次の舞台へ



おおよそ月に四、五回——私は地元の市が管理する体育館へ訪れるようになった。
そこには男女問わず、経験者未経験問わず、そして年齢も関係なくバレーボール好きな人が集まる。

飛雄からの手紙を機に私は再びバレーボールをする決意をした。といっても今更マネージャーを辞めるつもりもなかったし、確保できる時間と今の実力を考慮して地元のバレーボールクラブに入ることにした。

一人で行くには中々に勇気がいたけれど三回ほど顔を出してしまえばあっという間にその輪に溶け込んでしまった。
一度の集まりで掛けられる時間は二時間程度。初めに軽くアップを行ってあとは獲得点数を低めに設定しゲームを行っていく。さすがに男女でチームは分かれるけれどメンバーの多くは社会人だからか力加減が半端なかったりする。

ボールをアンダーで取れば腕は内出血したしオーバーで取れば突き指した。膝にはサポーターを巻いているのに青あざができた。でもそれも徐々になくなっていき、それと同時にバレーの楽しさを思い出していった。

「自分ほんま上手いなぁ。本気でやりたいんならいいチーム紹介するで」

学校が冬休みに入り、部活はあれどいつもより早めに体育館へ来ることができるようになった。そんなある日のクラブチームでの練習の合間、一人の男性に声を掛けられた。どうやらこの人はかつて大学でバレーボールを指導していたすごい人らしく、色々な伝手を持っているらしい。ここ最近の私の様子と、中学時代の戦績を聞いて声を掛けてくれたらしかった。

その言葉は素直に嬉しかったけれど私は簡単に頷くことはできなかった。
もう怖くはない。しかし、バレーボールをするという楽しさの他に今は別のやりがいを見つけていたのだ。

春高まで一カ月を切り部員達の士気も高まっている。そんなとき、私に何ができるのか考える。皆の様子を観察し、先生や部員たちと話し合い練習メニューを組んだり戦法を考える。それが自分の性に合っている気がした。

「それならええんとちゃう?バレーをやるだけがバレー好きとはちゃうからな。その裏を支える監督やコーチ、トレーナーも栄養士も理学療法士も皆バレー好きやねんから」

自分の意見を素直に述べ誘いを断った私に、男性は笑ってそう言った。
その一言に、自分が今までとても狭い世界にいたのだと気づかされた。治先輩とまではいかないが自分のやりたいことが漠然と見つかったような気がした。



今年最後の部活の日、一番乗りだと思ったのに私よりも早く侑先輩と治先輩がいた。先輩達には決して言えないけれど、この二人も中々にバレー馬鹿である。

「おはようございます」
「おはようさん」
「めっちゃ早う来たんやな」
「なんだか早く目が覚めてしまって。私にできることありますか?」

朧げに形作る自分の未来にまだ確信は持てないけれど今は目の前にあることに全力を注ぎたい。

「「じゃあトス錬付き合って」」

二人の声が重なり本日初めの宮兄弟の喧嘩が開始される。
それに小さく笑って私はボールをもって駆け出した。


次は春高。
そして全国の舞台。



 



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