休息日の真実と眩惑



一週間ぶりにアビスへ降りて深呼吸をする
黴臭く冷たい空気を吸い込んで、こんな所が安息の地であることに渇いた笑いが零れた。


「ここに来てそんな清々しい顔すんのはリルメくらいじゃねえか?」
「ふふ、そう?」


喉を鳴らすように笑い、その通った空気に胸がひび割れるかと思って少し途方に暮れる。そういえばこんな風に笑ったのも一週間ぶりなのだと気付いて、強ばった頬にそっと触れた。
もう一度深呼吸をすれば今度は冷たい空気に噎せて、そんな私の背をユーリスは呆れたように叩いてくれた。

( ……確かに、暖かな陽も射さないし清廉な風も吹かない場所だけど、 )

居心地の悪いどこかから逃げてきた人間や、誰の目からも隠れていたい人間にとって、ここは地上と隔絶された安心感を覚える場所なのだ。ワケありばかりの街なので基本的には互いに不干渉、という点も好ましいと思う。

もちろん、好きでアビスにいる人間ばかりではない。アビス以外に居場所がなく、どこかへ行きたくても、どこにも行けない人間は大勢いる。むしろそれらが大半ではあるが、それでも私にとっては居心地のいい隠れ家のようなものだ。


「……で、どうよ?」


ユーリスが頬杖をついてこちらを見た。相変わらず地下の女王さながらの美しい顔だ。

「どう、とは?」

同じように頬杖をついて微笑みかけると、ユーリスの綺麗な指先に小鼻を摘まれ「んぎゃ」と可愛くない悲鳴が零れた。


「はは、変な顔だな」
「んだと、自慢の顔に何してくれる」
「自慢のご尊顔に吹き出物できてんぞ」
「え、うそ!」
「うっそー」

クソが。
おどけるユーリスの小鼻を摘み返してやろうと伸ばした手は、するりといなされた挙句に掴まれた。そしてくるんと返され掌を撫でるように擽られる。咄嗟のことで我慢ならずに笑うと、前髪がくしゃりと撫でられた。柔らかで温かなこそばゆさ。


「……ちゃんと寝てんのか?」


撫でていた私の前髪をかきあげて覗き込んでくる薄紫色の瞳。ユーリスは一見すれば怜悧な美貌の男だが、面倒見のいい気遣い屋だ。そして単純に優しいだけではなく、相手を見抜く鋭さを、刃にして向けることもある。だから誤魔化すようなことはせず「それなりに」と返した。


「吹き出物は嘘だが肌が荒れてんぞ」
「そっかあ……じゃあ今日は昼寝でもするよ」
「いつもしてんじゃねえの?」
「それができないんだよねえ。時間持て余してたら、顔合わせという名のお見合いさせられたり、いつもの小言をまくしたてられするんだよ」
「……いい男はいたか?」
「さあ、よくわかんない。結婚願望がないと、人のことをそういう目で見れないのかも」
「ま、お前の場合は反骨精神もありそうだがな」
「ふふ、確かに」


どこぞへ嫁げと望まれれば望まれる程、どこにも行きたくなくなる気持ちはあるだろう。アビスや灰狼の学級から離れたくないという気持ちもある。
もちろんディミトリのように人の良さそうな生徒もいるし、きちんと交流してみれば思わぬ縁を持てる生徒もいるだろう。しかし、どうしてもその気になれないうえ地上での私は愛想も好評もない不肖姫だ。必死こいて良縁を掴む、ということには全く積極的になれない。


「……そういえば、噂の新任教師はどうなんだ?」
「ああ、ベレト先生だっけ?金鹿の学級ヒルシュクラッセの担任になったらしいね」
「会ったことないのか?」
「うん。そういえば見かけたこととないや。ユーリスも?」
「ああ……しかし、金鹿の学級ねえ…級長はリーガン家の嫡子だったか」
「クロード=フォン=リーガン、だね。変わった毛色の生徒だよ」
「ふーん、お前がそう言うならよっぽどだな」
「どういう意味?」
「そういう意味だろ。…で、どのへんが変わってると思ったんだ?」


