「んっ……あ………」

名前ちゃんが苦しそうな幸せそうな今まで見たこともない表情で、控えめに吐息を漏らしている。彼女の中でどうにかなりかけているものを抑え込もうとしているのか、ブラウスの合わせ目をぎゅぅっと掻き合わせているので、僕の指の動きに呼応して服のシワが真ん中に寄っていた。

薄暗がりの中、そのひだの下でほんのり浮かび上がる淡いブラジャーの言いようのないゾクゾク感には、名前ちゃんが頑張って堪えようとしているものだって、僕は我慢ができそうにない。いつも我慢とか考えたことないけどね。

小さい頃からいつだって、思ったことを思った通りにしかできない僕に、名前ちゃんは楽しそうについてきてくれる。安心させてくれる。

だからこそ、怖かった。もしも、今日できなかった我慢が、小さい頃からいつだってを壊してしまったら、どうしよう。


そんな不安を繊細に感じ取ったらしい名前ちゃんは、息を甘く甘くしながら、ブラウスをしわくちゃに握っていた手を僕の頭にそっと乗せた。


「大丈夫だよ、平気」
「名前ちゃん……いつもの僕じゃなくなるかも…」
「大丈夫。私も…変だから……」
「……変なの?」
「えっと…気持ちいいってこと…」
「気持ちいいんだ…」

噛み締めるように繰り返せば、胸の奥がじわーっと温かく締め付けられた。息がしづらい。


「どこ?ここ?」
「えっ…うん…あっ……」
「変?」
「う、うん……はっ……はぁ…ああ……」


頭に置いていた手がするんと落ちて、またもとの場所に戻りそうになる。僕はその手を思わず掴んで、柔らかい隙間に指を絡めると、ぴったりと閉められたカーテンや綺麗に整頓されている本棚がちらちら映っていた景色の向こう側を意識して押しやった。

重力に沿ってたおやかに、名前ちゃんの身体がソファに沈む。僕はしっとりと濡れる名前ちゃんのそこをこしょこしょと動かしていたもう片方の手を離して、自然と目の前に移動していた細い足を持ち上げた。

それからより深いところに姿勢を低めると、さっきまで愛しく指先を滑らせていた場所へと、舌を伸ばす。


「あ、ダメ…十四松…やめて……」
「やだ?」
「やだっていうか……ん、あっ……あぁ…はぁ……」

さっきより気持ちいい声出てるよね、って言ったつもりだったけど、舌を埋めているのと名前ちゃんの声が明らかに大きくなったので、多分聞こえてないと思う。でも、確認するまでもなく、嫌じゃないんだってわかったから、よかった、気持ちいいんだ、気持ちいいっていいことだよね、痛いよりもいいよね、それに僕だって気持ちいいんだ、実際僕自身の敏感なところは刺激されているわけじゃないけど、でもさ、心がとっても気持ちよくって、幸せなんだ。



名前ちゃんのそこから滲み出ている液体は、酸っぱかった。なんとかかんとかはレモンの味、っていうけど、グレープフルーツに近い気がする。そんなことを考えるぼんやりさで舌をふわふわと割れ目に這わせ、零れ落ちるものは全部舐め上げた。その度に持ち上げていた足が左右に揺れて、声以上に伝わって来る同じ感情に僕は貪欲にももっとが欲しくなってしまった。

皮下に隠れている一番過敏な突起を舌全体をいやらしく使ってべろりべろりと往復すると、僕はゆっくり顔を上げて、代わりに名前ちゃんの足を下ろした。

そこで初めて名前ちゃんが腕で目隠しして小さな口を力一杯食いしばり、胸を大きく上下していることに気付く。やべー。えろい。
男だから必然的にしたいって気持ちよりも、大好きだから一番深いところで繋がりたいって気持ちの方がもちろん絶対的に大きいけど、でも、そういうのも霞みそうになるくらい、強烈に視覚に本能に訴えかけてくる現実に、無意識に丈の短いズボンと違和感の張り詰める下着を膝まで下げていた。


「名前ちゃん…ギュってしていい?」

名前ちゃんはすこうしだけ瞼を押さえていた腕を持ち上げ、より濃くした影の中で艶めかせている瞳をこちらに向けると、こくんと頷いた。それだけで、また心臓の横が切なくなる。


僕は名前ちゃんの紅潮した頬の横に手をついて覆いかぶさると、静かに腰を落とした。綺麗に舐めとったと思っていたはずなのに(でもよく考えたらそれがないと奥にいかせることができない)、まだみずみずしく濡れていたそこにちょっと感動して、けどすぐに温かく締め付ける狭い膣から伝ってくる物理的な気持ち良さと、やっと一つになれたっていう精神的な気持ち良さとで、目が眩み、抱き締めようとする力がどこに逃げてしまったのかわからない。わからないけど、でもね、あー好きなんだよ、大好き。名前ちゃん、大好き。これ以上ってどうやったら伝わるのかな。

苦しいから、名前ちゃんの名前を呼ぶ。名前ちゃんは小さい声で返事をしてくれた。そして、もっと小さい声で重ねる。


「ギュって、こっちだったんだ……ちょっとびっくりしちゃった……」
「ごめんね…」
「ううん、嬉しいよ………もっと」

ギュってして。

名前ちゃん、今どんな表情をしてるの。ねえ。ねえ、好きだよ。わかる?これが僕の精一杯、って、さっきの場所より幾分か甘ったるさが強調された、洗剤の匂いが弾けるブラウス越しの細い身体に全身のありったけを込めると、名前ちゃんは「あはは…苦しい」と笑った。

僕も苦しい。肺に空気以外の何かが入ったみたい。何だろうね、これ。どうしていいかわかんないよ。



そのわかんなさをどうにかしたくって逃げるように、追いかけるように、腰を動かす。何かしてないとダメだった。なのに、白っぽい痺れが名前ちゃんを隠してしまうので、確かめるようにもう一度名前を呼んだ。

「ハァ……はっ……名前……名前…っちゃん…」
「ん……っ…気持ちい…い?」
「うん……」
「よかっ…た……大丈夫、もっと、いいからね…大好き、大好きだから…十四松…」

名前ちゃんはまるで僕の心を読んでいるみたいに、何度も、何度も、大好きと言った。これってずっと一緒だったから?だから、わかるの?いつも僕の秘密に気がついてくれるから、嬉しくってさ、だけど、名前ちゃんがもしも、僕と同じことを考えてくれているなら、同じ気持ちでいてくれるなら、そんな大好きだったなら。

ちょっとだけ惜しい気持ちで僅かに身体を離すと、名前ちゃんの視線を奪うようにして、唇を塞いだ。言葉以上の感情を、どうかここから流して欲しい。達してしまう前に、どうか。

唇を、舌を、歯を、鼻先を、貪る。摩擦が与える恍惚とは比べものにならない快感が、心を満たして、溢れて、ドクドクと外に出た。これが気持ちいいの限界だということに、うまく言い表せない痛みが胸を蝕む。あと、何回繋がったら、僕は名前ちゃんにこの気持ちをそっくりそのままあげられるのかな。

名前ちゃん、大好き。大好きだよ。

魔法みたいに心の中で唱えたら、名前ちゃんは、恥じらいを浮かべてそっと微笑んだ。大好きだった。




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