If change 7 time years
※お米様宅設定(甕覗本編の7年後が迷宮本編)で書いています。
それに伴い、コトアやシズクの年齢が違っているのでご注意ください。
思い切り連載のネタバレあります。
運命とは奇妙なところで歯車が噛み合うような、いわゆるへんてこりんな動きをしている流れだと思っている。
「おーい、フィアー!」
いなくなった大事な相棒を探し、見覚えのない道を走る。お母さんが出場するレースについてきただけの僕にはマチノチリなんてものはわからないけど、ここはそんなに広くないから大丈夫。フィアも遠くには行ってないはずだ。
どこにいったんだろう。周りを見渡してみてもフィアは見つからない。似たような見た目はあまり見かけることもないし、今まで間違えたこともなかった、と思う。
大丈夫だろうか。地元でもここでも珍しいポケモンだっていわれているフィアだ、ユーカイされていても不思議じゃない。まだ進化のカテイがカクリツしてないポケモンだから。
早く見つけなくちゃ、もうオーバーヒートしそうなほどに回している頭を更に動かし、限界を訴える足を無理やり前に出す。息ができなくて段々と視界も狭まってきてもなんてことはない。早く、はやくあいつを。
そしてそれを見かけたのは、街のすみっこに建っているカフェの小さなテラスだった。
テラスに座っているおじさん、の、肩に乗る薄桃色の体。首元と左耳に肌と同じ色のリボンが巻かれたそのポケモンは、間違いなく自分が探しているポケモンそのもので。
「フィア!」
思わず声を荒らげ、その体に手を伸ばす。しかし指はポケモンに掠ることもなく空気を掻いて、何かにぶつかっただけだった。
反射でその姿を目が追う。軽やかにジャンプしたフィアは、おじさんの肩から降りて白いテーブルの上で大人しく座って、どうだというように得意気に胸を張った。いつもどおりの動作に拍子抜けすると同時、ぶつかったものがおじさんの肩だと気づいて青ざめる。
どうしよう、いっぱい怒る人だったら。きっとフィアのことでメイワクもしただろうし。
ぶるぶると体の震えを感じながら、僕よりも大きな背中が動くところをただ見つめる。上から覆いかぶさるように、そのおじさんの手が僕に向かって伸びてきた。
「お前さん、このポケモンのトレーナーかね?」
「…え、」
次に来るものはなんだろうか。怯え、きつく目を閉じる――前に、頭におじさんの手が乗っかる。
上手く吐き出せなかった息が声になって、間の抜けた言葉が地面に転がった。自分のこげ茶の髪ごしにじわりと手のひらの体温が伝わってきて、怖さで埋め尽くされていた頭の中に戸惑いが生まれた。
おそるおそる、上にあるおじさんの顔を見上げると、想像していたよりずっとおじさんは怖くなさそうだった。あれ。
「ちょうど良かった。このポケモンがほどよくインスピレーションを刺激してくれてなぁ、礼を言いたいと思っていたところだ」
いんすぴ、なんとか。お礼。
よくわからないままに、いんすぴ、と呟いてしまったけど、つまりはそれほど怒っているわけではないらしいということで。
ほっと肩をなで下ろした僕に、おじさんは机でふんぞり返っていたフィアを柔く持ち上げて差し出した。気に入らない人だったらすぐに暴れるはずのフィアも、おじさんのことはよっぽど好きなのかずっと大人しい。
そういえばさっきもおじさんの肩に乗っていたなと、受け取ったふわふわの毛並みに顔をうずめながらお礼を言うと、おじさんは少し口を緩めて笑った。少しだけ浮かんだ皺が目に焼き付く。
ぼんやりとそれに気を取られている間に、その人はテラスの小さなテーブルに向かい合い、大きな背中で僕に帰るようにうながした。
正気に戻ったとき、あたりがすごく暗くなってきていることに気づいた。さっきまで明るいオレンジピールの色をしていた空が、いつの間にか熟れたオレンの実みたいに青く染まりかけている
やってしまった。はやく帰るつもりだったのに、思っていたより時間が経つのがはやかった。このままじゃお母さんに怒られてしまう。
「…なんだ、お前さん」
探していたポケモンは見つけただろう。と、大きな背中のおじさんが少し怖い顔で僕を見下ろす。
僕はさっきのおじさんの服を掴んでいた。そんなに強く引っ張ったつもりもなかったけど、おじさんはどうしてかすぐに気づいたみたいだった。
心の奥から不思議そうにきいて、掴まれた服をゆっくり僕の手から離そうとする。けど僕もこれを離すわけにはいかない。
「あ、の、」
「?」
「僕といっしょに、お母さんのところに行ってください」
おじさんがますます眉を寄せる。フィアを返してくれたときには優しげだった顔は、いつの間にかお母さんと同じくらい怖い顔になっていた。
けど、お母さんみたいに怒ってくるわけでもない。だからまだ、もうちょっと、怖くない。
「お礼はいつかします。み、道がわからなくて、途中まででいいから、」
暗くて見えなくなってしまったら怖い。ユーレイも出るかもしれないし、強い野生のポケモンだってくるかもしれない。お母さんはそれで僕が危険だからって怒ることを知ってる。
だったら、きっと大人が一緒なら安心してくれる。このおじさんだって怖くて悪い人じゃなかった。大丈夫。
おじさんはぶるぶる震える僕を見て何か考えたかと思うと、ふうと一つため息をついて僕の手をとった。
「なら、この帰りの道すがらにでも、お前さんの話を聞かせてもらおうかね」
この日、僕はおじさんに連れられて無事に母さんと合流する。当時はわからなかったが、カルミアと名乗ったそのおじさんは僕たちと同じくカロスから来た旅行客らしかった。
カルミアさんが帰ったあと、もちろん僕はこっぴどく怒られたわけだが、やはり予想していたよりも少し怒りは小さかったようだった。
カルミアさんはフィアのことについてよく聞いてきた。僕というよりフィアに興味があったらしい。僕もフィアのことを話すのは楽しかったから気にしていなかったけれど。
去り際にその人は「次もそのポケモンについて教えてくれ」と言って元来た道を戻っていった。僕もそれに笑って頷いた。
それから7年後のことを、当時の僕は知ることはない。
気まぐれな運命の歯車が僕のささやかな世界を壊すには、7年という時間はあまりにも長すぎたらしかった。