「まだ梅雨に入ってすらないのに、暑すぎる〜…」
「ほんとにね。」
「梅雨もやだけどさぁ…こーんな暑かったら、夏どうなっちゃうわけ…?」
「あー、梅雨もやだねぇ。前髪整えても、すぐ崩れちゃうもん。」
ぐったりと机に寝そべって夏を憂う香織を、下敷きでぱたぱたと扇いでやった。
教室の反対側では、男女混合のグループがひときわ賑やかな声で、休み時間に色を添えていた。その中心には、結構な確率で真田くんがいる。ちらり、と盗み見た。
真田くんに小さな妹がいる、ということはクラスではあまり話題になっていない。
結構早い段階から真田くんのことが好きだと公言していて、今もちゃっかり真田くんのすぐ隣をキープしている柴田さんも、どうやら知らないらしい雰囲気だった。
私自身、特に理由はないけれど、なんとなく周りにはそのことを話さずにいる。
あの日に真田くんと妹ちゃんと会ったことは、まるで嘘か幻だったのではないかと思うほど、日常の中に融けていってしまった。
*****
と思っていた矢先。
あーあ、今日は日直か。めんどくさいなと思いながら登校して、まぁでも日直っていってもやることないよねと思っていたのに、日本史の授業の終わりに、ノートの回収が命ぜられてしまった。
しかも、よく考えたら今日の放課後期限で、物理の課題プリント回収もあったし。ついてないなぁ。さっさと回収して運んで、さっさと帰ろう。
そういえばペアの男子は誰だろうと名簿を確認していたら、陽気な声が聞こえてきた。
「おっ、今日日直のペア古川だったのかよ。」
男子は出席番号前から、女子は後ろから回していた日直当番は、偶然ペアが真田くんだったみたい。
「男子は真田くんだったのね。」
「そそ。普段仕事ねーのに、今日に限って物理の課題プリントと日本史のノート提出しろってさ。わざわざ仕事多い日って、俺ら運ねーよな…」
「まぁまぁ、そういう日もあるって。
真田くん、今日も野球部練習あるでしょ?どっちかの科目、最悪男子の分だけでも集めておいてくれればとりまとめて持っていくよ。」
私たちの入学と同時に入った轟先生が、あれよあれよという間に野球部の顧問?監督?になり、今まで緩やかだったうちの野球部が急に結構ガチめの部活になってきた、という話は結構有名だ。
いつも野球部のひとたちはホームルームぎりぎりに教室に駆け込んでくるから、きっと朝練もぎりぎりの時間までやっているのだろう。
だから、ちょっとした気遣いのつもりでそう声をかけたのだけれど。
「いや、日本史のノートと物理の課題どっちも結構重いし、気にすんなって。
とりあえず、じゃあ女子の分回収頼むわ。放課後一緒に職員室持って行こうぜ。」
にかっと笑うと、おらー!お前らさっさとノートとプリント出せよー!と大声を出しながら、彼は友だちの輪へと戻っていった。
「えっ、真田に出したらいいの〜?」
「いや、女子は古川に出して。男子は俺が回収するから机の上置いといて。」
「はーい。古川さん、よろしくね。」
あっという間に、机の上にはみんなの課題プリントとノートの山が積み上がった。真田くんパワー、恐るべしである。
「うっし、持って行くか。もう出し損ねてるやついねーな?」
よく通る声で確認してから、彼は男女両方分のノートを抱えた。
「わり、物理のプリント持ってくんね?」
「や、重いし女子の分は持つよ。」
「バカ、女の子に重いもん持たせられっかよ。最近ウェイトやってっから、こんなん重いうちにも入んねーし。」
ほら、行くぞ。と声をかける声色が優しい。
「ありがとうね。じゃあ、お言葉に甘えて。」
「おう!」
職員室へ、2人で並んで歩く。
「そういやさ、」
「ん?」
「あれからずっと、名前が古川に会いたがってんだよ。」
「え、名前ちゃんが?」
驚いて真田くんを見上げた。
そうそう、と大きく頷いている。
「名前ちゃんに会いたい、名前ちゃんと遊びたいって毎日うるせーの。年上のおねーさんとお話したのが楽しかったみたいでさ。」
「そうなんだ、嬉しいなぁ。私も機会があれば是非遊びたい!」
そう答えると、ちょっと真田くんは考えこんだ。
あれ、なんか返事マズったかな。
「真田くん?」
「あ、ワリ。いや、いつならいけっかなって。
野球部結構練習多いけど、梅雨に入って雨で練習なしになる日があったら、予定合えば遊んでやってくんね?」
ただ天気次第なところがあるから、予定立てるの直前になると思うけど、古川がそれでもよければ…と申し訳なさそうな顔をする真田くんに、全然いいよと笑うと、ぱあっと明るい笑顔になる。
「よかった、名前喜ぶわ。じゃあ、あとでLINEのID教えて。ほんとに前日とかに声かけることになると思うけど、どっか屋内で楽しめるところ遊びに行こうぜ。」
「うん、了解。楽しみにしてるね。」
そんな話をしていたら、職員室まではあっという間だった。日直の仕事なんて、ちょっとめんどくさいなぁと思ったけど、結果的には悪くなかったかも。
こんなに雨が待ち遠しいのは、初めてのことかもしれない。
なーんて思ったのも束の間。明日の授業で使うからと資料のホッチキス留めを英語の先生から命ぜられて、資料の山と真田くんと2人で取り残される。つい2人で顔を見合わせて、同時にプッと吹き出した。
やっぱり今日は、ツイている。
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