エレクトロニクス
日が昇ったところで、僕はみんなを起こすためにテントをめくった。まずは男子の二人からだ。
昨日使ってほったらかしにしていたフライパンとお玉を持ち、テントの前に立つ。ピカチュウには耳を塞いでおくように言っておいて、両手のあいだを軽く開けた。
がんがんがんがんっ!!
「二人共、起きろー!」
「わばぷっ!?」「んぎっ」
個性的な叫び声が上がって二つの寝袋が跳ねた。こんなに刺激的な起こされ方はされたことがないみたいで、寝袋が右に左に転がっている。
うるさいのは僕も確認済みなので耳栓をつけているけど、そんなものを持ってない2人には鼓膜が破れそうなほどやかましく聞こえているのだろう。
ちゃんと起きたことを確認して叩くのをやめると、ティエルノくんとトロバくんが寝袋から這い出てきた。足取りがおぼつかないのはさっきの起こし方が原因だと思うけれど、それはぐっすり寝ていた二人が悪いということにしておく。
「おはよう、二人とも」
「おはよー」
「コト、酷いですよ…」
非難めいたトロバくんの視線から逃げるためにさりげなく顔を逸らした。
この森を抜けたら僕たちはそれぞれの目的に向かって旅立つのだから、僕みたいに起こす存在はいない。彼らはそれを分かって言っているのだろうか。まあ少々やりすぎた自覚はあるが。
二人に顔を洗ってくるように告げてテントの外に出ると、赤のテントの方からセレナちゃんとサナちゃんが目をこすりながら出てきた。男子に対する起床アラームで目が覚めたみたいだ。
サナちゃんからとても騒がしかったというお叱りを受け、耳をふさいでいたはずのピカチュウからもジト目で見られた。
女子二人にも身だしなみを整えるように告げ、野宿で出た残骸を片す。土や養分になりそうなものは道の端の方に、ゴミになりそうなものは袋に。次の街で捨てればいい。
「コト、もしかしてずっと起きてたの?」
黙々と放置されていた荷物をたたんでいると、まだ眠そうなセレナちゃんが眉をひそめて詰め寄ってきた。
これはまずい。徹夜してましたって正直に告げればどうなるかわかったもんじゃない。万が一そう答えてしまったあとのセレナちゃんは恐らく不機嫌になってしまうだろう。
セレナちゃんを視界に写した時、わずかに見えた黄色い影。そうだ、ちょっと悪いけど利用させてもらおう。
「ピカチュウがずっと見ててくれたんだ。仮眠はとってるよ」
バレないだろうかと内心冷や汗が止まらない。なるべく普段通りを心がけてはいるんだけど、僕はあまり嘘を付くのは得意じゃないから。
幸いにもセレナちゃんは、そうなの、と言って他の場所を片付けるために方向転換した。彼女は見た目によらず嘘を暴くのは苦手みたいだ。これからの旅でそういうのを見破る力もつくんだろうけど、これからの旅が安全にできるかどうか不安が募る。
きっとこれからの課題になるんだろう。
「よーし!今日こそは森を出て街に着くようにしちゃおー!」
「おー!」「はい!」
目が覚めたらしい三人も元気よく声を張り上げた。朝からはしゃいでるなあ。少しは寝てても眠い僕には到底無理なはしゃぎっぷりだ。
片付けも終わり、出発の準備も整ったところで、僕は未だに一緒にいる黄色い存在に気づく。そういえばさっきもテントの片付けとかを手伝っていたような…帰るタイミングでも見失ったのだろうか。
「昨日はありがとう。僕たちはもう行くから、君はもう」
「ぴぃか」
野生に帰ってもいいんだよ、と言おうとした矢先、ピカチュウは空のモンスターボールをこちらに転がしてきた。カバンの中身を確認したら僕の持ち物だった。
「えっと、ありがとう?」
「ぴか。ぴかぴぃか」
「…?どうしたの?」
ピカチュウからモンスターボールを受け取ってカバンに仕舞おうとするとズボンの裾を引っ張られる。何か言いたそうにこちらを見てくる黒い瞳だけど、僕には何を言わんとしているかわからない。
動くこともできずにどうしようか悩んでいると、頭に乗っていたはずのセイがピカチュウの隣に降り立った。コウも逆隣に並んでいる。
三匹からの訴えがわからないことをここまで恨んだことはない。とりあえず撫でて欲しいんだろうか、と三匹をそれぞれ撫でていると勢いよく噛まれそうになった。地味にポケモンの恐ろしさを実感する。
そうこうしている内にまたもやはぐれそうになっている僕にしびれを切らしたのか、セレナちゃんが少し苛立った様子で戻ってきた。そして今置かれている状況を見て目を丸くする。
この状況は僕は悪くないはずだ。わけもわからないまま怒っている三匹を目の前にしているのだから。
「…あなた、相当鈍いの?ピカチュウはあなたについて行きたがってるみたいよ」
「え」
「モンスターボールを差し出したっていうことはそういうことでしょ」
呆れたようなセレナちゃんの声。それに同意するように三匹は首を縦に動かした。
なるほど、さっきのモンスターボールは僕が拾い忘れていたわけじゃなくて、ピカチュウが差し出すために取っておいたものだったらしい。最初が最初だったし全然そういう考えにはたどり着かなかった。ごめんピカチュウ。
ピカチュウの方向にモンスターボールを構えると、彼女自身がボールのスイッチを入れる。ボールに吸い込まれるようにして入ったピカチュウはおとなしく、捕獲完了まで点滅する光もなんの抵抗もなく消えた。ピカチュウが僕のポケモンになった証だ。これでこの森での希望は叶えられたといってもいい。
セレナちゃんも捕まえる様子を眺めたあと、座っていた僕に手を差し伸べた。
「全く、バトルもしてないのにポケモンをゲットするだなんて」
「いや…一応、したといえばしたんだけど」
「どっちにしても、そのピカチュウはバトルじゃなくて他のところにあなたの魅力を感じたんじゃない?もうちょっと誇ってもいいと思うけど」
「それはそれで複雑なんだけどな」
細い手を掴むことはなく、自分の手をついて立ち上がる。ズボンが草だらけなのが気になるけど、払えばある程度はおちるだろう。
ニックネームは付けるの?というセレナちゃんからの疑問により、僕のゆっくりとした思考回路は仕事を開始した。
「そうだね、ピナって名前にしようか。よろしくピナ」
ボールの一つが答えるように動いた気がした。