壁にぶら下がっているカレンダーを、トン、トン、トン、と、指でなぞる。オナニーをやめてからちょうど一週間、赤い丸で囲った数字の箱とピッタリ重なり、堪えきれない笑みがニタアと溢れた。

その笑いの意味を一ミリたりとも理解していない名前は、「何か嬉しいことでもあるの?」とズレたことを、にこにこと訊ねる。僕は、ベッドの上で無防備にファッション雑誌を眺める名前のもとへ、猫のように四肢を使って這い寄って、その目線が落ちた先の小綺麗な女たちが着せ替え人形よろしくしている誌面を投げ捨てた。
名前は、一瞬ぽかんとして、すぐに顔を顰める。


「何するの…!?」
「いいこと」
「……え?…いや、あの、そうじゃなくて、どうしてこういうことするの?って意味なんだけど…」
「いいことしたいから」
「……は?」

ワンテンポ遅れて僕の言う意味を理解したらしい、名前の頬に薄いピンクがさっと差していく。こういう雰囲気を察した瞬間の戸惑いさえ、ムラムラとさせてくれるから、早くも下着がギチギチと張って、痛かった。
一週間耐えただけあったな、おい。ねえ、我慢したんだ、ちゃんとご褒美はくれないと困るよなぁ。



「だ、ダメだからね…!今日は…」
「なんで」
「気分じゃないし…」
「本当?」
「本当…あっ…ダメ…!」
「ねえ…濡れてるよね、ここ…嘘はよくないよねぇ……」

するすると太ももから辿って、下着で覆われた窪んだ部分を指でさする。いつもよりもごわごわ固い感触に、また口角を上げずにはいられない。ちゃんとつけてるってことは、予定通りじゃん。二十数年生きてきて、初めてと言っていいほど珍しく自分を褒めたくなった。


「濡れてるって…これは違うよ……その…アレだから…」
「アレってなに」
「……だから、せ、生理…」
「一日目でしょ」
「な…なんで知ってるの……!?」

話しながらも肩を押しやり名前をベッドに仰向けにひっくり返して、くびれた腰を股で挟む。顎を引いて見据えれば、視線だけをカレンダーに向けた。名前は、その視線をほいほいと追った後、あっ…と、目を見開く。


「え…あの丸って…え…嘘でしょ……」
「この間の生理が先月の28日で、排卵日が今月の11日、生理周期が28日プラスマイナスだからさぁ……マークつけといてあげたよ…ヒヒッ…」
「…意味わかんないんだけど…ていうか、それってそういうの避けるためじゃないの、普通……」

正論を振りかざして僕の腕を押しのけようと微力にもほどがある力を込めながら、名前は体を起こそうとしている。いや、無理だから。避けずに確実にする為のマークだからね。

僕は遠慮なく男を使って腕を払いのけると、くの字に曲がっていた腹筋が見えるように服をめくった。その衝撃で名前の体が後ろに仰け反る。

「ちょっと、本当にやめてよ…やだってば……!」
「優しくするよ」
「そういう問題じゃないから!あっ……」
「わかる?おっきくなってるから、これ……お前のせいだよ、ちゃんと、して」


乱暴に掴み上げた掌を、ガチガチに硬くなっている股間に押し付けると、名前は更に頬を上気させて目を泳がせた後、観念したのか、トランクス越しに軽くしごいて、離した。こいつのこういう流されやすさ、好き。普通の女の子ぶったところで、お前だって好きだよなぁ、似たようなもんですよ。仲良くダメでいようよ、ねえ。

という言葉を流し込むみたいに、性欲のにおいをさせて、唇を重ねた。
遠慮なく舌を割り入れると、ベタッと全面を貼り付けて、小刻みに上下に動かす。くちゅくちゅとわざとらしい音が静かな部屋に際立って、精神的な高揚がまだいけんのかよっておかしくなるくらいゾクゾクとせり上がった。

ん……ふっ……と、吐息交じりの声を漏らしながら、知らないうちに回されていた指が、背中を忙しなくかき回す。淫乱かよ。ダメだ、早く挿れたい。いつもは名前が敏感になる部分を触って準備を整えなければならないのを(そういう行為も反応をみるのも嫌いじゃないけど)、今日はいつでもとめどなく潤滑油が溢れて働くから、いいでしょ、もう、今すぐで。


ベロベロと意識して下品に舐め回しながら下着に指を引っ掛けて、一気に下ろす。やらしい臭いが立ち込めるのでどうしても我慢できなくて唐突に口を離せば、ねばっと透明な糸が引いた先で、名前の目がとろんととろけている。ああ、たまらない。


「グチャグチャ」
「やだ……みないでよ……」
「こんなに汚かったら、これ以上汚しても問題ないよねぇ……」
「なんでそういうこと言うの……最低……」
「どうぞ蔑んで」
「……変態…っ」


