好きなものは、何ですか?A

シズク君に料理を振る舞った数日後。
私はキッチンで鍋とにらめっこしていた。

「一晩寝かせて、火を通して……ほろほろになったチキンカレー…これなら、きっと……!」

「きっと、なんだ?」

「えっ、わぁっ、グリーンさん!?」

「っと、あぶねーな、そっちはコンロだろ。」

突然背後から聞こえてきた声に仰け反りそうになると、ぐっと身体を引かれた。

お、お、驚いた…いきなりグリーンさんの声がするから…

「いつ、帰ってきたんですか?」

「今さっき。ベル鳴らしても玄関来ないからてっきり寝てるもんだと…」

「あああ、お迎え出来なくてすみません…!」

「いいって。それより……めちゃくちゃいい匂いすんな。」

「あっ、はいっ!カレーを作ってたんです。グリーンさん、お腹空いてますか?」

「おう、腹ペコ。」

「よかったです!じゃあ、すぐに準備しますので…リビングでお待ちください!」

「いや、手伝う」

「だ、だめですー!お仕事で疲れてるんですから…!お待ちくださいー!」

「なんか、今日はいつもより強気だな?なんかあったのか?」

「なんでもないです!さあ、リビングで…!」

「わかったわかった。」

グリーンさんがキッチンから出るのを確認して、最後の仕上げ。
隠し味を入れれば、さらにマイルドな味わいに…!

***

「お待たせしました…!」

「おー、さんきゅ。」

「グリーンさん、お仕事お疲れ様でした。どうぞ、召し上がってください。」

「ん、いただきます。」

手を揃えて、そういうグリーンさんをじっと見つめる。
一口、スプーンを口へと運んだグリーンさんが固まった。

「ぐ、グリーンさん……?」

「甘い…」

「え?」

「このカレー甘いな。」

「えと、はい、甘口のチキンカレーを作ったので…!」

不味いですか?と、不安になって聞くとグリーンさんはいや、美味いよと返してくれる。
だけど、その反応は私が求めていたものじゃなくて。

「…俺、カレーは辛い方が好みだな。」

「!!!?」

「…サチコ?」

まち、がえて、しまった……
急に目頭があつくなってきて、思わず俯くと頭上から慌てた声がふってくる。

「お、おい、どうしたんだよ…美味いよ!ただ、サチコがこんな甘口の作るの珍しいなってだけで…」

「ちが、違うんです…!」

「は?」

「い、いつも、グリーンさんが美味しいって私の料理食べてもらえるの嬉しいんですけど……でも、グリーンさんの、好きな食べ物知らなくて…」

「俺の、好きな食べ物?」

「はい……何が食べたいですか?ってお聞きしてもグリーンさん、いつも私の作りやすいもの、とか、何でもいい、とかで……わた、私は、グリーンさんの好きな物を作ってあげたくて………!!」

グリーンさんがお仕事で疲れて帰ってきた時、元気のない時、大好物を用意して待っててあげたいと、そう思ってた。

でも、いつまでたってもグリーンさんの好きな物がわからなくて。

「し、シズク君に協力してもらって……カレーが好きって、聞いたから……男の人はこういう味の物がいいのかなって……」

「…ちょっと待て。」

「はい?」

「なんで、そこでシズク?」

「えっと、協力を……」

「いや、サチコ。シズクと俺の好物が同じなわけないだろ。違う人間なんだから。」

「!!」

「…今気づいたって顔だな。サチコ、そういうことは、直接俺に言えって。な?」

ぽんぽんと、グリーンさんに頭を撫でられながら私は頷いた。
今度は、ちゃんとグリーンさんに聞こう。

ご飯何がいいですか?じゃなくて、
グリーンさんの好きな物って何ですか?って聞けばよかっただけなんだ。

「…グリーンさん、」

「ん?」

「好きな食べ物……いっぱい教えてくださいね。」

「…おう、サチコが作ってくれるの楽しみにしてる。」