気付けば年が明けていた。例によって新年会という訳ではないものの、馴染みの居酒屋を訪れれば、どうして兄弟たちの表情は曇っていて、いつもよりも口数は少なめ、それぞれがビールや焼酎をちびちびと飲み進めている。
そんな空気を察した上で察しない下から二番目の弟・十四松があっけらかんと口を開いた。

「はは、今日みんな暗いよね。なんで?」
「なんでって……まあ…なんで?トッティ」
「僕に振る!?いやー……てか一松兄さん、闇入っちゃってるけど大丈夫?」
「……なんのこと。今夜も最高ですよ……えぇ?最高だよなぁ!?」
「うわー……これ本当にやばい奴じゃん……」
「そうさ……いつだって最高なんだ……愛するラヴァーと愛の営みができることは……」
「やっぱその話になる……?」
「おー、みんなも童貞じゃなくなったんだ」
「おい、みんなもってなんだよ、十四松!!ま、マジで……マジなの……?」
「どうしよう……なんか僕涙出てきた……」
「ドライモンスターの目にも涙って……よっぽどのことがあったんだな……トッティ……」
「みんな似たようなもんですよ、相手だけ違ってね……」
「ぶっちゃけさ……これは共有するラインじゃね……?」
「いや……いやいやいやいや!どう考えたって事故るでしょ、何言ってんのおそ松兄さん!」
「もう笑い話にしていくしかないんだよ!これが自己責任ってやつだから!」
「そんな責任の取り方聞いたことないよ!」
「そんな訳で唯一元気な十四松くんからどうぞ」
「僕すか!」
「まあ、先に悪い話を聞いて、後にいい話を聞きより自分の悪い話に首を絞められるよりはいいか……十四松兄さん、どうぞ」
「本当かよ!?」
「んとねー、よかったよー」
「いや小学生じゃないんだから……もうちょっとあるだろ……」
「逆にこれくらいあっさりしてた方がダメージ少なくない?」
「でも、僕初めてした時、なんか変な感じしちゃって」
「変な感じ?」
「出した後もすぐ勃っちゃうっていうか」
「え……性欲やばくね」
「絶倫かよ……」
「体はしっくりきてなかったんだけど、心は幸せだったから黙ってたんだ……でも向こうは気付いてて。それで僕の体が満足するまで一日してた」
「うわー……もうチェリーでもなんでもないじゃん、この企画ここで終わりだよ!解散!店長、お愛想!」
「ご愛読ありがとうございました……次回作にご期待ください……」
「ちょ、ちょっとトッティ!それ色々まずいから!えーっと、どうしよう……カラ松は!」
「……俺か?俺は……したぜ」
「したのかよ!!」
「百万ドルの夜景……に近いバスルーム、……キングスイート……を思わせるセミダブルベッド、……上海の風……を感じるBGM」
「それラブホだよね!?」
「フッ……モーテルだ」
「いや同じ意味だからね、ラブホだからねそれ」
「でもよくラブホで一発目できたよな……あの子理想高そうじゃない?」
「…………」
「あらら、黙っちゃったよ……やっぱダメだったんだ……」
「どうせ雰囲気で入ったけど、挿れる前に拒否されたとかでしょ」
「なぜそれを……」
「一番えぐいなそれ……」
「そういうおそ松兄さんはどうなんだ!」
「あー……酔って超いい雰囲気になったんだけどさ……」
「ああ、勃たなかったんだ……」
「くっそー、俺のちんこのバカ!ていうかさお前なんなの!そうやって人心掌握使うのやめてくんない!?そういうお前はどうなの!?そこは絶対話せよ!」
「うわっ出た出た!ていうか兄弟の失敗談知ったところででしょ……」
「いいから言え!絶対に言え!じゃないとチョロ松もう夜トイレついてかないってよ」
「え!?あ……ついてかねーからな!」
「はあ!?卑怯だろ!!……彼女ん家行ったんだけど……その…思ったより余裕なくなっちゃってさ……」
「いやーレイプはさすがに……ダメだろ……犯罪だからね、それ……」
「んなわけねーだろ!そんなのするの一松兄さんくらいでしょ!」
「なに一松、ついにヤッちゃった?」
「好きすぎて殺してたとかありそう……」
「つーかオナ禁はどうなったんだよ、一松」
「……してたよ」
「してたんだ……いやていうかこいつの理想生理中でしょ?普通に殴られたとか?」
「チョロ松兄さん、一松兄さんだよ?もっとやばいって絶対。シャレになんない感じだって」
「……ていうか、みんなよくやるよね、周りに合わせてさ。彼女?脱童貞?俺には一生……一生……」
「や、やめろよ一松……!もうお前今日しゃべんなくていいから!」
「名場面台無しになっちゃうから!もう休んでてよ闇松兄さん!あとはチョロ松兄さんがなんとかしてくれるからさ、ね」
「おい、キラーパスにもほどがあんだろ!てかさ、正直俺覚えてないんだよね……」
「はい、出たよ。周りには喋らせといて自分はとぼけるなんてずるくね!?」
「違うわ!マジで覚えてないんだよ!!デカパンから薬はもらってたんだけど……」
「うわ、本当にやったんだ猫耳プレイ……」
「薬もらうって……きもちわる」
「うるせーな!!お前らだって似たり寄ったりじゃねーか!!」
「んだよ、やるか!?」
「お前も立てよトド松!前々からなぁ……」
「なんでそうなるんだよ!そんなこと言ったらカラ松兄さんとかなんかもうよくわかんないじゃん!」
「立てよクソ松」
「えっ……」
「何!?喧嘩!?やるやる!」

ガンッと音を立てて椅子を引けば、十四松を除く全員がこのやりきれない思いを拳に込めて、互いにぶつけ合う。

セックス、したかった――と。





*前次#
NOVEL
home
ALICE+