絶対にまた



朝に僅かに積もっていた雪は溶けていて、空の青が目に染みた。


「ごめん、遅れちゃった。お待たせ!」
「ええよー。迷わへんかった?」
「うん、だけど人が多くて……あ、そうだ。あけましておめでとう!」
「せやった!あけおめ、今年もよろしゅう」

取ってつけたような新年の挨拶に、友人と顔を見合わせて笑った。

ほぼ毎日部活はあるが流石に元旦は休みだった。しかし春高が行われるのは四日後であるから明日からはまた部活である。
唯一の休みであった今日は友人と初詣に来ていた。

「近くにこんな大きな神社があったんだね」
「地元じゃ有名やねん。夏は祭りやったり…ってあんたは部活で来られへんかったな」

兵庫に引っ越してきてから随分経ったが私は通学路と市民体育館の場所くらいしか知らなかった。まぁ学校に近いコンビニや本屋には行ったりするが観光っぽいものをしたことがない。だからこの神社も初めて来たし周囲のお店なんかも物珍しく感じた。
友人に案内してもらいながら神社の中を歩く。先ずはお参りをしようと拝殿まで向かった。

長い列に並び、順番が来たところで賽銭箱にお金を投げ入れる。
二礼二拍手をし静かに目を閉じ沢山のことを神様にお願いした。五十円にしては欲張りすぎてしまったかもしれない。最後に一礼して列から抜けた。

「めっちゃ真剣にお祈りしとったね」
「お願い事が多くてね」

稲荷崎はすでにシードで春高二日目からの参加が決まっている。そしてその初戦では飛雄がいる烏野高校と当たる可能性もある。
だから烏野高校が二日目まで残るように祈った。でも優勝するのは私たちです、と神様には伝えておいた。ここ大切。
これは神頼みではなく宣言だ。
インハイ二位の悔しさは疾うの昔に消化した。だからこそ次に行くべき場所は頂点。

その後はおみくじを引いたり出店の物を買い食いしながら神社の周りを歩き回った。
一時間ほど経ったところで友人は祖父母の家に行く予定があるとのことで早めの解散となった。

まだ日も高く時間はたっぷりある。しかし私自身、特に用事もなかったので帰ろうと家の方角へ足を向けた。しかしそこでお守りを買い忘れていたことに気付く。先程はおみくじを引いて満足してしまったのだ。

再び神社へと向うが相変わらず人が多く、もみくちゃにされながら授与所まで辿り着く。ここも相変わらず混んでいる。背伸びをするとお目当ての必勝祈願のお守りが見えた。神頼みはあまり好きではないが精神安定剤としてこれは私の中で必須アイテムだった。

「あっ」
「マネージャー……?」

人の隙間から手を伸ばしてお守りを掴むと大きな手が被さった。驚いて手を引っ込め声の主を探すと見知った人物が大きな瞳で私を見ていた。

「治先輩!?あっ、あけましておめでとうございます」
「おん、あけましておめでと。びっくりしたで」
「私もです」

ほい、と私が一度手放したお守りを渡してくれた。そして治先輩も同じ物を手に取る。

「一人で来たん?」
「いえ、友達と来てたのですがさっき別れたんです。それでお守りを買い忘れたことに気付いて戻ってきました。先輩は?」
「ツムと角名と銀と一緒に来てん。あいつらは向こうでおみくじ引いとるよ」

お互いに会計を済ませる。せっかくなら他の先輩方にも挨拶しといた方がいいかと思い治先輩に着いて行くことにした。

「全員"中吉"とかおもんないな」
「可もなく不可もなくって感じ」
「もっかい引くか?」
「それ意味あるの?」
「なぁ、マネージャーに会ったんやけど」

侑先輩、角名先輩、銀島先輩が話している場所まで連れてきてもらった。昨日は部活だったからこんな形で会うのは不思議な感じだ。それに先輩方の私服姿はなんだか新鮮だった。

「あけましておめでとうございます」
「びっくりした!サムがナンパしてきたかと思うたわぁ。あけおめー」
「あけおめ。ほんと、一瞬だれか分からなかった」
「マネージャーも元気そうやな!今年もよろしゅう」

改めて見ると先輩達ってすごく目立つな。バレー部員はみな背が高いから今まで気にも留めていなかったが一般人に混ざるとかなり大きいし目立つ。周囲の女性がチラチラとこちらを見ているのが分かった。
先輩達の背に埋もれるようしばらく五人で話していたらぐぅ〜とはっきりとしたお腹の音が聞こえた。

「腹減った」

音の主はやはりと言うべきか治先輩だった。「家で餅食うてきたやん」という侑先輩の言葉をよそに治先輩は辺りを見回し屋台を物色しているようだった。そこでたい焼きの屋台を見つける。そして私たちを一瞥しじゃんけんをしようと言い出した。

「久しぶりにやらへん?負けた奴が奢るやつ」
「勝つとサムはえげつない量頼むやろ?一人一個ならやったるわ」
「年初めにええんちゃう?運試しや!」
「マジで?銀もやるなら俺もやらなきゃじゃん」
「マネージャーもやるやろ?」
「えっ」

