インターハイ



見上げるほどの高い天井に、大きな照明。
試合前のヒリつく空気が心地よくて、足を付けた床が板じゃなくて驚いた。

インターハイ全国大会———
稲荷崎は一日目、二日目と先制で二セットを取りストレートで勝ち進んでいた。
三日目はファイナルセットにまで及ぶ長い試合が行われ、私は胃が痛くなりつつもベンチで彼等を見守った。

しかし、やはり先輩達の実力は確かなもので、ニュースなどでは「今一番ノッてきているチーム」と大きく報じられていた。
そしてその勢いを落とすことなく、決勝戦へと勝ち進んだ。



インターハイ、最終日———

体育館真ん中に一つだけ設けられるコート。
誰もが憧れるセンターコートだ。

まさか私もここに立てる日が来るなんて。
選手ではないけれどそれは本当に嬉しいことだった。

「なんや、緊張しとんのか?」

そわそわしながら、何度目かも分からぬ荷物整理をしていれば後ろから侑先輩に声をかけられた。正直、緊張している。でもそれよりも侑先輩の方が気がそぞろになっていた。多分、先輩は大分緊張している。私に話しかけてきた時点でそのことに何となく察することができた。

「相手強いチームですよね」
「あの井闥山やしな」

動画でも見て、ここに来てから生の試合も見た。個々の実力も確かだが、やはり注目すべきは佐久早さん。コースの打ち分けが以前よりもさらに上手くなっているように思えた。
また、侑先輩が気になっているのは主将の飯綱掌さんであろう。彼はJOCベストセッター賞受賞者だ。

「そういえば侑先輩はここにきてからサーブの調子がいいですよね」
「ほんまか?」
「はい。打率が上がっています」
「今年のベストサーバー賞取れるかもしれへんな」

侑先輩の緊張を解すことはできないかと頭をフル回転させる。何かないかと視線を遠くにやると、ある井闥山の選手が目に入った。私がここに来てから彼等の試合の度に目で追っていた人だ。

「そこで一つ、ご相談が」
「なんや?」
「リベロ側に多めにサーブ打てますか?古森さんの素晴らしいレシーブが見た——っいだだだだ!」
「おうおうおう、いつの間に生意気な口効くようになったなぁ!」

八割冗談、二割本音なことを言えば両側からこめかみをグリグリさせられた。

「誰が好き好んでリベロ側に打つか!」
「すみません、冗談です!でも侑先輩の調子もいいのでリベロ相手でも戦えるかと思って!」
「アホ抜かせ!サム聞いてや、マネージャーに虐められたー」
「因果応報やん」

愚痴りつつ先輩は治先輩の元へ帰っていった。
それを見ていた赤木先輩に「マネージャーも鬼やな」と笑われてしまった。これでも和ませたつもりだったのだが。シュンとしたら「侑の緊張も解れたと思うで」と言ってもらえた。やはり言ってみてよかった。
赤木先輩には、先輩のレシーブ捌き楽しみにしていますと激励を送った。そうしたら胃を抑えてどこかへ行ってしまった。どうにも匙加減が難しい。

目障りにならない程度に皆を見守っていると試合開始の時間になった。

一セット目、稲荷崎が粘るも先制は取られてしまった。
二セット目は井闥山リードのまま進むが、十七点目にして状況がひっくり返る。侑先輩のサーブとトスの精度が上がっているのは傍から見ても分かった。その後は追いつかれつつも粘りを見せ、デュースにまで縺れ込んだが稲荷崎が一セット勝ち取った。
このまま勢いに乗りたい三セット目は、それを阻止すべく井闥山の猛攻が続き二セットリードを許した。
後がない四セット目。試合開始時の流れは悪くなかった。先に二十点乗せ、相手との差は六点。ここで逃げ切れると思ったのだが向こうの追い上げがすごかった。


そうして、準優勝にて彼らの夏は幕を閉じた。
しかしその日の夜も決してお通夜のように暗くなるわけではなく、翌日帰るバスの中では早速決勝戦の動画を見て各々が反省点を上げていた。


その背中を見て、稲荷崎のスローガンに恥じない姿だと思った。


 



novel top