03
昨夜は気が付いたら意識を手放すように眠りについていた。
襖の隙間から差し込む日の光に眩しさを感じて目を覚ませば、昨夜の願いも虚しくまた夜が明けて新しい1日が始まっていた。
寝起きのせいかはたまた昨夜の涙のせいか腫れた目蓋を擦りながら布団から立ち上がり襖を開けば、昨夜の雨が嘘だったかのように雲ひとつない青空にお天道様が煌々と輝いている。
この日の光で自身の身体が消えて無くなってしまえばいい。
まるで鬼のように、姿形なく消えてしまえれば。
快晴の朝には不似合いなそんなことが寝起きの頭に思わずよぎるが、自分の思考を否定するように小さく頭を横に振ってふぅ、と一つ息を吐く。
「…よし」
昨夜床に着く前に枕元に用意した紬の着物を手にし、寝巻きの浴衣から着替える。
存外早く、私の中で答えは出た。
この世でたった1人の愛する人を亡くした今、今度こそ私の居場所はここではなくなったということだろう。
この場を離れようと心に決めたのは今回が二度目のことになるが、今回こそがその時であるに違いない。
家族、
仲間、
そして、愛しい人
これまで数多の死を見送ってきた立場の者として不適切極まりない思考だと重々承知の上ではあるが、どこもかしこも愛しい人の面影ばかりのこの屋敷で、1人寂しくただ寝て起きての毎日を繰り返すなど、私には死んでも御免であった。
しかしどれだけ鬼への憎悪が膨れようと、志半ばで戦場から退いた私にはもう日輪刀を握る資格はない。
数年前、最終選抜を抜けて晴れて鬼殺の隊士となったあの日の私が今のこの情けのない私を見たらなんというだろう。
「…ごめんなさい」
桐箪笥の最上段の奥深くに仕舞い込んだ折れた自身の日輪刀を取り出して、過去の自分に謝罪を告げる。
ここ炎柱の屋敷から3日ほど歩いた小さな村に、今はもう誰も住んでいない私の育った屋敷がある。
家族を皆鬼に喰われた晩の翌日に私はあの村を出たけれど、以前任務の最中に村を抜けた際にまだそこにあの屋敷があることは確認が取れていた。
代々村の長を務めてきた私の家系の屋敷はそれなりの広さには恵まれているから、そこに藤の花の家紋の家を構えようと思った。
私にできるせめてもの事。
ない頭で精一杯絞り出した最善の策。
戦えなくなった私にもできそうな事といえば、せめて誇り高き隊士達を陰ながら支えることくらいであろう。
「さて、片付けるか」
桐箪笥から出した日輪刀を畳の上に置き、私は屋敷を出るための荷造りを始めた。
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