いつかまた
一個下に女の子の後輩ができた。
今年はマネージャーの募集を掛けると先生が言うた。全国行くようになってそういう仕事をしてくれる子が欲しなったんやて。
俺らとしても大歓迎。こんなむさっ苦しい男集団には癒しと花が必要なんや。
でも集まってくるんは使えんミーハー女ばっか。今回来た子もどうせそんなんやろな思たら彼女だけは今までの奴らと違うた。小柄ながらもよく働き、部活前の準備も完璧。野郎ばっかじゃ気付かれへんようなちっさいことにもよう気が付いた。それを誰に言うわけでものうて、さらっとやってまう。部誌の書き方も丁寧で彼女が書いたページは言わずとも部員達が熱心に読んどった。いつ声かけたろかなぁ思うてたらサムの方が先に仲良うなってた。ずるい。北さんと仲ええのは知っとったけど、二年で最初に仲良うなれるんは俺だと思っとったんに!
しばらくして彼女の話を聞けば元バレー部だったらしい。しかも結構な強豪校のスタメン。せやけど怪我してバレーするのが怖なった言うとった。俺には彼女の気持ちはようわからへんかった。だってそう言うとるわりに楽しそうに俺らの試合見とるやん。羨ましそうにしとるやん。色々言いたいことはあるけれど、あんま野暮なことはせんようにしようと思う。サムにも釘刺されてもうたし。まぁ俺が彼女に何を言うことはないけれど、いつかバレーができたらええなって思う。ほんまに。
で、その彼女にバレーを教えたいう奴がユース合宿に来るという。名前は影山飛雄。俺と同じセッターで一年坊主。どんな奴かと楽しみにしとったけどバレーはまぁ上手いとしてセッターとしては“お利口さん”って感じ。精度が高いトス上げられるんはここでは当たり前のこと。求められているのはさらにその上。それに気付けへんようならスパイカーとして活躍しとった方がええと思う。セッターは試合に何人もいらんねん。
合宿三日目、荷物の中から爪切り探しとったら預かっとった手紙を見つけた。あっぶな。すっかり忘れ取ったわ。
その日の練習後、飛雄くんに声を掛けた。昼間の練習の時、ポジション替えで同じチームで練習したからさすがに顔は覚えとったらしい。まぁ俺高校ナンバーワンセッター言われとるから当然知っとるか。そんな肩書もどうでもええけどな。
飛雄くんはおそらく人見知り。というか人付き合いが苦手?話しかけたらきょどられた。でも俺がマネージャーの名前を出したらびっくりするほど喰いついてきよった。今は稲荷崎でマネージャーやっとる言うたらまた驚いて、それで少し怒っとるようだった。
「これ渡してくれ頼まれた。謝りたい言うとったで」
手紙を渡したらしばらくそれを睨んどった。そんでぼそりと「ありがとうございます」言うて部屋に戻っていった。マネージャーの為にももうちょい話し聞きたかったけど無理そうやな。
それからは特に何事もなく合宿期間が過ぎていった。
俺も兵庫に帰るかと荷物を持ち玄関へと向かうと飛雄くんが俺を待っとったらしい。小走りでこちらに向かってきた。建前的な挨拶を一言二言交わすと一枚の手紙が差し出された。野郎からのラブレターなんていらんねんって思うとったらそれはマネージャーにあてて書いたものらしい。表には角張った字で彼女の名前が書かれていた。
「絶対に渡してください」
分かったと頷いて「ほなまたね」と声を掛け駅へと向かった。
別に二人の間に何があったとか、根掘り葉掘り聞くつもりはあらへん。
けど、もしも俺んとこのマネージャー泣かしたらただじゃおかへんとは思うとる。
受け取った手紙は大切にしまって、俺は新幹線に乗った。
◇
たった一週間だったけれど侑先輩がひどく懐かしい存在のように思えた。それは他の部員も同じだったようで帰って来て早々侑先輩はたくさんの人に囲まれていた。
「久しぶりやなマネージャー。俺がいなくて寂しかったやろ」
他の人たちに遠慮し、侑先輩に話しかけるタイミングを伺っていれば先に声を掛けられてしまった。
「確かに少し寂しかったですね」
スコアノートに記載する正の字がなくなってノートの隅を持て余すようになった。部活もいつも通りだけどどこか物足りないような。そんなことを私だけじゃなくて他の部員も感じているようだった。
「なんやストレートに言われると照れるな」
頭を掻きながら笑った侑先輩に私も笑った。
そうしていれば先輩の口から飛雄の名前と共に一枚の手紙を渡された。
「これ飛雄くんから預かってきたで。絶対に渡してくれ言われたわ」
角張った字で書かれた私の名前。その封筒を受け取って、大切に握りしめた。
「飛雄、元気そうでしたか?」
「まぁな。楽しそうにバレーしとったで」
「よかった……」
バレーは楽しんでやるものだ。それを彼も思い出したのだろうか。
そうあればいいなと思った。
すぐに読みたかった手紙は大切に鞄にしまい、私は帰路についた。
でもその手紙を読むには中々に勇気がいる。貰って嬉しかったはずなのに、いざ読もうとするとどうにも緊張してしまった。
家に着いても、夕飯を食べても、お風呂に入っても手紙は読めなくて。
結局、日付を超えて寝る直前になって封を切ることになった。
開けてみれば五枚の便箋が折り畳まれて入っていた。しかも全てびっしりと黒い字で埋め尽くされている。私が書いたものよりも量が多い。
書き出しは「手紙、ありがとう」とあったが、その下には何度も消して書き直した跡があった。
特徴的な角張った字は懐かしい。あと誤字も。相変わらず漢字が弱い事は変わりないらしい。昔と変わらぬ彼が知れた嬉しさと同時に手紙を読み進めていく。
あの時無神経な事を言って悪かった、足は大丈夫なのかと私を気遣う言葉。その次に今は烏野高校でセッターをしていることと、そこでの部員達の事について書かれていた。同級生のこと先輩達のこと、また夏合宿での他校との交流についても書かれている。色んな人の名前が出たけれどその中でも目に付いたのは"日向"という子の名前だった。
サーブもトスもディグも下手。そのくせ「トスくれトスくれ」煩い。試合中に新しいことをやろうとするし、失敗してもまたやろうとする。あんな馬鹿は見たことがないと書かれていた。
中学時代は飛雄に合わせることができずにみんなが離れていった。でも今ではその飛雄を日向君が振り回しているらしい。
烏野高校で飛雄はようやく仲間と呼べる人たちに出会えたのだろう。日向君は飛雄にとっての相棒で、私から見たら救世主だ。彼が居なければ今も飛雄は独りぼっちだったのかもしれない。
「いつかまた、お前とバレーがしたい」
最後はそう締め括られていた。
私がバレーを辞めたというのもお構いなしに、彼はまたバレーをやろうと言う。相変わらずのバレー馬鹿だなぁ、と笑ってしまった。
でもその言葉が何よりも嬉しかった。
無遠慮にも思われる彼の言葉の中にある優しさに、今度こそ私は気付くことが出来たのだ。
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