「えーっと…、名前、ちゃん?」
「ぅ…はぁ、」
「と、とりあえず、中入れる?」


いきなり開いた社長室の扉に寄りかかるようにして肩で呼吸をする名前ちゃんは、ずるずるとその場にしゃがみ込む。
俯いていて表情こそ見えないがふんわりと巻かれた髪から覗くいつもならば雪のように白い肌は真っ赤に染まっていて、彼女が今、先日打ち明けてくれた例の悩みの種に侵されているということは一目瞭然だった。


問いかけにも返事がなく、自力で立ち上がるのは難しそうな名前ちゃんを部屋の中に入れるため立っていた部屋の奥から扉の元まで歩み寄る。


「名前ちゃん、」
「っは、はぁ、」
「…ごめんね、触りますよ」


ぐったりと脱力した彼女に先に謝罪の言葉を告げて、背中と膝の裏に手を差し込んで抱き上げる。
全身の力が抜けて全体重を預けられているはずなのに、こんなにも軽いだなんて。
救命救助の現場には比較的駆り出される方だがいつも背中の翼で人を運ぶものだから、こんな風に女の子を自分の腕で抱き上げたのは一体いつぶりのことだろう。


この小柄な体も彼女の個性に由来するものだろうか。
俺の腕の中で苦しそうに荒く呼吸する彼女の表情を覗けば、目尻に涙をためて虚ろな瞳は黒く縁取られているし、彼女の品種はホトだろうか。
いや、でも頭についたふわふわの長い耳は少々情けない印象に垂れ下がって、やっぱりホーランドロップイヤーかもしれない。


俺の想像の中でみた姿の名前ちゃんをいきなり目の当たりにし、まさかの展開に思考が追いつかない。
少しでも気を紛らわせようと名前ちゃんは何の種類のうさぎなのだろうか、なんてことに思考を巡らせてみるものの。


薄いブラウス越しに伝わる熱い背中
一歩歩くたびにさらりとこぼれる髪
抱き上げた時にふわりと香り立つ初めて感じる彼女の香り



そして、この部屋には俺と名前ちゃんしかいない。



理性がなくなるには、十分すぎる状況だった。


「…名前ちゃん、ごめんね」


応接セットの2名がけのソファに名前ちゃんの体を優しく寝かせて、二度目の謝罪の言葉を述べる。
一つ目のごめんねは、こんな状況で致し方ないとはいえ女性の体に触れることへの謝罪。
そして二つ目のごめんねは、初心な彼女の肌に触れることへの謝罪。


でも、さっき彼女はたしかに俺にこう言ったのだ。


ー社長、助けてください、と。


「…今助けてあげますからね、名前ちゃん」




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