その質問にあの日のもろもろを思い返した。
クロードに声をかけられた際の言動や、冬の女王の話をぽろぽろと零す。すでに冬の女王については記憶があやふやになりつつあるが、それでもユーリスは「へえ、初めて聞いたな」と感心した。


「冬の女王か……そんな風に言いながら、お前の顔には惑わされてねえんだな」
「私の顔は整ってる方だと思うけど特別美人なわけではないからね。このちょっと下がった眉がどうにかなれば、少しは美人になれそうなんだけど」
「いや、どうだろうな?少しつり目なんだから、眉は上がってるより下がってるほうが………、」


そう言いながら手を伸ばしたユーリスは、私の眉尻に触れてついっと持ち上げる。じっと見定めるユーリスを真正面から見返していると、相変わらずのユーリスな美貌に溜め息が漏れた。


「………やっぱ、気の強そうな感じになるな。これも悪くねえが、眉が下がってても十分に…黙ってれば美人系、くらいにはなる」
「ひとこと余計だね。正真正銘の美人に言われると言い返せなくなるから顔の評論はもうやめよう」
「いや、お前だって…………まあ、いいか」


ユーリスは、私の顔から手を離すと目を反らした。それになんとなく腹が立ったのでユーリスの眉尻も指先で上げてみたが、それでも美人は美人だったので思わず舌打ちをしてしまう。
そんな私に呆れた顔で小さく笑ったユーリスは、お茶を注ぎ足して「話を戻すが」と声音を変えた。


「そのベレトとやらが教師になったのは何故だ?課外活動中に生徒を救った傭兵ってのは聞いてるが…」
「課外活動中の襲撃で教師が逃げ出したから、その穴埋めらしいよ。とはいえ、他に相応しい人はいくらでもいると思うんだけどねえ」
「レア様から何も聞いてねえのか?」
「うん。これについての話だったのかはわからないけど、大司教に呼び出されて…でも、なんかセテスさんと言い合いしてたから、まだ話せてないんだよ」
「あの大司教に忠実そうな補佐と言い合い?やっぱ、その教師の件か?」
「たぶんね。今は、フレン…セテスの妹もいるんだから、不安要因を増やすなって聞こえた」
「そりゃ一介の傭兵をいきなりここの教師にするなんて正気を疑う。問題が起きる気しかしねえだろうよ」


教師として指導しなければいけない相手は、各国の貴族からの預かり物である大事な生徒達だ。それをぽっと出の傭兵に任せようとしているのだから、彼が気を揉むのは当然だろう。


「……あの人は何を考えてんだろうねえ」
「懐刃ジェラルト…だったか?元騎士団長の息子だからと、変に期待してんのかもな」
「そんな危うい信じ方をするかなあ、仮にも大司教が。ここに莫大な金を落として子供を通わせてる奴らが何て言うか、わからないはずがないのに」
「あの時みてぇな奴が出てきたら、次はどう対処すんだろうな」
「……」


ユーリスの言うあの時とは、彼がまだ士官学校の生徒だった頃のことだ。
黒鷲の学校アドラークラッセの生徒の一人が、実践で腕を落としてしまい、その生徒の親が教団に賠償金を求めたことがある。その身分を振りかざし「今後の寄付が」とか「悪評を流す」だとか言って、随分としつこく責任追及をしてきたそうだ。もちろん武を修める学校なのだから、入学する際に「死亡時・負傷時の責任は負いかねる」という体の誓約書を交わしているのだが、人は都合の悪いことは忘れてしまうらしい。


「……あの貴族…最終的には人質取って教団を脅そうとしてたらしいね」
「……それをセイロス騎士団に鎮圧された挙句、以前からの司祭への贈賄がバレて帝国内での地位も剥奪。教団への武力行使を促した贈賄司祭も教団から追放されたそうじゃねえか」

なあ、リルメ?

