ホウカ
二階に上がった俺を迎えたのはホウエンの模型。ミシロを探すのもいいな、と思いつつ奥の方を覗き込んだ。たしかこの博物館は二階建てだったから、ここから見えるところで全てだとは思うが。
何枚かのガラスを通した先、抹茶色が小さく映し出されている。その周りに青や黒といった様々な人影が見えた。あの中の誰かがクスノキ館長ということか。
駆け寄った俺の視界に入ったものは、予想外のことに巻き込まれているリオルとひと組の男性と女性、見たことのないポケモン、そして先程話しかけた少女、だった。
「やいやい、クスノキ館長さんよ!デボンから荷物が届いてるんだろ?そいつを渡してもらおうじゃねえか!」
男性の前に立って庇う少女と女性、そして戦闘態勢のリオルともう一匹のポケモン。それに対峙しているのは見慣れた青い装束…アクア団が二人。
もしかしてあの男性がクスノキさんだろうか。うん、アクア団のやつらも写真で確認してる、間違いなくクスノキさんだ。
見たことのないポケモンは緑に覆われた蛇のようなポケモンだった。どこか愛嬌のあるそいつは女性のほうに求愛を示していて、それを女性は軽く受け流している。その人のポケモンだということはすぐにわかった。
クスノキさん、女性に守られるって結構カッコ悪い構図だぞ、とは言わないでおく。なんといっても敵はポケモンを使ってくるのだ、丸腰のクスノキさんが勝てるはずがない。
話を聞く限り、そいつらの狙いは俺が持っているデボンからの荷物らしい。もちろんまだ届いてないので、クスノキさんにとっては前情報にしかならないだろう。
呆れたようにクスノキさんがそんなものは届いていないが、と告げる。アクア団は顔を見合わせた後、すぐさま少女を睨みつけた。
「ならお前が持っているんだな、小娘!」
「私も持ってないわよ。そもそも私は無関係だし」
「なにぃっ!?」
客が来なくて面白くないギャグコントみたいなやりとりだ。完璧に取り残されてる。
一応俺、この騒動に巻き込まれる立場なんだろうけど。しかし実際巻き込まれているのは俺じゃなくて向こうの少女と女性とクスノキさんだ。少女に関してはとばっちりにしか見えない。
仕方ない。クスノキさんに手渡さなければ先にも進めないんだから、さっさと手助けして終わらせよう。
「デボンの荷物は、俺が持ってるけど?」
なるべく気配を殺して近づき、その背中に話しかけた。三人を見ていたアクア団が勢いよく振り返る。
荷物をカバンから取り出して見せる。この中に入っている何かの正体を俺は知ることがない。
「お前、たしかトウカの森での…」
「さあどうする?俺と戦うか、そいつをいたぶって通報されるか。…それとも、逃げる?」
最後の選択肢はもちろん挑発だ。こんなところでアクア団が引き下がるとは思っていないし、そもそも引き下がるつもりなら後ろから追撃する算段だ。脅迫するようなやつにかける情けはない。
片方はなぜかたじろいだ様子を見せたが、もう片方は俺の読み通り挑発にかかった。その短絡さは直したほうがいいぞ、と内心だけで教えておく。
俺の問いかけに訝しげに眉をひそめる少女を端で捉えつつ、腰につけていたボールに手をかけた
「いけっ、キバニア!」
キバニアとコノハなら、タイプ相性としてはこちらのほうが有利だ。相手がどれほどのものかわからないが、恐らく俺のほうが勝つだろう。
戦略を組み立て、いざポケモンを出そうとケースからボールを外したそのとき、ぼんっと煙る音が響いて一匹のポケモンが現れ、さらに俺の前を緑が塞いだ。
「なっ!?」
いつの間にかこちらに移動してきた少女、女性が、俺が出す前にポケモンを出したのだ。
眩しいほどの電光。この地方には生息していないイーブイの進化系の一つ、サンダース。
一対一の勝負のはずだが、なんで二人同時にポケモンを戦わせようとしているんだ。まさか一人を二人で滅多打ち…なんてことはないと思うけども。
「私たちが戦ったほうが早いわ。ここは任せなさい」
「そんなこと言われたって、お前、」
「大丈夫。…すぐに済むもの」
少女が俺と同じように下っ端たちを挑発し、勝負を二対二に揃える。もうひとりが出したのはズバットだ。
ふむ、ズバットなら電気もいい。多分少女はキバニアに備えて電気タイプを出したんだろうが、外見からして草タイプのポケモンよりかは有利そうだ。
「ズバットをお願い」
「ええ。…サンダース、電気ショック!」
少女は意外にあっさりと女性の意見を飲み込み、サンダースに指示を出す。素早く反応したサンダースが体中に電気を迸らせて前に飛び出した。
俺が驚いたのはその反応スピードだ。尋常な速さじゃない、116番道路のあいつに勝るとも劣らない強さがちらついている。
女性の方もすぐにポケモンへと指示を出し、一気にキバニアに襲いかかる。
「チグサ、キバニアに向かってリーフストーム!」
しゅる、と女性から離れたポケモンから大量の葉が飛び出した。一枚一枚がそれぞれ空中で踊りだし、風を起こしてキバニアを取り囲む。
凄まじい勢いが収まった後、そこには目を回しているキバニアが残っているだけだった。
うろたえるアクア団。そしてあまりの実力差に呆然とする俺。
いやいや、二人とも強すぎだろ。タイプ相性がいいとは言え、一発で倒すというのには相当の実力がいる。俺がけしかけない方がよかったと思うくらいだ。
「ほら、私たちがやったら早いでしょう?」
そういって得意げに微笑む女性に恐怖を感じたことなど言うまでもないことである。