俺の名前はスコッティ
一体どうなってるんだ。
「幽霊を殺したようで気味が悪いぜ…」
もう一度いう、一体どうなってるんだ。
俺の名前は苗字名前!どこにでもいるフィギュアスケート特別強化選手(嘘)で23歳(嘘)!
上記のフレーズが頭の中をぐるぐる回っている。名前以外は嘘だし、敢えて言うならさっきまで自宅のベッドで爆睡していた大学生、それが俺だ。
昨日は同じサークルの友人と文化祭の打ち上げをしていて、べろべろに酔った状態で帰宅。そして目が覚めたら…知らない場所に連れてこられていた!
妙に肌寒いな、いつもより寝心地が悪いなと考えつつ、うっすらと浮上した意識の中で言葉を拾い上げれば、「拳銃で心臓をぶち抜いてやったからな」という物騒な言い回し。お、俺は悪くねぇぞ…あいつがやったんだ…。
ぐらんぐらんと支えもない状況で薄目を開けて見てみれば、どうやら自分は屋外に連れ出されているらしかった。辺りには血が飛び散っており、そして誰かが俺の前にしゃがみこんでいる。
アッ、もしかして、自分は何かやばい現場に踏み込んだのでは。そしてよくわからないが、自分は割とピンチなのでは?
「ライ…!」
ライ麦畑で捕まえてだ!
いや、捕まえなくていいのであっち行ってください!
顔の角度で窺えなかったが、どうやらしゃがんでいる誰かの他にもうひとりいるらしい。というより、幽霊がどうとか、心臓をぶち抜くとか、そんな物騒な発言をしている人物だ。なんて危険思想なんや…平和ボケした日本人には刺さる言い回し…。
そしてしゃがみこんでいる人は少し苛立ったような声色である。あんまり怒るとハゲになるから、やめといたほうがいいぞ。
さて、俺はこれからどうすればいいのやら。落ち着いてるように見えて内心パニックお祭り騒ぎ、いかにして自分の家に帰るかを考えるチキンと成り果てている。
何かしらアクションをするにしても、このまま気絶したフリをしている方がいいのは明白なんだよな。
「、…」
しゃがみこんだ男が何かに反応した。
「…スコッチ?」
スコッティ?生憎ティッシュは持ち歩かない主義である。
頭の祭りが終わり切る前に、何かで鼻を摘まれる。え、なに、何をされてるんだ、これ。
「…おい」
「ひっ」
思わず声が出た。鼻を摘まれたままなのでいつもよりちょっと変な声だった。
怯えてしまうのも仕方ない、なぜならしゃがんだ男が先程より一層低い声を出したからだ。地獄からの使いかと思った。
おそるおそる目を開けると、こちらを少し見上げる男、と、見下ろしてくる男がいた。見下ろしてくる方はぽかんと口を開けたまま、頬に何か付いてますよオニーサンとは言えなかった。軽口を言う前に顔が怖い。カタギじゃない。
「スコッチ…!」
しゃがんでいた男…うわ金髪…こわ…が、少し顔を歪めて手を握ってきた。いつの間にか鼻を摘んだ手は離れていた。
「どういうことだ…お前は確かにさっき、心臓を撃ち抜いて」
えっ、俺が撃ち抜かれてたの?驚きの新事実である。
どうやら俺は一度死んでしまったらしい。そして原因不明だが生き返ったらしい。なんじゃそりゃわからん。そしてこいつら…この人々はどちら様でしょうか。そしてスコッティってなんでしょうか。暗号か?
「そうだ、スコッチ!あなた、さっきまで死んでたのに、どういう原理で…」
「か、神様から与えられた、エクストラステージ的な…?」
「は?」
「すみません冗談です」
俺だって原理を知りたいです。というより家に帰してください!今なら警察に訴えずに帰るから!おまわりさんこいつらです!
うまい言葉が見つからずにもごもごしていると、見下ろしている男が大きく息を吐いた。
「死にぞこないなら、もう一度撃つだけだ」
「えっ俺死ぬん」
mjd?
理解が追いつかない頭は既にキャパシティオーバーである。今日の営業は終了したのでまた後日お願いします、延命措置はダメですか。ダメですか…。
目を白黒させていると、しゃがんでいた男が「待ってください」とストップをかけた。
ハァー!命拾いした!
「死んだ人間が生き返るなんて、あまり例を見ませんよ。別のことに使ってもいいでしょう」
アッそういうこと!?
ちくしょう、少しでもこの金髪の男が優しいと思った俺が馬鹿だった。こっちのほうがよほど生き地獄…どっちに転んでも待ち受けるのは死、人生ツムツムしてんなぁ俺。
「とにかく、こいつの身柄は僕が引き取ります。手柄はお前にくれてやりますよ、ライ」
「チッ…好きにしろ」
舌打ちこわっ…何この人…というかどっちも物騒だし、どっちに行っても死ぬし、俺に選択権はないのか…。
見下ろしてきた黒髪の男が背を向けたところで、しゃがんでいた男がこちらを見た。随分と真っ直ぐ人を見てくるんだな、眼力が強い。そんなことを思いつつ口を開く。
「…えーと、ひとつ聞いても?」
「冥土の土産ですか?いいですよ、答えられる範囲ならね」
冥土の土産。まさかそんなフレーズを生で聴く機会があるとは。どうせなら冥土じゃなくてメイドがよかったな!
「スコッティって何?」
少しの沈黙のあと、背を向けていた男はこちらを振り返り、手を握ったままの男は目を見開いて、同時に「は?」と口にするのだった。
もしかして:二人は仲がいい?