、コウとセイで邪魔をしながら距離を詰めていく僕。子供としての体力はそれなりにある方だと自負している。

ピカチュウも僕がしつこく追ってきていることがわかっているのか、わざと人が通りにくそうな方向を選んで走り回っている。おかげで頬も手もカスリ傷だらけだ。
いい加減立ち止まってバトルに応じてくれないかな。そう思っても伝わらないのがこの世の辛いところだ。

「コウ!セイ!こうなったら行き止まりまで誘導するんだ!」

「ぶいっ」「こん!」

なんとしてでも捕まえたい。それにはバトルにならなきゃ捕まえにくい。つまり、バトルをせざるを得ない状況に追い詰めたら勝ちだということだ。
あんまり乗り気じゃないポケモンにたいしてすることじゃないけど、僕はこのピカチュウじゃないと捕まえる気が起きないのも事実。この機会は絶対に逃さない。

二匹にそう命令を出したとき、不意にピカチュウが止まった。驚いて僕も足をとめ、攻撃しようとしていたコウとセイも驚いて技を不発にさせた。
少し息が切れているピカチュウ。しかしこちらを見たときにはその目に敵意を滲ませ、僕たちとのバトルに応じようとしていた。なるほど、確実だけど体力と時間を使う逃げ方よりも短時間で退ける方を選んだってことか。

あたりは木が生い茂っていて、逃がしてしまえば追いつくことは困難なこと間違いなしだ。目を凝らせば至るところに段差ができている。右側は崖みたいで、地面が途切れた向こうは鬱蒼と生えた木々が頭を覗かせていた。
左側も中々壮大なものだ、草よりも木の幹が太くてとてもじゃないと通れない。養分が多いんだろう、この辺の土は。

ピカチュウの頬袋からぴりぴりとした電流が発される。どうやらバトルはコウかセイが受けて立つと思われているようだ。
しかし、その考えは甘い。ピカチュウとのバトルで相性がいいポケモンが手持ちにいるのに、どうしてそれを使わないっていう考え方があるんだ。

「出番だよ、リマ!」

モンスターボールに入っているパートナー、リマを出す。勇んで出てきたリマがピカチュウをひと睨みした。

一触即発の空気が漂う。どちらがいつ攻撃するかわからない。
しかし、ここで僕は指示を出すつもりはない。声を出すだけで相手が防御体制を取ることは目に見えているからだ。先手必勝とはよく言われるけど、この場合は後手の方が攻撃につなげやすい。

ピカチュウの頬袋から発される電流が音を立てた。貯めていたそれが満タンになった証だ。
刹那、勢いをつけてピカチュウが走り出す。進行方向にはリマが点在している。

「リマ!」

咄嗟に叫ぶと、リマは素早く左に飛んだ。飾りのような部分が硬くなり、攻撃態勢に入ったことが見て取れた。
しかしそんなことは向こうも想定内だったらしい、リマが元いた位置を通り過ぎ急停止をする。そこからわずか0コンマ1秒の間を置いて電撃を放った。十万ボルトほどの威力はないので、おそらくこれは電気ショックなんだろう。

思いもしない後ろからの攻撃に、リマが動揺してバランスを崩した。ピカチュウの口がいじらしく笑う。
しかし、そこで終わると思ってもらっては困る。

「リマ!つるのムチで地面をたたけ!」

「はりっ!」

体から出したつるで地面が勢いよく叩かれ、そのせいで落下していたリマの体がもう一度宙に放り出された。微小なタイムラグでも、直撃よりはマシだ。
電流はえぐられた地面に突き刺さり、同じ場所の土を削り取る。土埃であたりが見えにくくなってしまったが、それは相手もだろう。スピードといい威力といい、それなりのモノを持っているのは明らかだ。うん、ますます欲しくなってくる。

そこからリマが反撃を開始する番だ。指示を出すと同時につるでピカチュウをぐるぐる巻きにする。完璧な不意打ちのおかげで無事にピカチュウ捕獲。
未だ暴れるピカチュウに向かってボールを構える。僕たちと鬼ごっこをした分も体力は減っているだろう。

「いけっ!もんすたーぼー…」

る、までは言えなかった。

地面が小さく揺れたかと思えば、リマの立っているところが音を立てて崩れ落ちたのだ。足場が一瞬で無くなってしまえば受身もすぐには取れない。
ピカチュウもつるのムチで拘束されたままで、リマと一緒に落ちていく。そこはつるのムチを解いて欲しかった!

考える間もなく一歩を踏み出し、なすすべもなく落ちていく2匹を追って崖の下へと飛び出した。