Look

ほらよ、と、傷だらけの携帯を渡してやると、そいつは目を瞬かせてから笑った。

「充電が切れてるだけだった」
「それだけだったのか!やっぱり、これは使いにくいな」
「アホか」

聞けば買い換えてからはバーボンやライに充電してもらっていたらしい。あんまり使う機会もなかったからとだらしなく笑みを浮かべて、電源の入った携帯をおぼつかない手つきで操作し始めた。嘘は見られない。
変えたばかりの割にはやけに傷だらけなことを指摘すると、何回か地面に落としてしまったと言った。スコッチは意外にも抜けているようだった。

メールでも作成しているのだろうか、やけにのろのろとした動きで画面を弄っているところにバーボンがやってくる。

「何してるんですか、スコッチ」

携帯を触るスコッチが珍しかったのか、バーボンは眉を顰めている。しかし当の本人は気にした素振りもなく「データの確認だよ」と告げた。

「バックアップは取ってねぇんだから、これ以降変に壊すなよ」
「わかってるって」
「…その携帯、旭が直したんですか?」
「ん?ああ」

といっても充電しただけだが。
バーボンは眉間の皺をさらに濃くしてスコッチを、あえていうなら彼が持つ携帯を睨みつけた。何か気に入らないところでもあったのだろうか。
とりあえず、スコッチへの用件は終わったので立ち去ることにして、これからのことを考えることにする。

何やらスコッチとバーボンが珍しく言い争いを始めたが、俺はそれを聞こうとはしなかった。
データのバックアップは取っていない、と言ったが、データを覗いていない、とは言ってないことを、果たしてあいつは理解していたのだろうか。
信頼を裏切るように、俺は使い古した携帯を取り出して告げる。

「スコッチはNOCだ」


―――
――――
スコッチがNOCであることを密告した相手はライだった。
ライは少し間を置いて「そうか」と淡白な返事をして、どう始末をつけるかと話を振ってきた。あまり動揺はしていなかった。

俺は少なからず動揺していたのか、軽く噂を流して泳がせよう、その後の経過を見て始末する、と、意味のない提案をしていた。ライもなぜか俺の案に賛成した。
噂を流してほんの少し、スコッチは自分が置かれた状況を理解できたらしい。ある日遅くても返ってきていた返信がパタリとやんだ。

そのことをライに伝えて、こっそり付け回していたスコッチを追った。カンカンカン、音が鳴る階段を疎ましく思いながら、スコッチが屋上に飛び込むまでを見送る。
階下の廊下に身を隠し、スコッチにつけておいた盗聴器の電源を入れた。修復した携帯に少しばかりおまけを足しただけで、他は何もいじくっていない。スコッチはおそらく気づいてないだろう。

ざざ、ざざ。
砂嵐に紛れて聞こえる会話に耳を澄ます。

「…!」

聞いてはいけないことを聞いてしまったと、慌てて耳にはめたイヤホンを外そうと手を伸ばす。そんな、まさか。震える指先がことごとく狙いを外す。
苦心している俺の向こう側、非常階段を昇る音が聞こえてきた。組織の誰かだろうかと一瞬意識をそらす。

何かが破裂する音が聞こえた。

「っスコッチ!」

階段に飛び出し、足音の主を追う。いきなりの情報に頭がパンクしそうで、外れにくいイヤホンのことなど頭からすっ飛んでいた。
動悸が激しい。心臓が体を突き破ってきそうなほどに強く脈打っている。いきなり走ったからか、酸欠で頭がぐらぐらと揺れているのが分かった。

そこにはバーボンと、ライと、スコッチがいた。
スコッチは血にまみれて死んでいた。死体の前にへたり込みそうだった。スコッチは快活に笑っていた顔を無表情に固め、静かに息を引き取っていた。
バーボンは必死に呼びかけているが、見るだけでわかる。もう心臓は止まっていた。

ライはいくつかの言葉をバーボンに投げて、俺のほうには携帯を手渡した。修復しろということなんだろう。

ライの背中を睨みつけるバーボン、動かないスコッチを見つめる俺。
俺たち四人の仲は崩壊したも同然で、それを壊したのは紛れもない俺自身なのだと、現場は静かに語っていた。