小さな案内役

リブレともいもい宅のオルトちゃんの話



※シュイ=ミズゴロウ
※ソルテ=トゲキッス



ざわざわと活気付いた人の声があちこちで飛び交い、街全体がピカピカと光っているような錯覚に陥る娯楽都市――ライモンシティ。俺は今そこにいた。なぜホウエン地方ではなくイッシュ地方にいるのか、それは毎度お馴染みのホウカさんのせいであった。
ホウカさんはいきなり俺の家に来たかと思えば『そらをとぶ』を覚えたポケモンだけ連れてこいと言いだした。もちろんホウカさんに逆らなえない俺は泣く泣くシュイを家に置いていきソルテだけを連れてリザードンで空を飛んだホウカさんの後を追った。そしてそこからは訳が分からなかった。その後飛行場についたかと思えばあれよあれよと飛行機に乗せられ、気が付けばホウエン地方を離れイッシュ地方だった。そしてまた空を飛べばライモンシティについていた。ホウカさんは「これでなんでも好きなものを買いなさい。私はバトルサブウェイに乗ってくるわ。」と言って一枚のカードを俺に手渡したかと思えば一目散に駅の中に消えていった。取り残された俺はどうすることもできなかったのでとりあえず近くの店でマップを買いのんびり街を散策することにした。そして散策し終わった俺は今両手いっぱいに荷物を抱えているためマップが開けない状態であった。

「それでも、なんとか駅には着いたけどなぁ…。」

さて、困った。ここからどうしたものか。バトルサブウェイだったか?サブウェイ…?サブウェイってなんだ?わからん。駅員さんを探そうにも人が多くてこの大荷物では動きづらい。困ったな…。ここは大人しくホウカさんが出てくるまで待つか?でも人通りが多いのにホウカさんみたいな小柄な人を見つけられる自信がない。そうひたすら考えているとクイッと服を引っ張られた。

「ん?」

後ろを振り向くが誰もいない。あれ?おかしいな。確かに引っ張られたような?首を傾げれば膝あたりをバシバシと叩かれる。下を見れば一匹のリオルがいた。こいつか、服を引っ張ったのは。荷物を地面に置き、リオルと同じ目線になるようにしゃがむ。

「お前ひとりでどうしたんだ?トレーナーとはぐれたのか?」

どこか睨まれているような錯覚に襲われながらリオルに聞くと『ちがいます』と書かれた紙を見せられた。おお…!すげえ!字が書けるのか…!イッシュ地方になると同じポケモンでもこんなに違うのか!と感動していると『ずっと立ってましたけど、どうかしたんですか?』と聞かれた。そうだ、感動している場合じゃなかった。

「あー、俺、バトルサブウェイ?に行こうと思ったんだけど、場所がわかんねぇんだよ。」

『バトルサブウェイ?挑戦者だったんですね。』

「違う違う!俺の連れがそこにいるんだ。迎えに行こうかと思って。」

『なるほど。案内しましょか?』

「お!頼めるか?」

『はい!』

なんとも頼もしいリオルだ。字が書ける上に案内もできる。すごいすごいと感心しているとリオルは置いていた荷物を一つ持って歩き出した。すると歩くスピードが意外と速かった。人混みに紛れる前に追いつかなければ…!

「ちょ、おい!待て!」

荷物を拾いリオルの元に急ぐ。声をかけられたリオルは立ち止まり後ろを振り返った。よかった…。案内係を装った泥棒だったらここで止まったりはしないだろう。ちょっと疑った。すまん。だって、そっちは重い方だったからな…。

「ほら、そっちは重いだろ?こっちは軽いし小さめだから持つならこっち持ってくれよ。」

そう言ってリオルに袋を差し出せば俺と袋を見比べた。何を思っているかは分からないが、どうやら悩んでいるらしかった。ほら、と言ってもう一度差し出せば少し間があったものの素直に荷物を交換してくれた。うんうん、気づかいまでしてくれるのか。うちのシュイとは大違いだ。いや、でもシュイはシュイで可愛いけどな。あー、早く帰りたい。荷物を受け取り再びリオルの後をついて歩く。トコトコと進んだ後時たま俺が付いてきているかを確認するために後ろを確認するリオル。…可愛い、なんだこれすごく可愛い。ホウカさんに言ったらリオルもらえねーかな…?そう考えてしまうほどには可愛い。進化前は可愛いのに進化するとかっこよくなる…。一度で二度おいしいってことか。ちょっと欲しくなってしまった。そんなことを考えていると前を歩いていたリオルが立ち止まりベンチに荷物を置いた。どうやら着いたらしい。