たい焼き……食べたいと言えば食べたいがそこまでお腹は空いていない。しかも負けたら全員分奢るのか。一個三百円でそれが五人分だから合計千五百円。払えなくもないがリスクが大きいような気がする。

「あのー私は……」
「決まりやな。負けた奴が奢ること!」

辞退しようと思ったのにもうじゃんけんをする流れである。しかもめちゃくちゃ熱くなっている。
やるしかないのか、と腕を上げようとしたところで袖が小さく引っ張られた。

「マネージャー、チョキだして」
「え?」
「ほないくで!」

治先輩の掛け声で同時に手を出す。
銀島先輩、侑先輩、治先輩がパー。そして私と角名先輩がチョキで勝ち抜けすることができた。
負けた三人は落胆しつつもすでに次の勝負を始めようとしていた。それを横目で確認し、私は隣にいた角名先輩を見上げた。

「すごいです!角名先輩よく他の人の手が分かりましたね」
「あいつら勝負事の時はよくパー出すんだよ」
「覚えておきます」
「他の人には内緒だよ」
「はい」

勝負の結果、銀島先輩がたい焼きを奢ることになった。あんこがぎっちり入っていて私は一個で満足したのだが治先輩は自腹でもう一つ購入していた。

「腹も膨れたし行くか。角名、ボールは?」
「持ってきたよ。もう行けるけど」
「えっ皆さんこれからどこに行くんですか?」

明らかにバレーをする様子である。しかし、今日は学校が開いていない。もしや不法侵入するつもりなのだろうか。

「私有地を貸してもらうことになっとるんや」

一番近くにいた治先輩が教えてくれた。話を聞けば治先輩達の父親の知り合いがバレー好きらしく個人で持っている場所を貸してくれることになったのだとか。外だし地面は剥き出しだがコート一面分くらいの広さはあるらしい。

「春高まで日もあらへんのにバレーできひん日ぃあるのはしんどいよな」
「ネットも張ってくれとるんやったっけ?」
「今日は風もないしゲームもできそうやな」
「ってことは二対二?あれしんどいんだよね」
「……いいなぁ」

「「「「えっ?」」」」

しまった、と思った時にはすでに遅く先輩方が私を見ていた。

「今なんて言うた?」
「………何も言ってないですよ」
「嘘やろ」
「俺も聞いたで」
「いいなって言ったでしょ?」

矢継ぎ早に捲し立てられいよいよ誤魔化しが利かなくなってしまった。だから小さな声で「言いました」と呟いた。

「おーおーどうゆう心境の変化なん?」

侑先輩にニヤニヤしながら顔を覗き込まれる。でもそれは決して馬鹿にしているわけではなく純粋に嬉しそうな様子だった。

「実はまたバレーを始めたんです」
「「「「えっ?」」」」

今日は先輩方の声がよくハモるな。そんな感想を浮かべながら最近の出来事を話した。週に何日かバレーボールクラブに顔を出していると言ったら想像以上に驚かれてしまった。

「部活終わって直ぐ帰る日増えたんはそうゆうことやったんやな」
「あ…皆さんの自主練後の片づけまでできていなかったですね……すみません」
「なに謝っとんねん。銀はそうゆうつもりで言ったんやない」
「サムの言うとおり。マネージャーの仕事はちゃんとやっとるんやから文句なんかあらへんわ。それより俺らが言いたいんは——」
「どうして黙ってたの?」
「なんで角名が先に言うたん?!」

どうしてと言われても……
角名先輩にツッコミを入れている侑先輩を見ながら考える。

私のやっているバレーは所詮遊びだ。もちろんみんな真剣にやっているけれど大会に出たいとか優勝したいではなく純粋に楽しんでやっている。それは先輩方のバレーと比べればやはりお遊び。別に隠すつもりもないけれど、バレーやってますと言うにはどうにも気後れしてしまったのだ。

「それの何が悪いねん」

ありのままを話せば侑先輩は怒ったようだった。そして他の先輩方も。

「ええやん、遊びで。俺らかて楽しいからバレーしとんねん。強くならな遊びもおもんないやろ?強い奴らと一秒でも長く遊べるように練習しとんねん」

その言葉に、どうしてか自分が許されたような気がした。 
そっかぁ。そうだよね。と自分を肯定できた。

「じゃあマネージャーも今から練習するっちゅうことで」
「えっ!?」
「ええな!ちょうどリベロ足りひんかったし」
「あのっ」
「マネージャーいる方を三人にすればゲーム回せるね」
「ちょっと、」
「よし、行くで!」

侑先輩に腕を掴まれ全力で走ることになった。


その後は本当に先輩方に混ざってバレーをやることになった。そして初めのうちはそれなりに手加減してくれたのに徐々に本気でスパイクを打たれることになった。

「はぁ?!なんでジャンフロ取れんねん!」

それもこれも侑先輩が物凄く手加減して打ったサーブをちょうどいい位置にいた私が偶然にも取れてしまい目を付けられたからだ。

「もう一本!」
「無理ですってば!さっきのはまぐれなんですから!」
「まぐれが三回も続くか!早よ構え!」

腕も指ももげるかと思ったがすごく楽しかった。



そう、バレーボールが楽しかったのだ。


飛雄、「いつか」じゃないよ。
絶対にまたバレーをしよう。


 



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