夕焼け小焼けでまた明後日

「名前ちゃん!にーに!次あっち!」

私の手をぐいぐいと引っ張って、名前ちゃんが進んでいく。
朝の隠れっぷりはどこへやら、私たちを先導して歩いていく姿はなんとも頼もしい。
朝から、彼女は様々な職業を体験していった。ご希望のピザ屋・ケーキ屋・キャビンアテンダントに加え、消防士や絵の具屋さんとアクティビティを楽しむ姿に、保護者として見守る真田くんの表情は緩みっぱなしである。

「なぁ、名前!もう昼もだいぶ過ぎたし、飯食おうぜ?にーちゃん腹減ったよ。」

私の手を引っ張る名前ちゃんに、真田くんが声をかけた。
えー、と名前ちゃんは嫌そうな顔をしているが、たしかに時刻は13時を回っていて、さすがにもうお昼ご飯を食べた方がいい時間だ。
な、古川もそう思うだろ?と話を振られ、真田くんの顔を見ると、協力してくれよといった困り顔である。

「そうだな〜、お姉ちゃんもお腹空いちゃったなー。お昼ご飯食べようよ〜。」

と乗ると、真田くんは安心した表情だ。

「もう!にーにも名前ちゃんもしょうがないなぁ!じゃあごはんにしよ!」

そう言うと、フードコートの方に1人駆けていった。
見失わないように目で追いつつ、のんびり後に続いた。

「わり、助かった。あいつ楽しい時つい熱中して飯食うの嫌がるんだよ。」
「その気持ちは分かるなぁ。つい没頭しちゃうよね。」
「そうなんだけど、飯食わないまま帰ったらまたお袋に叱られんだよ。1日3食しっかり、って。」
「まぁ確かに、名前ちゃんのことを考えるとね…。」

2人で話しながら歩いていると、名前ちゃんが駆け寄ってきた。

「もう!にーにも名前ちゃんも、早く!」
「わかった、わかった。引っ張んなって。」

真田くんの手をぐいぐいと引っ張って、名前ちゃんはまた走っていった。真田くんも歩幅を合わせて走りだす。
仲良し兄妹だなぁ、とほっこりしていたら、ぐいと手を引かれた。今日何度か繋いでいた、名前ちゃんの小さくてふわふわなお手手とは違う、大きくてゴツゴツした手だ。

「ほら、古川も行こうぜ!」

ニカっと笑って、真田くんが手を引く。
そのまま手を引かれて、3人でフードコートまで走った。
あーあ、こんなの柴田さんに見られたらすごい顔されちゃいそう。

でも、まぁいっか。

*****

帰り道。すぅすぅ、と眠る横顔をそっと覗き込んだ。
雨は上がり、夕焼けが電車内を照らしている。3人で並んで、車内の椅子に腰かけた。

「ありがとな、今日。」

真田くんが、真ん中で気持ちよさそうに寝息をたてる名前ちゃんの頭をそっと撫でながら呟いた。

「ううん、とっても楽しかったよ。」
「ならよかったけど。名前はすげー楽しかったみてーだな。普段もうお昼寝はしないんだけど、テンション上がって体力使ってたのもあって寝ちまった。」

これで夜寝られなかったら俺叱られそー、と困ったように笑う。

「名前ちゃんと仲良くなれて、嬉しかったなぁ。」
「これからも、時間合ったら遊んでやってくれよ。…って言っても、俺は休日野球部があるからなかなか難しいか。」
「私部活何もやってないし、どうせ暇にしてるから。またいつでも誘ってよ。直前でもぜんぜんオッケーだし。」
「助かるわ!またすぐ名前ちゃんと遊びたい!ってうるさくするんだろうしな。」

のんびり2人で話す。
なんだかんだ、真田くんとこうして2人でゆっくり話すのって初めてかも!な、なんだか緊張してきた。

「なぁ、」
「はいっ!」

なんだその気合いの入った返事、と笑われる。は、恥ずかしっ!

「今日は髪、くりくりじゃねーの?」

間に挟んだ名前ちゃんを飛び越して、真田くんの手が私の髪の毛を触った。
緊張で、背筋がぴしっと固まる。

「きょ、今日は、えと、雨の予報だったから。湿気多いと、髪の毛巻いてもすぐクセ取れちゃうの。それで、」
「へー。女子って大変だよな。今日化粧もしてるだろ?朝早かったんじゃね?」

なんで私が今日化粧してるって分かるんだろう!男の子って、そういうの疎いもんなんじゃないの?

「毎日顔見てるから、化粧してるかどうかくらい分かるって。」
「な、なんで、」
「いや、お前の顔『なんで化粧してるか分かるの?』って顔してたし。分かりやすいよな、古川。」

ククク、と笑いを噛み殺す真田くんを前に、私はただ固まるしかできなかった。

「俺は別に、化粧しててもしてなくてもあんま興味ねーけど。髪の毛は、こないだ外で会った時のくりくりの方が好きかも。」
「そ、そうなんだ、ね?」
「可愛くね?女子の髪がふわふわしてるの。」

古川は髪サラサラだよなぁ、と言いながら真田くんはポニーテールの髪の毛を自身の指に巻いて遊んでいる。
し、心臓が持ちませんが…?
身じろぎもできないまま、答えた。

「し、柴田さん確かにいつも髪の毛綺麗に巻いてるよね。私、毎日はできないかも。」
「柴田?あぁ、毎日よくやるよな。あれ最初地毛かと思ってたわ。俺朝練とか寝癖つきっぱのまま行くから、ほんと女子尊敬するわ。」

車内アナウンスが、次は私たちの降車駅に到着することを告げている。真田くんはようやく私の髪で遊ぶのをやめ、名前ちゃんに声をかけた。

「名前、起きれっか?もう次の駅で降りっけど。」

うー、と返事はあるが、名前ちゃんは目を開ける様子がない。
しゃーねーな、と言うと真田くんは彼女を抱っこして膝に抱え、1つ席をつめて隣の席に座りなおした。
私も電車を降りる準備をする。

「俺さ、」

電車がホームに滑り込んだ。

「古川の、くりくりに巻いた髪の毛好きかも。…でも、他の奴らに見せたくないから、学校はいつも通りで来て。」

電車のドアが開いた。真田くんはさっと立ち上がって、スタスタと降車する。
慌てて後を追った。真田くんの耳が赤い。

「ねぇ、どういうこと?」
「…それ聞く?」

顔を覗きこもうとすると、やめろよ、と顔を背けられた。
ちらりと見えた彼の頬は赤くて、時間差で自分の頬も熱くなっていくのを感じた。

予報通り晴れた空の下、また明後日学校でねとお互いろくに顔も見ずに別れを告げた。

一体、明後日以降どんな顔で学校に行けばいいんだろう!
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