炎の色は思い出色

食事も一段落した頃、みんなでどんなポケモンを見たか話していると、サナちゃんが大きなあくびをこぼした。

「ふぁあ…ねえ、そろそろ寝ない…?」

どうやら相当眠気を催しているらしい。見るとティエルノくんも船を漕ぎ始めているし、トロバくんは目を瞬かせている。手持ちポケモンを増やすだけじゃなく、僕のことも探していたんだから疲れているのは当たり前か。
三人をそれぞれのテントに押し込んだあと、すみっこでうずくまっているセレナちゃんを見る。眠そうな様子は見えない。
セイとコウも青のテントに潜ってしまって姿は見えなくなっていた。

「寝ないの?」

セレナちゃんと焚き火を挟んで向かい合わせで座る。静かに音を立てる炎を何の気なしに見ていると、セレナちゃんは不思議そうに問いかけてきた。
眠そうに見えない、というか今寝てない人に言われても…。

「セレナちゃんこそ、寝ないの?」

「私は見張りをしてるだけよ。いつポケモンが襲ってくるかわからないから」

「ふーん…」

「コト、休めるうちに休んでおいたほうがいいわ。特にあなたは怪我だらけだし」

怪我だらけなのは否定しない。でもそれと疲労感は関係ないから無視をしておく。
というか、ここは女の子に見張りを頼んじゃいけないだろう。ひょろっとしているとはいえ僕は男なんだから。

煌々と燃えている炎から少し離れたあたりで、安心するように例のピカチュウが眠っている。人に慣れてしまったみたいで、随分と油断しているようにも見える。…多分、触ったら起きるだろうから近づかないけど。

「…ピカチュウ、随分と懐いたわね」

「え?」

「サナから聞いたのだけど。このピカチュウ、随分と人を毛嫌いしてたらしいじゃない」

「ああ…多分僕に借りがあるから、って思っておとなしくしてくれてるんだよ」

「一体何をしたの?」

「バトルして捕まえようとしたらちょっと、ね」

流石にちょっとした崖から落ちたなんて言ったら睨まれるに違いない。怒られるのは戻ってきてからの一回で十分だ。
詳しく聞けなかったことを不満に思ったらしい、セレナちゃんは目を細めて顔を背けた。
数分後。長い沈黙に耐え切れなくなった僕は少し眠そうなセレナちゃんに話しかける。

「…セレナちゃんも疲れてるだろうし、仮眠とってきなよ。僕が眠たくなったら交代してもらうし」

「コトには言われたくない」

「えー、ひどいよ」

「酷くないわ。コトの方が疲れてるんじゃないの」

「疲れてないよ。今は目が冴えてるんだ」

なんでもない会話を交わしながら、どちらが寝るかを討論する。とはいっても、多分セレナちゃんの方が先に寝てしまうことは確定だ。本人も無自覚だけど、返しが簡単なものになってきてるし。
きっと受け答えしなくてもいい話をしていたら寝ちゃうんだろうなあ。優越感に浸りながら視線をそちらに向けた。

「…何?」

「んーん、別に」

「そう」

視線に気づいたセレナちゃんは必死そうに目を開けてこちらを見てくる。本格的な睡魔が襲ってきているらしい。
僕は重たい腰を上げてセレナちゃんに近づく。ピカチュウの耳がひくひく動いているのを見て、警戒していることがよくわかった。

「…コト?」

「ほら、もう眠いでしょ?ちゃんと寝ないと明日が辛いよ」

「ん…まだ、起きとくわよ…」

「見張りは僕がしておくから、今日はちゃんと休んで」

肩に手を回し、セレナちゃんの体重を背中にかける。おんぶの状態で赤いテントまで歩き、なるべく物音を立てないようにセレナちゃんを寝かせる。サナちゃんも幸せそうに笑いながら熟睡していた。
…いくらテントだからって、ここまで深く眠るのも危なそうだ。ティエルノくんとトロバくんの様子も見に行ってみたけど、かなり揺さぶらないと起きないくらいには眠っている。

「ぴか」

明日起こすのが大変そうだな、と思いながら青いテントから出ると、そこには目を覚ましたピカチュウが鎮座していた。結構驚いた。
相変わらず僕に対する態度は変わらないらしく、特になんとも思っていないような表情で顔を背けられる。いや、なんで背けられたの。

「君も早く寝ないと、明日が辛いよ」

「ぴかぴぃか」

「…起きとくの?」

「ぴ」

どうやらこの子も見張り番として起きることにしたらしい。たしかにセイとコウは熟睡していたし、リマもボールから出してすぐに起きて戦えるというわけじゃない。だから起きててくれるのは嬉しいけど、出来たら寝ていて欲しい。
焚き火の前に座ると、ピカチュウも隣に来て座った。特に何をするわけでもないピカチュウがなんだか不思議に思えた。

その夜、僕はピカチュウと一晩を過ごした。