仲間入りの足音

挨拶も終わってメイスイタウンに向かう。アサメの小道は丁寧に道路補整がされていて、ポケモンの住みにくい部分になっていた。
念のために腰に巻いたボールを片手に歩いていると、僕の名前を大声で叫ばれた。

「こっちこっちー!」

場所はわかったものの、大声で名前を叫ばれるのは恥ずかしい。被害を最小限に抑えるために走っていけば、なんと僕のことを話していたとまで言われてしまった。

その空気を壊すために椅子に座り、正面を向く。線の細い橙色の髪をした男の子が、どうも居心地悪そうに座っている。多分新しく入ってきた人間…つまり僕…の存在がどうしても気になるみたいだ。

しかし空気を読まないのか読めないのか、サナちゃんはそんなことは気にもとめずバンバンと机を叩いている。

「サナ、ちょっと静かにしてて。
…紹介するわ。この人が新しく引っ越してきたコトア」

「コトアといいます。よかった、男の子もいて」

「?」

「あ…いや、男一人だとちょっとなって…ごめんね」

しまった、ちょっと失言。別に女の子がいてもいいと思うけど、いくらなんでも女の子だらけは辛すぎる。その分割合が3:2でほっとしたところは大きかった。
弁解を入れると隣から呆れたようなため息が聞こえた。僕がつきたいよ、ため息。

そのあと紹介があったのは二人共男の子だ。
ダンスのことばかり考えている、ちょっと大柄な男の子がてぃ…てぃ…てぃえるの、くん。ティエルノだね、ティエルノ。

もう片方、僕の正面に座っているのがトロバくん。頭がいいんだって。
なんだかトロバくんって、トロイの木馬を省略したような名前だね。ちょっと思ったけど黙っておく。

「あのね、仲良くなるためにニックネームつけたいんだけどいい?」

「いいよ」

「やった!んー…ねえ、コトやんなんてどう?」

コトやん…それはちょっと、なぁ…
苦笑いをこぼしながらどうしようかと悩んでいると、じれったそうに立ち上がった人がひとり。そう、サナちゃんだ。

「えーっ!絶対コトタロがいいよ!男らしいし!」

「お、男らしいかなそれ」

男らしいとは流石に言い難い。それになんだかちょっと…不格好というか…
独特なネーミングセンスなんだけど、僕にはあんまり似合わない気がする。それとあまり男らしくされても困る。笑われるから。
頷かない僕にしびれを切らしたらしいサナちゃんが視線を向けたのはトロバくんだ。

「トロバはどんなのがいいと思う?」

「えっ!?ぼ、僕ですか…?初対面の人にそういうことはあまりしないんですが…

えっと、それでは控えめに、コトP…なんてのはどうでしょうか?」

「…どう呼ばれたいかは自分で決めてみるといいよ」

トロバくん、どうしてPを付けたんだろう。それがどうしても異彩な輝きを放って何とも言えないことになっている。
僕の抱いた感想を悟ったらしい、セレナちゃんが養豚場の豚でも見るように哀れな視線をくれながら救いの一言を発した。サナちゃんたちも僕が決めることに賛成みたいだ。
とは言っても、この中から選ぶというのも気が引ける。どれも呼ばれるにしては微妙な域を出ないし。

「無難にコトでいい、んだけど」

「えーっ!絶対コトタロがいいと思ったのにー!」

「あんまり男らしいニックネームは好きじゃなくて…それに、コトだけだとみんなのつけてくれたニックネーム共通でしょ?」

「そうね、こっちのほうが呼びやすいかも」

「じゃあコトアのことはこれからコトって呼ぶよ。よろしく、コト!」

ティエルノくんは順応性が高い。というか、ニックネームが決まればそれでよかったみたいだ。サナちゃんはまだちょっと不満そうだけど。
それより、早く本題に入らないのかな。僕としてはそれが気になるんだけど。