しかし、シャーロットを笑わせるというのは今となっては大変な難題であった。自分を必死に律し、こうあるべきという枠にはまろうと懸命に努力している彼女は、いつも花が咲いたように笑っていた昔とは別の少女のようであった。
すぐに1週間が過ぎ、グレンは頭を悩ませていた。妹と関われる時間が、あまりにも少なすぎる。朝から晩まで舞踊やら文学やらの時間が詰め込まれ、ゆっくり話すことすらできなかった。しかも間の悪いことに、招集の命令が少し早めにかかってしまったのだ。2日後には領地を立って、王都へ行かねばならない。
夕食時、家族にそれを伝えると皆とても残念がった。騎士の務めだから仕方がない、とロドリグは頷き、息子の安全を祈って盃を掲げた。
シャーロットは内心では心底がっかりしていたが、教えに倣って表にはそれを出してはいなかった。本当は自分も大好きな兄と遠乗りに出かけ、花摘みなどして遊びたかったのだ。グレンにしたい話が、聞いてほしい悩みがたくさんあった。忙しい騎士の身では、そう頻繁に領地には戻ってこられない。次に会えるのはいつだろうか、と盃の中で揺らめく水を眺めながら、彼女は一つの決意を固めた。
その晩、フラルダリウス夫妻の居室に控えめなノックの音が響いた。中に入ってきたのは、もう床についたはずのシャーロットであった。
「どうしたんだ、こんな夜半に。」
部屋に招き入れると、彼女はぐっと顔を上げ、両親の顔を見つめる。
「お父様、お母様。お願いがあるの。明日1日、私におやすみをください。」
「シャーロット、なんてことを言うの。明日も子爵夫人がいらっしゃるでしょう。早く部屋に…」
「お母様、わかっています。明日の1日だけでいいのです。明日おやすみさえいただけば、私はもう休みたいなどと言いません。明日の遅れを取り戻すためにお勉強の時間が毎日増えたとしても、文句は申しません。でも、明日だけ。私に、最後の自由をください。」
叱りつける母の声を遮って、シャーロットは言葉を続けた。まだ10歳のその容貌は子どもらしい線の細さにも関わらず、じっと父を見つめる目だけは大人も顔負けの強い意志を湛えて静かに輝いている。
はぁ、とロドリグはため息をついた。
「子爵夫人には、私からうまく言っておく。…明日だけでいいんだな?」
「はい、お父様。ありがとうございます。」
そう言って自室へ退がる娘を見て、ロドリグはシャーロットのあんな笑顔を見たのは久方ぶりだと胸の奥を痛めたのであった。
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