眉根を寄せても瞳は艶っぽく潤っている。口では嫌がってても体は素直だなってやつ。僕は冗談をほどほどに、自分の下着もジャージと一緒に脱ぎ、さっき雑誌を投げた上に捨てた。ペニスはへそにつくくらい勃起していて、割れ目から澄んだ液体が光っている。よかったな、もう我慢しなくていい。

前屈みになって両足を持ち上げると、赤黒く艶めくザクロみたいなそこにグリッと押し当てた。すぐにぬるぬるベトベトしたものが絡みつく。吸い付いてるみたい、最高だね。
いつもの挿入よりもずっとスムーズに、でも、摩擦音を立てて、中に入っていく。あったかい。これだけで射精しそう。完全に陶酔しきっていると、「ちょ、ちょっと待って」と我に返った名前が慌てふためいていた。


「タオル敷かないと…ベッド汚れちゃう……ていうかゴムは…!」
「いいじゃん、別に」
「よくないよ!お母さんになんて言えば……」
「言えば、生理中なのにムラムラしちゃったから、ヤリまくったって」
「バカじゃないの!バカ!本当バカ!!」
「悪いけど、一週間溜めたし、もう我慢できない、入っちゃってるし」
「溜めたって……」
「名前の中に出すことだけ考えてた」
「ダメだって、ゴムつけ…………あ……や…っ…んんっ……」
「気持ちよくなってるけど……ねえ、嘘つきはなんとかの始まりだよ…ハッ……孕んでよ……ハァ……」
「バ……カ…あっ……痛っ……もっとゆっくり……やだ……」

苦痛と興奮を陶然とないまぜにした表情でいやいやと首を振る名前を、今僕はどんな顔で見ているのか。顔の筋肉がどう働いているのかわからないくらい溶けきっていた。リズムよく腰を前後に打ち付ける度に、水溜りを撫でる音が響き、僕と名前の結合部から薄赤いシミがじわじわ広がっていく。

喘ぎ声と一緒に息を深く吸えば、名前の一日目の濃い経血に僕の体液が混ざったキツイ臭いが鼻腔をくすぐった。恍惚が麻薬となって脳をぐちゃぐちゃと犯す。


「名前」
「あ……ハァ……ああん……うう……」
「生理なのに……気持ちよくなってんの…ハァ…ねえ……」
「い、痛いよ……奥、そんな……突か…ない、で……」
「まだ嘘つくの……懲りない奴……」
「嘘じゃな……ああっ…や、だ……」

腰の動きはそのままに、両脇に手を差し込んで名前の体を持ち上げる。もちろん、抜けないように気をつけてるから。後ろ暗く日陰を這いずる僕が、唯一胸を躍らせていた今日、この瞬間を、一秒も無駄にする気はないね。

ぴったり隙間なく体をくっつけたまま膝の上で後ろから抱きかかえる形を取る。背面座位。ついでに少しだけ座る位置を横にずらして、室内の片隅にそっと立てかけてある姿見に映り込んだ。薄眼を開けていた名前がまた反応する。

「待って、本当に恥ずかしいから……!」
「中ぬるぬるだけど……どヘンタイじゃん」
「やだ…汚い……みたくない…」
「名前、やらしいよ、お前……」


ベッドのスプリングを利用してもっと深くを意識しながら、指がクリトリスを探りあてる。ローションさながら経血と絡めながら円を描くように触れば嬌声はひときわ高くなった。

「一松……ね…あっ……もうダメ……イク……」
「ダメ……だから…」

拒否したものの、いよいよ「あ、あん、ああ」と大きな声が響けば、あ、やべえ、もう出る……と僕も絶頂に備えた。一緒にイクことなんてほとんどなかったのに。つくづく、最低な性癖。お互い。

鏡に艶めかしく胸を腰をくねらせて、体を支配する快楽から逃れようとする名前をぼやける目で見ながら、頭の中を真っ白に、僕はペニスを震えさせた。ドク、ドク、と、一週間分の密度のある精子が赤い海に飲まれていく感覚にいもしれない征服感が心を満たした。




ハァハァとお互いに息を切らせながら、最後にもう一度音を立てて引き抜けば、ドバッと経血に性液が混じってピンクっぽくなった液体が溢れ出す。また、ぞくりとした。

「どうしよう……これ……」
「仕方ないよ」
「なにが!?全然仕方なくないんだけど!?」
「仕方ないから、もう一回…いや、二回、三回……」
「一松って……本当バカだよね……」

ドン引きする表情に、さっきのぞくりが助長する。僕は抑えきれない笑みをまた、浮かべて、返した。

「何回めで孕むかな」





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