シャワーの水音に混じって、ルームが清掃をしているであろう音が、室外の廊下からくぐもって聞こえる。

人が作り出したと思うにはあまりに息づいた瞬きを見せる、ビル群で形成された夜の海に浮かぶ星屑たちを、一片の曇りもないガラスの向こうに眺めながら、黒く澄んだ赤い雫が浮かぶワイングラスに重ねて、さざめく波を寄せ返した。
しめやかに奏でるクラシック・ピアノのメロディーが、この非日常と言える空気に溶けて、心地がいい。今宵は特別な一夜になりそうだ。


ふっと、笑みを零して、そんな景色に反射して映る、名前の戸惑いや恥じらいを隠しきれていない姿に、俺にはお前を抱きとめる余裕がある、安心してくれ、と、ゆったり振り向く動きで伝えた。

そんな寡黙な俺の行動や想いを、相変わらずすぐに理解してくれた名前は、小さく頷くと、それでも顔に手を当てて「すっぴんだからあんまり見ないで…」とまたもじもじするので、足の長さを意識して、大股に近づけば、ふわふわのバスローブに包まれた、その肩を抱き寄せる。


「何言ってんだ、綺麗だぜ……そして、これから俺の腕の中でもっと、綺麗になれる」
「バカ……!」

照れてるのかもしれないが、本当に心から嬉しそうなのもわかるんだ、俺には。俺も、嬉しいさ。こんな夢心地の舞台で、お前と踊れて。

溢れる想いを込めて、柔らかく細められた瞼にそっとキスを落とす。
そうしてはにかんだ名前が、「電気消して?」と甘くねだるので、ベッドサイドにあるライトのつまみを、流れるような手つきでひねった。
ぼんやりと曖昧に帳を下ろす暗闇に、百万ドルの夜景が、魔法のように浮かび上がる。最高だった。



二人が身を寄せても十二分以上に余りあるキングサイズのベッドに、はしゃぎながら倒れ込む。早くもはだけたバスローブから露わになった乳房を零さないよう掌で覆い、下から手首を回しつつ揉んだ。あっという間に吸い付く肌に、俺は唇を落とす。

名前の髪から体から弾ける、スウィートアロマの甘酸っぱいフルーティーな香りに、夢中になって鼻を擦り付けながら、硬くなりつつある突起を舐めたり、転がしたり、反対にとろけるようにやわっこいままの膨らみを吸ったり、甘噛みしたり……、窓ガラス越しに広がる漆黒の銀海よりも、名前に深く溺れた。

そんな俺に対して、普段以上に高い声を出して、名前も応えてくれる。一緒に愛のたゆたう底に沈んでいっているみたいで、悪くなかった。さあ、真理を探しに行こうか。



「はっ……今日は、特別……気持ちよくなろう……名前……」
「……あっ……ああ、ん……ハァ…う、うん……」


背を仰け反らせて、こくこくと頷く名前の頭を抱き起こして、嬌声の絶え間ない唇を塞いだ。リップ音が際立つように、繰り返し、繰り返し、キスをする。
歯磨き粉のハーブがすーすーとして、普段とは違う快感が体を震わせるのを感じながら、もっとを求めてくる名前の舌に、やれやれ仕方のない奴だと、まずは口で吸って、ご褒美をあげた。

んんっと喉から声を出す名前に、すぐさま口を開けて、思い切り舌を伸ばし、絡め、丹念に歯列を舐め上げる。その間の愛撫ももちろん忘れてないぜ。白くすべすべした太ももを下から上へと滑らせつつ、レースの付いたショーツの隙間に指を通して、すでに愛液で湿っぽくなっているそこを、くちゅくちゅと弄んだ。


「あ、ダメ……や……」
「嫌なのか?やめてもいいんだぜ…?」
「バカ……あ、ああ……はぁ…ダメ……」
「ダメ?」
「じゃ、ない……」
「ちゃんと言ってみろよ……」
「……バカ、もう……して…?」
「フッ……いい子だ、名前」


と、気取ってはみたものの、こうして女の子から口にして求められることは、想像よりグッと来るものがあったので、妙な昂揚感が込み上げてしまい、自然と視線を彷徨わせてしまう。
すると、刹那に、改めて宝石みたいな夜景と、研磨されたガラスに映る、俺と名前の裸体を使った艶かしい睦言が、目に飛び込んできた。


俺は恥部をぐちゃぐちゃにして力を抜き切っている、名前の体を軽々持ち上げて、ベッドサイドへと降りた。

「カ、カラ松……?」
「せっかくお前の為に取ったんだ……楽しもう」

状況を飲み込めず大きな瞳をぱちくりとさせている名前は、どこかあどけなく、可愛かった。
その表情がどんな乱れ方をするのか、いよいよバスローブも何もなくなった名前を、そっとガラス張りの景色の前に下ろし、そこに手を付くよう腕を取りつつ、背後から曲線の色っぽい腰を持ち上げ、硬直したモノをゆっくりと押し挿れた。


「あ、待ってカラ松……映ってる、恥ずかしい……」
「ああ、綺麗だな……エッチだ……」
「もう、やだ……あっ……うう……は…ん……」
「名前……ハァ…あ……」

名前が手を付く上から右手を重ねて、左手は再び乳房に回すと少し乱暴とも言える手つきでまた揉みつつ、きゅうっと締め付けながらも溢れる液体のお陰で滑らかに動く結合部を、深く浅く前後に擦った。

いつもしない体位だったので、性器がより反って奥まで到達するの感じながら、脳が痺れていく快楽に酔いしれる。


煌めく海に躍って揺れる乳房に、視覚的な興奮を覚えれば、思った以上に腰の動きが早まった。

「ああ、ハァ、ああん、は……あ」
「ハァ…は、……名前……好きだ……」
「う……んん……私、も……」

生理的な涙を目の際に浮かべて、苦しげに頷く名前のうなじに口付けをする。先ほどのボディソープの香りの中に、名前の汗の匂いを敏感に嗅ぎ分けると、急に胸がいっぱいになった。


俺にできることはそんなにないかもしれないが、それでも全部をあげたかった。俺の腕の中で、特別な女の子にしてあげたかった。

思ったよりも余裕がなくなっちまったけどな。シナリオ通りにいかないのが、愛ってもんだろう。

「悪い……お前があんまり可愛いから……そろそろ出そうだ……」
「ん……いいよ……」

僅かに振り向いて微笑む名前の表情は、透き通った壁の向こうで瞬く景色よりも、鮮やかに、俺の心を奪った。ああ、まだ夜はこれからだから、今度は正面から抱きしめよう。大切に、抱きしめよう。





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