必然を求めて
それから歩いてすぐ、僕たちは無事に森を抜け出すことができた。ピナを捕まえるのにどれだけ時間をかけたのかわかってしまうくらいあっさりと抜けられる。
上から降り注ぐ日の光を浴びてサナちゃんが伸びをした。森はすこしだけ寒かったけど、ぬけたら柔らかな日差しが暖かい。サナちゃんに貸していた上着も用済みとなってしまった。
「ねーねー、これからみんなはどうするの?」
サナちゃんが僕たちを見ながらそう聞いてくる。確かに、一応同じ街から出発したとはいえ、五人でずっといる必要はない。自分たちの好きなときや好きな場所に旅立っていいという開放感はかなり強いだろう。
それでもこうして五人で出てきたのは、恐らく僕も含めた全員が心細いと思っていたからだと思う。記念すべき旅立ちの日だけれど、今まで親に面倒を見てもらっていた自分たちがすぐに順応できるかと言われれば否。多少の不安はあったはずだ。
けれど森を抜けてしまった。一晩、親がいなくても大丈夫だった。だから一応旅はやっていけるのだとそれぞれが実感した。
そしてこれからやりたいことは人それぞれ。目的によっては敵対してしまうことだってある。もうこうして仲良しこよしで旅をする必要もなくなってしまった。
聞かれたことは何気ないものだったろう。けれどそれは、僕たちが別の道を歩いていくのだという現実に気づくためには最も適した疑問だった。
「もちろん、ポケモン探しです!博士に頼まれたことですから」
トロバくんはもらったばかりのポケモン図鑑を大事に握りながらそう高らかに宣言する。なるほど、言われたことをきちんと成し遂げたいというトロバくんらしい。トロバくんは将来ポケモン研究員になりそうなほどの勤勉さが売りだ。
他にも聞けばティエルノくんは綺麗な踊りをするためにポケモンの動きを学びたいんだとか。ポケモンダンスに興味をもっているらしい、へぇ。
セレナちゃんは言わずもがなジムに挑戦。サナちゃんはまだ悩んでいるらしかった。
「そうそう、渡し忘れてたわね。はい」
と、そこでセレナちゃんが何かを差し出してきた。サナちゃん、トロバくん、ティエルノくんがそれを受け取り、僕も最後にそれを手にとる。小さなメモのようなその紙切れの上には、
「探検の心得、10ヵ条…」
「トレーナーに役立つ10ヵ条をこのメモに書いてあるの。最初に見ておくといいわよ」
どんなことが書かれているのかと思ったら、僕でも一応知っている基本事項がそこに書かれていた。セレナちゃんはそれを書き出してくれていたらしい。マメな人だ。
ティエルノくんとトロバくんがそれを珍しそうに眺めているのと裏腹に、サナちゃんはそれをあまり見ようとはしなかった。
「…うん、決めた!私、ケロっちと向き合ってみる!」
「頑張ってね。
…ところで、コトはどうするの?」
サナちゃんは自分のポケモンと向き合う旅に出る、か。中々いい旅になるんじゃないかな。
みんなはちゃんとした目標があっていいなと思っていると、セレナちゃんが不思議そうに僕に問いかけてきた。そうか、答えていないのは僕だけか。
とりあえず無難なことでも言っておこうかとも考えたけれど、しっくりくる理由もあるわけじゃない。かなり頭を回してもそれほどいい答えが見つからなかったので曖昧に答えておいた。
みんなはそのことについて追求はしてこなかった。
「それじゃあみんな、一旦ここでお別れなんだね」
「そうなるね。それじゃ、僕は先に行くよ」
新しいポケモンに出会えるだろうか。まずはプラターヌ博士のところに行かなきゃいけないけれど、それまでに見ておけるポケモンは図鑑で調べておきたい。
地図を開いてどうやって向かうかを確認しつつ、迷うこともないよう道路に沿って歩く。
ハクダンから続いている道は4番道路と22番道路。そこに生息しているのはエネコ、フラベベ、レディバ…色んなポケモンが生息しているみたいで何よりだ。しかもフラベベはちょっと場所が変われば色も違うんだとか。
まずはミアレに行くほうを優先したほうがいいかな。だったら22番道路を後回しにして、4番道路を先に制覇しておこう。
目指すは白のフラベベ。何者にも染まらない白さっていいよね、と完結して4番道路に向かう。
そういえば、他の地方ではポケモンコンテストなんてものもあるんだっけ。そういうのに出てみるのもいいな。
「あら、あなたポケモントレーナー?」
4番道路に向かう途中、そう言って呼び止められた。こげ茶で長い髪を後ろでまとめている。パッとみた感じは新聞記者のようにもみえる。
「…えーと、」
「あっ、紹介が遅れちゃったわね。私はパンジー!ミアレで働いてるジャーナリストよ」
ミアレシティで働いている、パンジーさん。新聞記者だと思っていたけど少し違ったらしい。
パンジーさんは僕に色々と聞いてくる。今日のポケモンの調子はどうか、どんなポケモンを使っているか、ポケモンフードはどれを与えているか、他にも色々と聞き出された。
なんだろうこの人、何がしたいんだ。
もしかして不審者だろうかと引き気味に答えていると、いきなりパンジーさんは僕の腕を掴んできた。
「あなた、ジムに挑んでみる気はない?」
「…は?」
「ジムよ、ポケモンジム!このハクダンにはポケモンジムがあるのは知ってるでしょ?そこ、実は私の妹がジムリーダーなのよ!」
一応知っているには知っている、けれど僕は別にジムバッチが欲しいだとか、ポケモンリーグに行きたいとか、そういう理由でポケモンを持っているわけではないのだ。
それだけはなんとかお断りしようと思ったのに、パンジーさんは期待に満ちた目でこちらを見つつ「どう?」と聞いてくる。断りにくいことこの上ない。
この人、どうしても僕にジムに挑戦して欲しいらしい。なんでかは知らないけど。
「あの、僕は別に、」
「え?ああ、もしかして挑戦するためにポケモンを捕まえに行くの?4番道路のポケモンはタイプ相性がいいってわけじゃないわよ」
「そうじゃなくて…」
「ハクダンジムは虫ポケモンが中心!飛行タイプとか炎タイプとか…あと、岩タイプなんてポケモンがいればオッケーよ!」
だから、ジムには挑みたくないんだって。
僕の心の訴えはどうがんばっても通じてくれないらしい。世界中のポケモンを持っている人が今すぐハクダンジムに挑めばいいのに、そんな希望は叶うはずもなく壊れた。
勢いに押されて何も言えなくなった僕に満足したのか、パンジーさんは元気よく4番道路に続く道のところに立った。どうやら僕が挑戦しに行くまでそこを動かないつもりらしい。なんということだ。
これは、22番道路の方に行って迂回したほうがいいだろうか。かなり遠回りになってしまうが仕方ない。
パンジーさんに見えないように深いため息をつき、僕はジムの近くから続く22番道路への入口に向かって歩き始めた。