艶やかな声で囁くユーリスが、こちらを見つめてゆっくりと目を細める。大変色っぽいのだが、それに揺さぶられるほど彼との付き合いが短いわけではない。対抗するように嫣然と微笑み返して小首を傾げた。


「人質にされるよう仕向けたうえ、ひと暴れした奴のおかげだな?」
「……うん?」
「俺様の目から逃げられると思ってんのか?」
「なんのことやら」


肩を竦めて流せばユーリスもやれやれと悪どく笑った。

確信を持ったうえで探られているのだろうが、ユーリスは別に事実確認がしたいのではないと思う。
ベレトや新入生のことなどに関する情報交換をすることはあっても、ユーリスは必要以上に相手を暴こうとはしない。全て話そうと思えば聞いてくれるだろうけど、過度な干渉はしない。
だからこそ、私はここが心地良いのだと思う。



◇◇◇



フェリクスは眠れなかった。
週に一度の休息日。自由にこころ行くまで訓練ができるのならと、一日の大半を訓練に注ぎ込んだ。居合わせた人間と手合わせをしたし、身体作りにも時間を割いた。ここまで動いたのは久々だと言うくらいまで徹底的にやって、さすがに疲れも出てきて、今日は泥のように眠るはずだった。
あの教師の剣技を見るまでは。

( ……鋭く、無駄がなかった )

訓練を終え疲れきったその時に見た、新任教師の剣さばき。担当する金鹿の学級の生徒を指導していたのか、たった一閃、手本のように示しただけだというのに、思わず目が奪われた。揺らぐことなく真っ直ぐに空を切った鋒と、夕陽に煌めくような剣筋を見て、これが美しいということなのかと、らしくもない感想を抱いた。恐らく疲れていたのだろう。

( ……訓練場の施錠時間は何時だ?そもそも指定があったか? )

訓練場ほど自分が通い詰めるであろう場所もないのだ。細かい規則については一通り覚えている。大修道院内の消灯時間は決まっているが、訓練場の施錠時間は特に記載されていなかったはず。
そう思い至ってしまえば、行動は早かった。足も腕も筋肉痛特有の重さはあるが、不思議と足取りは軽くなる。明日は平日で訓練も講習もあるのだから無理をすべきではないのだが、このままでは眠れないのだから仕方ない。


部屋を抜け出し、静かな廊下を歩く。月明かりが強い今夜は、松明などなくとも大丈夫そうだ。幸い見回りらしき人間に出会すこともなく、寮を出てすぐ訓練場に辿り着いた。
懸念していた訓練場の扉は、施錠の確認をするまでもなかった。

( 僅かに開いてる…、誰かいるようだな )

静まり返った夜闇の中で息を潜めると、石床を踏み締める音が聞こえてきた。開かれた扉の向こう、訓練場の中からだ。自分と同じことを考えているのか、誰か知らないがこんな夜更けに訓練しているのだろう。ならば遠慮の必要はないと考えて訓練場に踏み入った。
女の声が聞こえてくる。


「…リッツァ先生」
「……イエリッツァだ」
「今の、わざとですね?」
「何のことだ…」
「あとちょっとで耳落ちるとこだったんですけど」
「…落ちてないからいいだろう…」


そんなやりとりの合間に、ひゅんと空気を裂く音が混じる。見れば訓練用の剣を持ったイエリッツァと、不肖姫と呼ばれていた女が稽古をしていた。
イエリッツァには今日少しだけ指導をしてもらったが、彼の槍さばきもまた素晴らしく自分は全く歯が立たなかった。

( …剣も使うのか )

