それはかくもせんとしと

 ※本編の時間軸はまったく無視しています


「名前、おせち食べますか?」
「…いるけど」

年明け早々に安室さんが部屋に入ってきた。片手に重いものが入っていそうな風呂敷を引っさげ、上機嫌に鞄を定位置に置いている。
風呂敷の中身は、まあ、言われたとおりのものが入っているのだろう。二人ではとても食べきれなさそうな量のそれに嫌な予感がひしひしと伝わってくる。その風呂敷にどこか見覚えがあるのもそれに拍車をかけていることは間違いない。

監視役の畦花蓮と風見裕也は隣の部屋で書類作業に追われている。もはや名目だけの監視なのだが、上からの命令で続けなくてはいけないようで。会社員というのは面倒だなと思うばかりだ。
せめてと二人の邪魔をしない程度の生活を送っているが、果たして彼らが報われる日は来るんだろうか。…中々険しそうな道のりだ。

「ああ、そうだ。あけましておめでとう」
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」
「よろしくするなよ」
「つれないな、名前ってやつは」
「お前が馬鹿を言うからだろうが」

よろしくも何も、組織が壊滅すれば終わる関係だろうに。

安室さんによって開けられた重箱に所狭しと詰められた料理。日本に渡って日は長いものの、まともに食べたことがなかったそれに思わず感嘆の声をあげた。
見たことがないものがいくつかあるなと食べるものを見繕いつつ、同じく重箱をつついていた保護者に問いかけた。「誰から?」

「鈴ちゃん…と、沖矢さんから」
「やっぱりか」

鈴に対しては激甘な人だから、その分信用性も高いだろう。というか鈴の作るものを食べられなければほかのものなど食べられないと言ったことさえあった気がする。…本格的にロリコンに突き進んでいるような…
どうやら合作らしく、鈴の作った料理と沖矢さんが作った料理がそれぞれなんとなく違っていて面白かった。大人のほうが料理下手なようだ。

鈴のことは全面的に信頼している安室さんだが、沖矢さんに限ってはどうも信用ならないと言われている。ちなみにものは試しと沖矢さんの作った料理を口に含ませたら胃の中身まで吐いてしまった。
以降、沖矢さんの作るものは基本俺の腹に収まっている。

今回、煮染めや鰤の照り焼きといったメインディッシュは沖矢さんが手がけているものが多い。かまぼこを皿に入れつつ「赤井ぃ…!」と恨みがましく呟く安室さんは見ないふりをした。
ライの名前なんて聞いてない、断じて。
そして先日「安室さんは沖矢さんの料理が食べられない」と鈴にこぼしてしまったことを思い出したが、三十六計逃げるに如かず、黙っておくことにしよう。

そうして二人で取り分けたところで、隣室にいる二人を呼んでいないことに気づいて席を立つ。おせちということは年明けだが、二人は日が変わる前から仕事をしていた。昼どころか朝もまだのはずだ。

「あー、二人とも、起きて…」

なかった。
軽くノックをしてドアの向こうを覗いてみたが、二人共書類に埋もれて死んでいた。正確には寝ていた、が正しい。

開く音がうるさいドアは基本開かれており、さほど苦労することなくお互いの様子の確認が可能になっている。持ってくる仕事の内容は多少なりとも選ばれているのを知っているが、目に触れることをよしとしないだろうとあまり確認したことはない。
よって俺が書類の山に埋もれた二人を救出しにいくのは無理だと判断した。そもそも俺が来た時点で起きるものだろうに、よほど疲れているらしかった。

年明けなんて関係ないらしい二人に心中で合掌し、既に口を動かしている安室さんの元へ戻る。既に鈴が作った部分の半分ほどが消えていた。予感通り、この人が全部食べてしまおうという魂胆らしい。

「名前、」

流石に主菜ばかりではつらいと慌ててレタスに箸を伸ばした俺に言う。

「煮染め食べたい」

どうやら保護者の年始も休業らしかった。
後々起きてくるだろう二人も沖矢さんの作るものは食べれないので、残った可食部分を気持ち程度に取り分けて口を開く。俺しか食べられない部分が山積みだ。

とりあえず沖矢さんには「いたずらに作られると俺が太る」ということを話して勘弁してもらおう、そんなことを考えながら、しっかりと火が通り過ぎている鰤を口にした。
あ、うまい。


 後日

「みんな、どうだった?」
「美味しかったって言ってたよ」
「(ほぼ食べてないが)」
「ほとんど食べて…」
「ん?」
「なんでもないです」