コナラ&サザンカ02
「隕石とえんとつ山の莫大なエネルギーを合わせられれば、あたしらアクア団の望む世界にドーンッと近づくことができるんだ!何も知らないオコチャマもどきがジャマすんじゃないよっ!」
苛立ったように足踏みをしているイズミ。彼女らの望む世界はこの世のバランスを崩してまで叶えることなのかすらわからないのに、そんなものに協力できるわけがない。
それに博士を騙して連れてきたんだから相応のことをやり返したっていいじゃないか。
にらみ合いをする俺たちに終止符を打ったのはひとつの声だった。
「ふん…子供風情に手こずるとは笑止なり、アクア団の者共よ」
低く落ち着いた音が洞窟に反響する。アクア団の背後から聞こえたそれに視線を向けた。
赤をふんだんに使った衣服。真ん中に立った男性はいささかごついメガネをかけていてインテリな印象を受ける。後ろに控えている人間たちもどこか几帳面そうだ。
少し衣装は変わっているが、この人物にも見覚えがある。マグマ団のリーダーのマツブサだ。
こんなところにマグマ団がなんで、と考えたところで違和感の正体に気づいた。ハルカが話してくれたものとストーリーが違う気がするのだ。
あいつが話してくれた過去じゃ、隕石を取りに来たのはマグマ団ではなかったか?
思わず視線をずらした先、マツブサの隣にいる人物にも目を疑う。マツブサの上着らしきものを羽織っていて違っていたが、あまりにも強烈な印象だったから覚えている人物がそこにいたのだ。
「フンっ…マグマ団だけじゃなくコナラまで…」
イズミが恐らく少女の名前らしいものを呟く。それに反応して屈託のない笑みを浮かべる少女は間違いなく、カイナの造船所でアオギリと一緒にいた彼女だ。
なんで彼女がマグマ団に。アオギリと共にいたからアクア団の一人かと思っていたが、そういうわけじゃないのか。
「仕方ないわね…
オイ!とりあえず隕石を奪っちまいな!」
別の考えに頭をとられたその一瞬で、イズミが隕石を奪うように指示を出した。突然のことに反応できない俺とは裏腹にセレナが素早く博士の前に躍り出る。
「邪魔だ!」
「っきゃ…っ!」
しかし所詮は鍛え上げられた男と細身の女、しかも大人と子供だ。セレナが勝てるはずもなく、アクア団に思い切りぶつかられて体をよろめかせた。
男はその一瞬で博士が持っていた石を奪い取った。逃げようとして後ろに下がった博士がその勢いで足を踏み外しそうになるのを慌てて支える。
「ハハハッ!そんじゃーねー!オコチャマアンドマグマ団!
さ、えんとつ山に急ぐわよ!」
アクア団はそんなことも気にすることなく逃亡。ソライシ博士を安全な場所に誘導し、そしてもう一度見る頃には姿かたちもなかった。
どういうことだ。確かあいつの話じゃ流星の滝の隕石を奪ったのはマグマ団で、アクア団はここには出てこなかったはず。
ムロの壁画といいこの出来事といい、アクア団に関することのほうが力が強い関係に変わっているのか?
だとすると、アクア団はこれから一体どんな行動をする?このままいけばアクア団はマグマ団と同じ道もたどるはずだ。つまりグラードンも復活する可能性だって、
想像したらおぞましい一途を辿っていて、気が遠くなりそうだった。
固まったまま動かなくなった俺に影が差す。洞窟だというのに周りが明るいのは発光するコケがそこかしこに生えているからだろうか。
「………私の名前はマツブサ。人間の幸せを追求するための組織、マグマ団の長を勤めている」
先ほどアクア団と対立していた男だった。
どうやら俺の見立ては間違っていなかったらしく、マツブサと名乗った男はリーダーにふさわしい厳格な雰囲気を匂わせつつ俺に告げる。
「見たところキサマらはアクア団と対立しているようだが…まあよい。
アクア団とじゃれあうのは構わんが、くれぐれも我々の邪魔にならぬよう気をつけることだな。
ものの一秒でも我らに楯突こうものなら、このマツブサ容赦はせぬぞ」
言いたいことを言い終えたのか、俺たちの隣をすり抜けてアクア団が消えた方向と同じ方へと消えていこうとする。
しかしそれを遮ったのは何を隠そう、アクア団ともマグマ団ともつかない少女だった。
「その子、アオちゃんも気にいったトレーナーさんだよ」
「…何?」
少女の言葉に、背を向けていたマツブサが素早くこちらを振り返る。眉を顰めて不信感を丸出しにしているが、少女の言葉はあまり疑っていないらしかった。
アクア団ともマグマ団とも取れない少女。アオギリにもマツブサにも親しげに話していて発言力も申し分ない。彼女はいったいどういった立ち位置なんだろうか。
マツブサは離れかけていた距離をまた縮めるようにゆっくりと歩いて戻ってくる。眉間に皺を寄せた気難しい表情のままだったが、その目には少女への信頼がちらついていた。
「キサマが…なるほど、あいつが気に入りそうな小僧だな」
あいつとはアオギリのことだろうか。
「わたしはコナラ。アオちゃんとマっちゃんに気に入られたきみの名前は何かな?」
マツブサの隣に並んだ少女、コナラは人当たりのいい笑顔でそう告げる。アオちゃんとマっちゃん…仮にも団体を纏めるリーダーのような人間、しかも年上のやつに随分とフレンドリーというか。
関係性が全く見えず、しかもここで自分のことを紹介してきた意味も分からず。名前を教えるべきか否かを悩んだが、少女はそんなことを気にすることなく手を差し出してきた。
反射的にその手を取ろうと右手を挙げる。俺の右手はコナラの手を掴む前に横へと弾き飛ばされた。
セレナの手が浮いていた。普段からつり目がちな目が剣呑な光を宿してコナラを睨みつけている。そこまで警戒しなくともいいんじゃないか?
コナラのほうを向く。セレナを見る前は人懐こい笑顔だったはずだったのに、今俺の目に映るものはひどく冷めたような、人を凍らせるような錯覚を起こすほどに冷たい笑顔だ。
「アオちゃんとマっちゃんの敵ってことは、私とも敵対するんだよね〜」
「!」
「わたし、二人と違って容赦なんてできないから、ね」
少女がそう言ってぶかぶかの上着の袖をまくりあげた。
そこに一匹のポケモンがいた。青く小柄な体、鋭く生えた尖った牙。どこにあるかわからない目。石の洞窟でもよく見るズバットだ。
背筋が凍る。ズバットって、どくどくのキバを覚えるよな。覚えてなかったとしても普通は吸血とか覚えているはずで、ええと。
つまりセレナが叩いて俺の手を払わなかったら、この少女はポケモンでなく俺に攻撃を仕掛けていた、かもしれないってことだよな。
青ざめる俺と睨みつけるセレナ。カイナで戦ったときはアオギリがコナラを諌めたが、マツブサはそんなことをする素振りは見せない。
改めて警戒する対象だと後ずさった俺たちに向けて微笑んだ少女は言う。
「二人のためだっていうなら、わたしはどんなことだってできるの」