イエリッツァの奮う剣はやはりというか見事なもので、それを不肖姫が間一髪のところで避けている。ブォンっと唸る程に薙ぐ彼女の剣は、見慣れないものだ。月光とたった一つの松明に照らされただけの薄明かりの下、その剣は何かを纏うように煌めいている。イエリッツァの躱し方を見るに、不肖姫の剣は目に見える刀身以上の力があるのだろう。…であれば恐らく魔法剣のようなものの類になるはずだ。

( ……速い…! )

不肖姫は訓練用の剣よりも遥かに重そうなそれを軽々と奮い、自分でもどうにか目で追えているようなイエリッツァの動きに食らいついていた。以前目にしたサンダーソードは、訓練用の剣の倍は重かった。それに類似した、決して細くはないあの剣をあの細腕でどう扱っているのだろう。


「…以前より少し、勢いがない……が、無駄もない…」
「器用になったでしょう?」
「……だが、足りない」


口の端を上げて挑戦的な笑みを浮かべる不肖姫を、イエリッツァは苛烈なまでに追い立てた。シィッンと聞きなれない音がして剣が交わると、その風圧は離れた自分にまで及び、ふわっと前髪が浮いた。


「!……誰だ」


イエリッツァは咄嗟に不肖姫を背の後ろへ押しやると、周囲を見渡した。自分の存在に気づいたのだろう。警戒心を露わにするイエリッツァから逃げも隠れもするつもりはないので、堂々と訓練場内に入った。

「……フェリクスか…」

どうやら自分の名を覚えていてくれたらしい。警戒をとき剣を降ろしたイエリッツァの後ろから、不肖姫が小さく顔を出す。


「…フェリクス……フラルダリウス家の?」
「ああ、そうだ。お前は…、」
「私はリルメ。フェリクスはこんな時間にどうしたの?」
「訓練しに来たに決まってるだろうが。お前こそ何故こんな時間にここにいる」
「訓練場も先生も、昼間は生徒達の為のものでしょ。だから、こうして夜に借りてるんだよ」
「……余計な気を使うな…面倒だ」
「また言ってる……リッツァ先生、今は業務時間外でしょ?手当を受け取ってもらわないとこっちが困るんですよ」


そう唇を尖らせるリルメにイェリッツァが小さく溜め息を吐く。業務時間外、などという言葉が妙に不似合いで思わず二人を見比べた。


「もうっ、何も言わず受け取ってくれるシャミアさんを見習ってください。カトリーヌさんもアロイスさんもあれこれ言いはしても、ちゃんと理解してくれるのに」
「……知ったことではない…」


ふいっと顔を背けるイエリッツァに、リルメは整った眉を寄せて小さく息を吐いた。

愚かで怠惰な不肖姫。その噂はもちろん知っていた。
修道士達が祈りを捧げている時間を書庫で潰し、司祭が信者達に教えを説く場所の裏側で猫と戯れる。何の目的もなく怠惰に過ごすその姿は噂通りで、目障りですらあった。

『敬虔な信徒ではないが、決して愚かな方でもない』
父親がそう評していた時のことはよく思い出せない。興味がなかったので、ろくに覚えてないのだろう。何やら不肖姫について語っていたような気もするが、その言葉を今の今まですっかり忘れていた。


「……所詮は噂、か」
「うん?」
「おい、リルメ。俺と手合わせをしろ」
「え、やだよ」
「何故だ。お前はわりと良い動きをしていた」
「今日はもう集中力切れたから無理」
「見たところ、まだ動けそうだが」
「体力の問題じゃなく、集中力の問題なの。もう時間も遅いし、また今度ね」


そう言いながら剣を鞘に収めた動作は、さながら騎士のようで随分と様になっていた。先程の話から考えるに、セイロス騎士団から手解きを受けているのだろう。
不信心かどうかは知らないが、怠惰であるというのは、もしかしたら少し違うのかもしれない。


