魔力の在り方
「魔力の扱いは難しい。」
父は常々そんなことを言っていた。
得意の回復魔法を武器に診療所を開いていたが、時々まるで研究者のように魔力と向き合い頭を抱えていたことを思い出す。
「魔力で火を放つことは簡単だ。自分の魔力の動きを感じ取り、理学とやらを修め、対象に向かってファイアーと唱えるだけ。」
「簡単ならみんなできるんじゃないの?」
「理学が理解できなければ無理だ…と、言われてはいるが、やろうと思えば、まあ、皆できるんじゃないかな。」
ふわっとした返答だが、そこには父なりの考えがあった。魔力を扱うために必要な知識はそれだけじゃないのだ、と。
フォドラでは理学や信仰を修めて魔法を使う。難解な術式や魔法陣を頭に刷り込み現象を利用する黒魔法。女神を信仰し教えを学ぶことで、誰かの為になる力や悪を祓う力を得られる白魔法。このどちらもがフォドラ独自の習得方法である。
フォドラの外では別の習得方法があるらしく、そこでは難解な術式の理解や女神信奉が必要ない。私は魔力を扱う際に、そのようなものを教えられたことはなかった。
「私が魔力を扱う際に最も必要としたのは、根気と願いでした。」
「………精神論で魔法を習得したと言うことでしょうか。」
「まあ、大雑把に言えば。」
「そんな馬鹿な話、ありえませんわ!」
声を荒らげたコンスタンツェを見て、まあそう言うだろうなと頷く。
フォドラの一般的な魔導知識として理学という学問は存在する。それを修めずして魔法は扱えないとも聞く。
「ですが、私は理学なんぞ殆どわからなくても、魔法はそれなりに使えますよ?」
「…そんな、いえ…まさか…、」
「父が言うに、理学は誰もが魔法を使役しやすくなるよう記号化された間口の広い学問なのだそうです。私が主に扱う魔法は闇魔法と呼ばれていて、私はそれを習得する際に理学は習いませんでした。」
「闇魔法…、ハピもそれ使うよ。」
「あら、ではご先祖さまが繋がってるのかもしれませんね。」
「え、どういうこと?」
「父の家系では皆が闇魔法の素質を持っていたらしく、先天的に知識を得ているのだと言っていました。」
闇魔法を目の前で実演されると、生まれ持っている素養や知識がカチリと開くような、そんな感じでやり方自体は理解できる。闇魔法の顕現に至るまでは根気が要るが、小難しい術式は全く必要なかった。
「他の家系ではまた違ったそうで、例えば魔法そのものを身に受けることで素養を得たり、魔力と炎や風の現象をひたすら擦り合わせることで魔法を使ったり、と様々だったそうです。」
「……独特すぎて着いていけませんわ。」
「父は流民でしたからね、様々な地の魔法について知っていました。ハピはどのようにして魔法を習得してのですか?」
「え…フツーに理学を勉強したけど。たぶん、ご先祖さまがどうとかはないと思うよ。ハピ、闇魔法が最初から使えたわけじゃないから。」
そう言う彼女は目を伏せていて、なぜか少し拒絶の気配を見せた。珍しい声音で気にはなるが、あまり詮索すべきでもないだろう。そうですか…とゆっくり返すに留めた。
「そうそう、白魔法もフォドラと他では違うようですね。」
「信仰を学ぶのではなくて?」
「フォドラの外にセイロス教はありません。信仰する神も教えも違うのです。」
「あー…言われてみれば、そうだね。パルミラとかブリギッドには違う神様がいるんだっけ?」
「そうだと思いますよ。白魔法……私がまず教わったのは回復魔法ですが、その根源は祈願だそうで。魔力の流し方を覚えた後は、ひたすら祈りを捧げ願うだけでした。」
「…祈願…。」
「誰に祈るの?女神様、じゃないんだよね?」
「救いたい相手に祈るんですよ。誰かの痛みを癒したいならば、その対象に祈願するんです。はやく良くなりますようにって。」
「子供騙しのおまじないじゃん。」
「まさかそれだけで貴女は回復魔法を扱うようになったと?」