だって怖いし
(本編後の話ですがネタバレはほぼありません)
リブレってさあ、と、俺が呟いたのが数十秒前。
何か作業をしていたらしいリブレが眉をひそめてこちらを振り返ったのが十秒くらい前。
「俺と行動してていいのか?」
特に何も考えずに放った問いかけに、数瞬の沈黙があたりを満たす。ただでさえ皺が寄っていた眉間にこれでもかというほどの深い溝が刻まれ、「は?」とドスを利かせた声を発したリブレに、思わず背筋を凍らせた。
あ、いや、その。しどろもどろになった俺は濃いピンク(ミディアムだかなんだか覚えてはいないが、そんな感じだった)の瞳から目を逸らして少年の手元を見る。みしり、手に持っていた金具が悲鳴をあげてひしゃげるところを、偶然にも目にしてしまい青ざめる。
「俺が、なんだって?」
「り、リブレが、俺と一緒に来ていいのか、って」
「なんか不都合でも?」
「ありません」
だからその変形した金具をおろしてください。
リブレは普段引きこもり気質だっていうのに無駄な力がありすぎる。おまけに随分と幸運を引き寄せる体質らしく、俺はこいつが何か不幸な目にあっているところを見たことがない。
俺はどちらかといえば貧弱だし運が悪いしで、リブレがラッキーに出会っていると隣で俺が不満な顔をしていたりする。意見が合わなければ大体リブレの方に運が向くのだから当然なのかもしれない。幸運が羨ましい限りである。
とはいえ、根本からするとリブレの幸運よりも俺の関わる出来事の不運のほうが強く、ともに世界を回るリブレも不運が連続する状況に足を突っ込んではいるわけだが。それは俺の望むところではない。
だらだらと冷や汗を流しつつ目を合わせない俺に、リブレは長い沈黙をした後、吸っていた息を思い切り吐き出した。
「いいたいことは最初からわかってんだよ」
「ギクッ」
「…お前、ホントカッコわりぃよな」
うるさい。俺がカッコ悪いのなんていつものことだろほっとけ。
「で、お前はストッパーがいねえとかなり無茶をする」
そんなことはないはずだと反論を返そうとすれば、相変わらず苛立ちを隠さない目が言葉の勢いをなくさせる。中々怒らない(他の人談)というリブレはキレると相応に怖いらしい。
俺としては別にそんなこともないのだろうが、リブレや他のやつらから見ると俺はかなり無茶をしているそうで。
無茶というより不幸が重なっているだけである。しかもその不幸の度合いはサチコの方が数段上であることを、アンラッキーを打ち消しているリブレは知らないようだ。別に多少運が悪くともアンラッキーボーイってわけじゃないぞ。
「そりゃあ俺がついてっからだろ。この前のポケモンが暴走した時も、俺が、たまたま、隠れ場所を見つけた」
「うぐ…」
「お前が危ない橋を渡ってんのは承知の上、むしろお前より理解してんだ」
今更だけど一言ずつ強調するのはやめてほしい。俺の胸が痛む。
「シズク、お前、俺がいないと死ぬぞ?」
リブレが変わらない様子でそう告げる。リブレは時折妙に怖い言い回しを使ってくるし、今回もおそらくその類ではあるんだろうが…うん、怖いな。
いろんなところに納得はいかないが、この分だと俺の言い分なんてものも聞かないんだろう。別にリブレが死ぬとかいったから怖くて頷いたわけじゃない、決して。
わかればいいんだよ、と、怒っている空気を霧散させたリブレは、机に向きなおして自分が曲げた金具を見てもう一度皺を寄せた。
その様子を視界に収め、せめてもの抵抗として口を開き、言いたかったことをひとつ。
「お前怒ってなかったのかよ」
誰がいつ怒ってるって?
首をかしげるリブレに指をさすまであと数秒。