「リッツァ先生、今日もありがとうございました」
「…イエリッツァだ」

何度となくされた掛け合いなのだとわかる馴染んだ声。イエリッツァは素っ気なく背を向けて訓練場から出ていき、リルメも訓練場を片付け始め、一つだけ掛けていた松明を手に取る。
やはり手合わせは次回になるらしい。


「あ、フェリクス。私が夜中に訓練してることは、誰にも言わないでね」
「……は?」
「私が鍛えることをね、大司教達は黙認してくれてるけど、良い顔しない人も多いんだ」
「……」
「リッツァ先生とか騎士団の手を借りてるのも知られたくないからさ、お願いね」
「…では、手合わせはいつするつもりだ」
「あ…ほんとにやるのね……まあ、やるとしたら夜かな。休息日の前夜がいいんじゃない?」
「フン…ならば黙っておいてやろう」
「ありがとう」

あんまり関心がないようで助かるよ。緩く微笑んでそう言ったリルメと連れ立って訓練場を出る。
扉を閉めてくれと言われて訓練場の扉を押すと、どういうわけかいつもよりずっと重く感じた。腕と肩に倦怠感が伸し掛って、疲労の度合いを漸く実感する。

そのまま寮までの僅かな距離を並んで歩く。互いに何を言うでもなく、静かな夜の中で二人の足音だけが響いた。

リルメの使っていた剣は何なのか、いつ頃からどのような鍛錬をしているのか、まだ手合わせをしたことのない聖騎士たるカトリーヌや他の騎士達の実力は如何程なのか。
それらの疑問が頭を掠めては、隣の静かな存在感に気が散ってしまう。宵闇に靡く髪が視界を柔らかくちらついて、自分のものとは違う軽やかな足音に気付くと、自分でもなぜだかわからないままに息を潜めた。


( 他人との居心地など、気にしたことはなかったが… )


猫と戯れる姿を目障りだと思ったことがあるのに、数秒程たたかいの動きを見ただけで、こんなにも落ち着かない。

(……緊張…しているのか?)

いやまさかと頭を振る。ただ、想像以上に手応えがありそうだから手合わせが楽しみであるだけだろう。
今年の士官学校はとりわけ有力な貴族が揃っているから不肖姫は婿探しに精力的なのだと、そんな噂を耳にしたこともあったが、そんなことはもうどうでもよかった。

寮の入口に差し掛かり、そういえばリルメの部屋は寮にあるのだろうかと横を見下ろした。向こうも自分を見ていたのか、ばっちりと目が合う。


「……明日からは、学級対抗戦に向けての指導が本格化する」
「…あ、ああ」
「気が昂ってしまうのかもしれないけど、あまり無理はしないようにね」


リルメが唐突にそう告げて片手を翳すと、その掌から柔らかな光が零れた。治癒の魔法は何度も見てきているのに、夜にぼんやり浮かぶその光は初めて見る色をしている。


「……は…?」


キラ、と小さく明滅する光を纏う銀糸の髪と淡く照らされた白い頬、濃く影を落とす睫毛とその奥にある瞳。微睡むように緩んだ口元にまで視線が固定されると、思わず呼吸が止まった。


「……」
「…それじゃ、おやすみ」


静かな声が耳に届き淡い光が収束した時、リルメは背を向けて大聖堂に向かっていた。

( …寮に部屋があるわけじゃないくせに、わざわざ俺を送ったのか…? )

身体の痛みと重さも「心地よい疲労感」程度に和らいでいる。あとはもう寝るだけだというのに、何故わざわざ回復魔法をかけたのだろう。そもそも見慣れないあの光は、本当に回復魔法だったのだろうか。


「……なんだ…?」


あれこれ疑問が沸き立ったものの、瞼の裏には数秒前の淡い光が焼き付いている。光というよりも、それを纏ったあの顔が。
目を閉じれば魔法剣を奮う姿と淡い光がチラついて、泥のように眠るはずだった夜の、昏昏とした時間が少し長引いたのだった。