行き着く先は

赤と白を基調としたボールに小さな体が収まるのを確認し、点滅していた光が消えたのを見計らって拾い上げる。
ハクダンの森に近い草むらで捕まえたのはヤヤコマ。レベルの心配はあるけれど、虫ポケモンのジムに挑むためのポケモンは揃った。あとは挑戦するだけだ。

「そういえば、ヤヤコマにも名前つけなきゃね。何にしようか」

ボールを見つつそんなことを呟けば、案を出すようにセイとコウが両側で騒ぎ始めた。生憎僕には何を言っているのかわからないけれど。
とりあえずポケモンセンターに戻って回復をしよう。先程まで戦ってくれていたリマも疲弊しているし、全員が元気を取り戻してから決めるのがいい。

そうなるとジムは明日になるかな。
暗くなり始めた周りを見渡し、宿に戻ることを決めた。明日ハクダンを攻略したらすぐに街から出るし、荷造りも済ませておくか。

「おいで、ヤヤコマ」
「やこっ!」

早速ボールから出したヤヤコマは僕の帽子の上にとまった。傷だらけで戦える余裕はそれほどないみたいだけど、普通に過ごす分については問題ないみたいだ。とはいえ疲れているのは明らかだけど。
明日のジム戦はどういう順番で行こう。ヤヤコマとリマは確実に出すとして、ピナは一旦休ませることにしようか。セイも出来ることなら戦わせたい。

セイとコウをボールに戻し、傷だらけのリマを抱える。傷薬で応急手当をしたあとにポケモンセンターへと走った。


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持っていた鍵を使って、昨日から借りている部屋へと足を踏み入れた。白くて質素な空間が僕たちを出迎えてくれるのに少しだけ悦びを覚える。
旅を始めて三日、やっとポケモンたちと旅に出ている実感を得た。

アサメから出たその日は新しい友達と一緒だったし、小さい頃によく参加していたキャンプの色が濃かったから、なんだか今日が旅立ちの日のような錯覚を覚える。実際にはそんなことはないんだけど。
膝に寝転んだコウとセイ、ピナの毛づくろいをする。今日はほどほどに戦わせたので、いつもなら整っている毛並みもボサボサになっていた。

窓の外を見ると日はとっぷりと沈んでいた。街の至るところで光が瞬いている。
時計の針が午後六時を指しているのを確認して立ち上がった。そろそろお腹もすいてきたし、外でご飯でも食べてこようかな。ハクダンシティでは何がおすすめだって言われてたっけ。

財布と軽い荷物を持って戸締りをする。護衛も兼ねて3匹のボールを持ってポケモンセンターから出ると、夜に似合った冷たい風が横に吹き抜けていった。少し肌寒い。
セレナちゃんたちは今頃何をしているんだろう。ティエルノくんはポケモンセンターで宿泊しているのを見たけど。

「ねえ、キミ」

さっさとご飯を済ませて帰ろう。そう思いつつ足を前に出していると、僕の目の前に誰かが立ちはだかった。
黄色いヘルメット。肘と膝を守るためのパッドに、体育会系を思い起こさせる服装。そして履いているシューズは、ローラーシューズ。

この人、普段ローラーシューズで移動してる人なんだ。まず抱いた感想はそれ。あとは特に見覚えもなかった。
こんな人が一体僕になんの用があるというのか。首をかしげる僕に、彼女は目を輝かせつつ近寄ってくる。距離が近いような気がするのは気のせいか。

「キミ、ローラーシューズ持ってないでしょ?」

「え、ま、まぁ」

「勿体無いよ!キミ、これで滑るのに向いてそうなのに!」

押し売りにあってる気分だ。
どこかの宣伝なのか、目の前の女の人は僕に延々とローラーシューズの魅力を語ってくる。なるほど、僕はローラーシューズを買うように促されているわけか。

才能があるとかないとかは自分にはわからない。でも自転車がない今、ローラーシューズは移動をスムーズにしてくれるいいものだ。時間があるときにでも買おうかとは思っていたけれど。
けど今はご飯を先に食べたい。お金も十分に溜まっているわけじゃないし、ここは悪いけど断らせてもらおう。

「えっと、用事があるので失礼します」

「え!?ちょ、ちょっとまって!本当にちょっとでいいの!ね、お願い!」

ちょっとバトルするだけでいいから!
女性の口から出た言葉に頭がフリーズする。バトルをするだけ?なんで。そもそも僕がバトルができるだなんて確証もないのに。

疑問が顔に出ていたのか、女の人は気まずそうに「腰のボール」とだけ言った。ああそうか、特に隠してるわけじゃなかったからすぐにわかったのか。
一対一でいいから!と何度も頭を下げる彼女、そして下げられている僕。周りの視線が痛い。

このままだとレストランまでついてこられそうだと判断して、渋々その条件でバトルを受ける。この街は押しが強い人間が多いなぁ。

「いけっ、ジグザグマ!」

相手はノーマルタイプのジグザグマを出してきた。ジグザグマ、本物を見たことはなかったけれど、毛がふわふわしていて触り心地がよさそうだ。
残念だが、ジグザグマと相性がいいタイプは手持ちにいない。格闘タイプでも捕まえるのは今度にしようかと思っていたけど、ジム戦が終わったらすぐにでも捕まえに行こうかな。

「セイ、GO」

今の手持ちの中で一番レベルの高いセイをボールから出す。すぐに臨戦態勢になれたということは、やはりセイも彼女の話を聞いていたらしかった。
しかし僕やセイの表情には、バトルに対する緊張感というものはほとんどない。このバトルに勝っても嬉しくはないから当然だろう。

さて、どうやったらバトルに勝てるだろうか。