近くてもどかしい距離

ジム戦は危なげなく勝った。

「あなた、すっごく強いのね!思わずシャッターきっちゃったわ!」

パンジーさんの妹だという人、ビオラさん。彼女は腕のいいカメラマンでもあり、ジムリーダーでもある。実はビオラさんが撮った写真をパンジーさんが新聞で使う、ということもあるんだとか。
バグバッジを貰って建物から出た。日が照っていて気持ちがいい。

時計を見たらそろそろ三時くらいかな、と思いつつ、ポケモンセンターにリマたちを回復させに行く。一瞬頭をよぎった青い体のポケモンは思考から打ち消した。
あれはやり過ぎたかもしれない、でもあれくらい言っておかないとあのリオルはジム戦までついてきただろう。流石に野生のポケモンを建物の中に入れるのは危険だと思ったし、そもそも僕はあのリオルを捕まえるつもりはなくて。

振り払ったはずの問題が頭の中をごちゃごちゃとかき回す。ああもう、うだうだと考えてても仕方がない。どうせあのリオルだって、僕に失望して野生に帰ったに違いない。
ポケモンセンターに戻っても、見覚えのあるリオルの姿は見えなかった。

「なんだ」

ちょっと肩に力が入っていたみたいで、息を大きく吐いたら一気に肩が落ちた。なんだ、リオルは野生に帰ったのか。
会わなくてよかったという安堵。リオルは僕のことなんか気にせずに、もっといいトレーナーと旅をするべきだ。きっともう少し待ったらいい人とも出会えるだろう。

リマたちを回復させて、いろんな人でごった返しているポケモンセンターを去った。昨日のうちにまとめておいた荷物もちゃんと持って、さあ4番道路に行こう。

「あら、バグバッジ!本当に妹に勝っちゃったのね」

「一応…取ってこないと、パンジーさんは通してくれなかったでしょうし」

「よくわかってるじゃない」

4番道路の手前にいたパンジーさんに話しかけたらこれだ。やっぱり僕がジムに挑戦しない限りはここを通すつもりが無かったらしい。
呆れを感じていても、彼女はそんなことを気にした風もなく僕に何かを差し出してきた。思わず手を出して受け取る。

「これは?」

「学習装置よ。持ってスイッチを入れたら全員に経験値が入るって仕組みなの」

「…ああ、なるほど」

これでポケモンの育成を楽に出来るっていうことか。持っていても支障はないし、小型だし、この機械は相当優秀だな。
でもこれを僕に渡したのはどういうことか。パンジーさんの持ち物だろうに。

少しの間学習装置を眺めて、持ち主だろうパンジーさんに返そうと手を伸ばす。パンジーさんは手を引っ込めたまま、学習装置を受け取ろうとはしない。

「あの、」

「それはコトアくんへの餞別よ。これからも旅を続けるんでしょう?」

私はもう使わないの、といって、パンジーさんはにこりと笑った。確かに僕は旅を続けなきゃいけない。でも僕だって別に、学習装置を使おうとは思っていない。

「気持ちは嬉しいんですけど、僕は、」

「あら、人が贈ったものを突き返されたら悲しいわ」

「…でも」

パンジーさんは僕が引き下がらないことを悟ったのか、学習装置を返す前にさっさとハクダンシティの町並みに消えていった。
これじゃあますます返しにくくなってる気がする。本人は返すことを望んでいないみたいだったけど…

仕方ない、また会ったときにでも返そう。珍しそうに学習装置を覗き込んでいるコウとセイを無視してカバンに仕舞い、4番道路を駆ける。
ジム戦までに数日を使ってしまったし、できるだけ早く行かなければ。

4番道路の終わりが見えて、やっとミアレシティに続く建物が見えた。ここさえ通ればあとはもう研究所は目と鼻の先だ。
そういえば、僕ってプラターヌ博士の研究所の場所を知らないような…ミアレで訪ねたら教えてくれるだろうか。五人で一緒に向かえばよかったなあ。
道路からミアレへ入るゲートに、白い服を着た男女が見えた。

「そこのあなた、」

そこを通り過ぎようとしたら勢いよく腕を引かれてバランスを崩した。ローラーシューズは直前で外したから良かったもの、下手をすると一大事だったな。
腕を引っ張っている人物は予想していたとおり、白を基調とした服を着てゲートの前に立っていた二人だった。

僕になにか用事でもあるんだろうか。

「キミは、フラベベというポケモンをご存知ですか?」

「フラベベ?」

フラベベならこの草むらに出るらしいけど。
この人たちはフラベベを探しに来たんだろうか。それはいいと思うけど、もしかして僕も一緒に探してくれとか頼むんじゃないよね。一応用事があるんだけど。

と、不意に男のほうが僕の腰…についた、ポケモン図鑑を抜き取った。なぜか手馴れた風に操作を始める。なんで慣れているんだ、いや、その前にそれって、

「個人情報なんじゃ…」

「おや、まだ出会っていないみたいですね」

図鑑を戻してきたので受け取る。別にこれくらいの情報は知られても構わないけど、トレーナーカードはもう少し奥に入れておくことにしよう。
腰に図鑑を付け直して、目の前で笑う二人を見る。この胡散臭い二人はいったい何がしたいんだろう。

「なんと!フラベベはフェアリータイプですのよ!」

「フェアリータイプというのは、最近分類されたばかりのポケモンのタイプで」

「タイプの相性を見直すきっかけになりましたのよ!」

そういえば、確かに。
フェアリータイプは近年で発見された新しいタイプだ。前まではポケモンのタイプ相性は昔からので親しまれてはきたけれど、最近じゃ耐久値や攻撃力、道具でも説明がつかないときが出てきて、研究されてようやくタイプを確立したって聞いたような。

けれど今はそれがどうして語られているかということで。

「あたくしたち、プラターヌ博士に頼まれて、フェアリータイプを他のタイプのポケモンと戦わせていましたの。
麗しいあたくしの麗しい名前はジーナ!」

「ぼくはデクシオ。
二年前、プラターヌ博士からポケモンと図鑑を託された…いうなれば、キミたちの先輩です」

「え…ええ?」

先輩。僕たち五人よりも先に図鑑を持って旅立った人たちがいたんだ。別の地方でもいるとは聞いているけど、こんなにすぐ会えるとは思っていなかった。
道理で図鑑の操作も手馴れているはずだ、同じものを二人共持っているんだから。

驚きでうまく言葉が紡ぎ出せない僕に、先輩二人は人当たりのいい笑みを浮かべながら手を差し出した。