ー解決策というか、やってみないとわかりませんけど…でも、俺が手伝ってあげることはできるかもしれません


「はぁー…何て事言ってるんスかね、自分は」


パトロールを終えてまっすぐ自室こと社長室に戻ったら、性に合わない無駄に作りのいいプレジデントチェアに背中を預けて深く座り、エグゼクティブデスクに足を乗せて天井を見つめる。


この部屋で名前ちゃんの個性の悩み相談をされたのはかれこれ1週間前のことだ。
その時頭をよぎった下心であんなことを口走ったもののとっさに我に帰り、「まぁもしまた業務中に困ったりした時は、ここの部屋なら他の社員たちは入ってこないのでいつでも気軽に頼ってください」だなんていつもの軽い口調で流して、まだ今日も体調が良くなさそうだから、とその日も早退するように促してその場をやり過ごした。


自分の蒔いた種ではあるのだが、あの日以来以前にも増して名前ちゃんを意識しすぎてしまう。
自身も発情期の経験はあるからこそ、あの時体の奥からとめどなく熱が溢れるどうしようもない切なさはよくわかる。
そんな時名前ちゃんは、一体どんな顔をするんだろう、とか。
あの白くて華奢な身体に誰より1番先に触れるのはどうか自分であってほしい、とか。
あんなことを聞かされてしまったら、想像してしまうのが健全な成人男性というものだろう。


いつもならパトロールの後は名前ちゃんのデスクに真っ先に向かって甘いコーヒーを淹れてくれとねだるものだが、今週はパトロール帰りに事務所の前の自販機で缶コーヒーを買って少しアルミの味のする味気ない缶コーヒー片手にしぶしぶ書類を処理する日々。
webシステムで管理している勤怠を見るにあの日から名前ちゃんは無事に毎日出社しているみたいだし、2、3回廊下ですれ違った時様子を見た感じだと特に問題なくいつも通りの生活をおくれているようだ。


それは何より素晴らしい事、なのだが。
いつか名前ちゃんが、頬を染めて困った顔でこの部屋を訪れたりしないだろうか。
そんな安っぽいAVみたいな展開が実際にあるとは思えないが、期待してしまうのがやはり健全な成人男性というものなのだ。


「あー、本当、俺ってサイテー」


1週間前の自分の発言以来、そんなベタな展開を想像してはもやもやとした気持ちを覚えるものの、自分で慰めてしまったらなんだか負けのような気がして少ない理性で踏みとどまる。
よりにもよって彼女は自社の優秀な社員なのだ。


「いやでもそれがまたいいとも言える…」


誰もいない部屋で1人下らないことに思考を巡らせては自分で自分にツッコミを入れる自分をフォロワー達が見たら何というだろう。
仮にも若手人気ヒーロー
女性の方からお誘いがやまないほど人並み以上にはモテていると自負があるし、年齢の割にはそれなりに経験だって積んできた。
あ、もちろん色んな意味で。
だからこそいまさらこんな事に頭を支配されてどうしようもなくなっているなんて、そんな自分が情けなくてやるせない。


「いや、ほんとどうにかしてるわ俺」


そう、俺はNo.3ヒーロー ホークスなのだ。
ヒーローが暇を持て余す社会をつくりたい。
俺には明確な目標がある。
とはいえそりゃあまぁ、まだハタチそこそこの青年なわけで、人並みに恋もすれば女性を欲しくなる時もあるけれど。
でも今は、うつつを抜かしてはいられない。


「よし!」


ぱん!と勢いよく自分の両頬を両手で叩いて、デスクに乗せた足を勢いよくおろして立ち上がる。
今日のパトロール中も数件の軽い事故や事件を防いだしよく働いた。
後処理を任せたサイドキック達に概要を伝えて、事務チームに報告書をまとめてもらわなくてはならない。
溜まった作業を終わらせようと、机の上に置かれたリンゴのマークのノートPCを開こうと手をかけた。
その時だった。



「あ、しゃちょ…」
「名前、ちゃん…?」


ノックもなしにいきなり開いた扉の音に、部屋の出入り口に視線を向ける。
 

「しゃ…ちょ、助けて…くださ、い」
「え、あの、これって…」


そこには、ここ1週間、俺の頭の中にいたままの姿の名前ちゃんがいた。

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