キャンプをしましょう

特に取り繕うこともないだろうと判断して、憮然とした表情のピカチュウを紹介しようと口を開いた。

「その子は野生のピカチュウだよ。ここまで道案内してくれた」

「捕まえてないの?すごいねぇ」

捕まえようとしたら逃げられて、しかも散々な目にあったからもういいかな。こんなやんちゃな子は育てられる気がしない。
いい加減痺れを切らしたらしいコウとセイが勝手にボールから飛び出し、僕の前に座ってくつろぎ始めた。葉っぱは付いているものの外傷はなさそうだ。

そこでやっとピカチュウにお礼を言ってないことに気づいた。確かに歩き始める前にも言ったが、最後にもお礼くらいはしておかなきゃいけないだろう。元はといえば僕が追いかけたのが原因だったし。
カバンからオレンの実を取り出してピカチュウに差し出す。

「ぴか?」

「ここまで連れてきてくれたお礼。バトルでお腹すいちゃっただろうから」

「…ぴ」

なんだと言わんばかりの鋭い眼光にたじろぎそうになったのをなんとか耐える。この子、なんだか僕には愛想が悪い気がする。ティエルノくんだったらキョトンって見てただけなのに。
流石にあんな追いかけっこをするような人間には嫌悪感満載だろうけど、ここまで露骨にされると傷つくんだけど。

ひったくるように手の上にあったオレンの実を取ったピカチュウ。尻尾を揺らしてかぶりついていた。
一応食べてくれたので安心して、そして森の中を改めて見渡してみる。

「夜になって、ますます暗くなっちゃったね」

「ええ…今日はここで休みましょ。体もぼろぼろな人がいるしね」

誰とか聞かなくても僕だってわかる。知ってるよ、この森って突っ切るだけなら半日とかからずに出られることくらい。
見ると既に二つのテントが張られている。焚き火でもするんだろう、比較的火がつけやすい小枝が付近に山積みにされていた。苦戦しながら火をつけようとした跡も見える。

「コトは青のテントで寝てね!」

「わかった。ところで、みんなはご飯食べたの?」

食べてるならこっそり携帯食料でも食べようかな、さっき焼くと美味しい木の実見つけたんだけど。

お腹が限界を訴えてきている僕がそう告げる。すると全員が体を強ばらせ、そっぽを向いた。夜の森が静寂に包まれる。
え、どうしてみんなそんな反応なの?ま、まさか僕をそっちのけにいいものでも食べたの?あ、それはあり得なさそうではあるような…誰か喋ってよ。

痛いほどの沈黙のあと、きゅう、と可愛らしい音が鳴った。セレナちゃんが顔を真っ赤にしている。

「…火が、付けられなくて」

渋々といった感じで放たれた言葉は予想外の言葉だった。まさか、火をつけられなくて途方に暮れていたとか、そんなものだったんだろうか。
ちゃんと考えたらすぐだっただろうになあと思い、頬が緩むのを抑えられないまま、僕は「ご飯、食べよっか」とみんなに誘いをかけたのだった。

「っていうか、炎タイプなら火くらいは吐けるよ?」

「あっ」

「か、完璧に見落としてた…」

だと思った。気づいてたらセレナちゃんのフォッコで爛々と火が灯っていたに違いない。
セイに火を点けてもらいながら、治療のときに地面に置いていた木の実を洗う。レベルアップしたらしいサナちゃんのケロマツから水をもらった。

「あとは串に刺して…っと」

「コト、随分旅慣れしてるのね…」

「そう?キャンプとか何回かやってるから、そのせいかも」

気の抜けた笑顔でそう言って、木の実を焼く準備に入る。早くしないとお腹と背中がくっつきそうだ。

「セイ、火炎放射!」

「ろこっ!」

「え!?ちょ、木の実燃えちゃうよ!?」

「誰かコトを捕獲ー!!」

「て、ティエルノくんに飛び火しましたーっ!」

ふざける僕たちを慌てて止めようとする四人。別に火炎放射で炙るだけだから燃やさないのに、混乱しているところを見るのがあまりにも楽しかった。
服の裾が焦げて固まっているティエルノくんに、それを見て震えるトロバくん。息を切らしたセレナちゃんと僕に怒っているサナちゃん。

四人がそれぞれの反応を示すもので、なんだか面白かった僕はずっと笑い続けていた。