『この先がバトルサブウェイです。』

「そうか。わざわざ悪かったな。ありがとう。」

『いえいえ、では私はこれで。』

「あ、ちょっと待て。今お礼やるから!」

えっと、お礼…。生憎既製品は何も買ってない。でも、ソーイングセットは常日頃持ち歩いてるし買った生地もある。簡単なリボンくらいなら作れるな。

「なあ、お前時間あるか?」

『ありますよ。』

「今からお礼作るからちょっと座って話そうぜ?」

今から作るといえばリオルはギョッとし、驚いたようだった。まあ、見てなって。その場で物を作るのは得意なんだ。袋を開けリオルに好きな布を選んでもらう。選ぶ際におずおずと言った様子で俺を見るリオルに思わず笑ってしまった。リオルは椅子に座り、俺は椅子をテーブル代わりにリボンの製作にとりかかる。傍から見ればおかしな様子かもしれないと少し思った。

「あ、そういえばお前名前は?俺はリブレ。」

『オルトです。』

「オルトか。いい名前だな。オルトのトレーナーは駅員さんなのか?」

『えっと、トレーナーというか、保護者……?あれ、でもあの人たちって駅員…?』

「なんで疑問形?まあ、いいけど。ところで、バトルサブウェイって何すんだ?」

『話が変わるうえにそこからですか』

「そう、そこから。名前の通りバトルするのは予想つくけどな。」

『バトルサブウェイっていうのは…』

オルトが長々とバトルサブウェイについて説明しようと一生懸命紙に字を書いてる。ちまちまとしたその動作は可愛かった。やっぱ小さいポケモンは可愛いなぁ…。作業の手は止めず、ついでにその長い説明もほとんど頭に入れずに癒しを堪能していれば聞きなれた、どこか冷たさを感じさせる声が聞こえた。

「リブレ。」

「…お疲れっス、ホウカさん。」

「あなた、どこまで行っていたのかしら?」

「あー、街ん中全体?」

「街全体って…。はぁ…。まあ、いいわ。ところでこの子は?」

まさかまた拾って来たの?と聞いてきたホウカさん。またってなんスか、またって!!まあ、確かにいつもブラつくと何か拾いますけど…。流石にポケモンは拾いませんて…。

「こいつは案内役ッスよ。ここまで連れてきてもらいました。」

「あら、そうなの?…私の連れが迷惑をかけたわね、ごめんなさい。…あら?」

俺の言葉にホウカさんがオルトにお礼を述べる。するとオルトを見たホウカさんが首をかしげていた。なんかしたのか?

「あなた…。もしかして…?でも、3年も前の事だもの。リオルなままなわけがないわよね…。」

「ホウカさん?」

「……なんでもないわ。それよりもリブレ。その手元のリボンはどうしたの?」

「あ…。」

「もう…。私は先に行ってるわよ?迷わずに帰ってきなさいね。」

そう言ってホウカさんはいつもよりゆっくりと歩き出した。一応俺の事を配慮しているらしい。……多分。そして俺はホウカさんの登場ですっかり忘れていたリボンの糸を鋏で切る。よし、できた。

「オルト、案内ありがとな。これは俺からのお礼。」

座っているオルトの前にしゃがみ直し、ギュッと痛くない程度に両手で握るように渡す。その手を広げ完成したリボンを見せれば、オルトは目の前に持っていってじっくり眺めた後『ありがとうございます!』と書いてある紙を一生懸命振っていた。どうやら興奮しているらしい。可愛いなぁ…。

「じゃあ、俺早く帰らなねぇとホウカさんに怒られっからもう行くな。案内本当にありがとう。助かったよ。じゃあな!」

名残惜しさを感じつつ最後にオルトの頭を一撫でしてから荷物をもって急いでホウカさんの後を追いかける。こうして俺の初めてのイッシュ地方訪問は終わりを迎えた。もしまたイッシュ地方に行けるならもう一度オルトと会えるといいな。