蝋燭明かりだけの薄暗い天幕の中。気持ち程度に香を焚いて、ジュリアの片手をゆっくりと摩った。
昔、勉強がうまくいかなくて投げやりになっていた私に、母がこうしてゆっくりと語りかけてくれていたのを思い出す。
「今朝はね、雨が降っていたそうですよ。水汲み場が増水して、少し離れた通路では雨漏りもしていたとか。」
「……。」
「天気の悪い日は嫌ですねえ。ここは盆地とはいえ山の中腹で、そのうえ地下ですから、空気もちょっと薄いでしょう?そういう日は、体調が悪くなりがちなんです。きっと、そういう人って多いですよ。」
「……。」
「ジュリアさんはどうなんでしょう。身体が弱かったとお聞きしましたが、ここまでしぶとく生きているのですから、弱くはないのかもしれません。」
「……主よ、」
「そういえば、主は天上にいるのでしたね。雨が降ることを、主が嘆いていると言った人がいますが、」
「わたしを、御許へ、」
「あなたがそんな風に言うから、雨が降っているのかもしれませんね。……と、修道士なら言うのでしょう。」
香草粥をジュリアの口に流し込み、ダリスをウテナへ預けた夜。眠ることなく、しかしこちらの声を聞いているわけでもない彼女は、ただ目を閉じて祈っている。摩っても摩っても表面が熱くなるばかりで、まるで温まる気配のない腕。
今日初めて会ったばかりの私の声が届くとは思っていなかったが、反応のない相手に語りかけ続けることは、想像以上に辛い。
昔に母がこんな風にしてくれていたのは、私が血の繋がった子供であり、投げやりで頑なだった子供の心が、未熟ゆえの動きだとわかっていたからで。そして長らく不貞腐れていた当時の私に呆れることなく、根気強く向き合って愛情を注いでくれたのは、彼女が母親だからで。
「…母親は偉大なものですね。」
「……。」
「私は、出会ったばかりの他人であるあなたに、たいした情は持ちませんし…あなたの心を、少しばかり察することはできても、晴らすことはできない。」
「……。」
「そして、あなたがどれだけ口先で望もうと、私は女神にも死神にもなれません。」
そう話しながらも、ジュリアは「わたしに慈悲を。」と呟いていただけなのだから、本当にどうしようもない。
「……眠くなってきましたか?」
ジュリアの呼吸が深くなるのを感じて問いかける。焚いた香は眠気を誘うものなので、自分自身の瞼も重くなってきた。
「きっと、」
「……。」
「…ずっと…眠っていたくて、」
「……。」
「生きていることを忘れたいのですよね。」
「……。」
「現実に戻されるくらいなら…と、思うのでしょう。」
「……。」
「でもね、ジュリアさんが目覚めなければ、地獄に落ちてしまう子がいるんです。」
「……。」
「だからあなたは、目覚めたら、いつか、祈ってくださいね。」
自身の解放ではなく、