ばさばさ、つばさ

水飲み場からほど近い涼しい木陰で、一本の羽を拾った。
このへんでは見たことのない、珍しい羽だった。雀よりは大きい…気がする。白と茶色を混ぜた、そう、黄土色みたいな。木の幹を思い出させる中に黒い斑点がある羽だ。
鳥の羽から変な病気をもらうことだってあるので、普段は拾わないようにしているものの、その羽だけは違った。引き寄せられるように触れてしまったのだ。

羽はふわふわとした手触りをしていた。

「名前!」

やけに綺麗な羽だな、といじりながら体育館に向かっていると、目的地から見覚えのある顔が走ってきた。我らバレー部の主将、木兎光太郎先輩である。
羽を握ったまま、腕につけた時計を見る。いつもなら既に練習を始めている時間で、木兎先輩は気持ちよくスパイクを打っているところだというのにどうしたのだろう。

不思議に思いつつこちらからも近寄ってみると、彼は普段から明るい顔をさらにきらきらとさせて私の左手を握ってくる。「あかーしが呼んでる!」笑顔が眩しかった。
主将の言葉を無視することもできず、生返事を返しておとなしく引きずられた。じわり、ぽたり、真夏近い温度に滲み出た汗が地面へ落ちた。

ふと前を歩く木兎先輩が見たくなって、何の気なしに背中へ視線を向けた。小さな風が頬を撫でる。

「…へ、」

思わず声を上げてしまった私に、彼は不思議そうな顔をして振り向いた。名前を呼ばれる。
私はそんなことも理解できないまま、現状で起こっていることを呆然と見つめた。
目線の先に梟がいた。

「先輩、肩」

音もなく主将の肩にとまったその梟は、きょとんと不思議そうな顔をして首を回した。中々大きいサイズに少し怖気づく。今まで見たことのない動物に警戒心を抱くのも仕方ないと思う。
こんな鳥、初めて見た。一年以上一緒に部活動をしてきたのに、先輩の肩にとまるところなんて、一度も目にしたことがない。

しかし、私が指さした本人はというと、梟のとまっている肩を見て、もう一度私を見た。
「どったの?」…木兎先輩にとって、梟がとまっていることは普通のことなんだろうか。「梟」、ぽつりと呟いても、彼は首をひねるだけだった。

じわじわ、じわじわ。日に当たっている場所が熱を持って汗を生む。
初夏も過ぎ去った気温は、暑いと思うことが正解だと思うのに、私は自分がかいた汗が冷たく感じ始めていた。

「肩、鳥がいます」

口の中はからからだった。何とか、重々しく開いた唇が紡いだ言葉に、彼はもう一度自らの肩を振り返った。



「――鳥なんていねぇけど?」

高校二年の夏、主将のそばに突然梟が見え始めた。