やがてはレディになる

「もう!ほんっと信じられないんですけど!」

目の前で膨れっ面をする彼女に苦笑いを零しながら、コーヒーをすすった。
ある暖かな土曜日の昼下がり。お気に入りのカフェのオープンテラス席でランチでもどうかとLINEで誘い出したのは昨日夜のことだったのに、すぐに既読と行く!!と返事が来たあたりがイマドキの女子中学生らしいなぁと和やかな気持ちになった。

「もう、そんな膨れっ面したら可愛いお顔が台無しよ。」
「だってぇ!聞いてよ、にーにったら誕生日にうさぎのぬいぐるみなんて渡してきたんだよ!もう子どもじゃないのに!」

先日俊平くんが渡した誕生日プレゼントが気に食わなかったようで、ぷんぷんと膨れながらカルボナーラをつついている。たしかに、最初見たときはちょっと子どもっぽいかな?と思った。言わなかったけど。
そのむくれた表情が、初めて会った頃とあまりにも変わっていなくてうっかり笑ってしまうと、名前ちゃんはさらに頬を膨らませた。

「あーっ!名前ちゃんもそうやって子ども扱いするんだから!」
「ごめんごめんって。ほら、これあげるから機嫌なおして?」

そう言ってプレゼントの包みを渡すと、今までの不機嫌が嘘みたいに目を輝かせた。

「えーっ、やった!ありがとう!何だろう!」
「開けてみていいよ。」

にこにこしながら包みを解く彼女をのんびりと眺めた。

「あーっ、ジルの色付きリップだ!これね、雑誌で見てて欲しいなって思ってたの!名前ちゃんありがとう!」
「そうなの?良かった。お誕生日おめでとう。」

早速塗ってみたいというので手鏡を貸してやる。うきうきと鏡を覗き込みながら唇に色を乗せる姿はどう見てもおませな中学生で、あの小さかった名前ちゃんも大きくなったんだなぁと感慨に耽った。

「ありがとう〜、似合う?学校につけていったら怒られるかな?」
「うん、よく似合ってるよ。でも学校につけていくのは、もう少しお姉さんになってからの方がいいかもね。」
「そっかぁ…じゃあおやすみの日は毎日つけちゃおっと!えへへ、名前ちゃんありがと!」

人懐っこく笑う表情は兄である俊平くんとそっくりだ。
すっかりご機嫌を直してカルボナーラの残りを口に運び出した隙に、通りかかった店員さんに目配せをする。

「お待たせいたしました、本日のデザートプレートでございます。」
「えっ、頼んでな…って名前はいってる、名前ちゃんこれ、」
「お誕生日だもの。おめでとう、名前ちゃん。」

ぱちぱちと小さな花火が瞬くデザートプレートに、彼女の顔はさらに綻んだ。
やったー、あとでインスタで自慢していい?と言いながらスマホに写真をおさめていく名前ちゃんを私も写真に撮る。

「あーあ、名前ちゃんがほんとのお姉ちゃんだったらよかったのになぁ…。」

不意に、ぽそりと名前ちゃんが呟いた。

「だって、欲しかったものプレゼントしてくれるし、おしゃれなカフェ知ってるし、サプライズもしてくれるし!にーにとは全然違うんだもん…。
にーに、ちゃんと名前ちゃんにサプライズとかしてくれてる?プレゼント全然いらないものだったりしない?」
「ふふ、大丈夫だよ。大学までは野球忙しかったし遠距離だったから厳しかったけど、社会人になってからはやってくれてるよ。」
「あーもー、やっぱり理由つけてちゃんとしてないじゃん!遠距離とか関係ないし!ほんと名前ちゃんじゃなかったら続いてないよ…。」

そんなことないけど、と微笑むと、名前ちゃんは改めて座り直した。

「いつもにーにがお世話になってます。」
「いえいえ、こちらこそ。」
「名前ちゃんがほんとのお姉ちゃんになってくれるの、私もおかーさんもおとーさんも楽しみにしてるんだからね!」

にぱっと笑顔で直接的に言われると、やけに照れてしまう。

「まぁ、それは、いずれそうなったらいいね。」
「もし名前ちゃんがにーにを見限ることがあっても、私とは継続して会ってね。」
「…その予定は今のところないけど、万一の時はもちろん。」

相変わらず天真爛漫で自由な彼女は、やったーと言いながらプレートに乗ったチーズケーキに取り掛かった。

*****

その日の夜、名前ちゃんのインスタにあがったストーリーには、デザートプレートと今日あげたリップが載っていた。背景には、きちんと整えられたベッドサイドに、見覚えのあるうさぎのぬいぐるみが置かれているのが見える。ご丁寧に胸元にはリボンが結んであった。
なんだ、大事にしてもらってるじゃない。素直じゃないんだから。

こっそり笑っていると、隣でソファに座っていた俊平くんが怪訝な顔をした。

「どした?」
「ううん、何でもない。名前ちゃん、プレゼント喜んでくれたみたいでよかったな、って。」
「あー、俺のところにもLINE来てたわ。ありがとな、すげぇ喜んでた。うわ、ストーリーにも上げてんのかあいつ。」

俺のは上げてなかったのに、と小さくぼやいている。
名前ちゃんが聞いたら、あんなの恥ずかしくてあげられないよ!って照れ隠しながらぷんぷんしちゃいそうだなぁ。

「もう名前ちゃんも中学生だもの。きっと、ちょっとおしゃれなもの貰うとお姉さんになった気分で嬉しいのよ。」
「女子ってほんとよくわかんねーな…ついこの間まで俺の膝下だったのにな。」
「ふふふ、女の子はあっという間にレディになっちゃうのよ。クリスマスプレゼントは一緒に買いに行く?」

頼むわ、と少し項垂れる肩口に、そっともたれた。
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