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先程屋敷の入口で私の用件を聞いてくれたアオイという少女は、洗濯の続きをするからと今度はさらに幼い女の子達に私の案内を任せて庭に戻っていった。
怪我人を受け入れる蝶屋敷は私の住む屋敷よりさらに広くて、長い廊下を少女達の後ろをついて歩けば部屋部屋から手負いの隊士達の声が聞こえる。


(懐かしい…)


隊士としてまだ任務に当たっていた頃、この屋敷には何度か世話になったことがある。


「こちらの部屋で 、しばしお待ちいただけますか」
「あ、はい」


通された部屋は怪我人としてここを訪れた際には踏み入れた事のない、屋敷のだいぶ奥にある座敷の部屋だった。
品のある柄の座布団のみが真ん中にぽつりと置かれた広い部屋で一人、ちょこんと借りてきた猫のようにして座る。
縁側に続く襖は開けっぱなしにされていて、その先には綺麗に整えられた庭に蝶が舞う。生憎の曇り空ではあったが、私はその光景にしばしぼぅと見惚れた。


「お茶をお持ちしました」


その間数分の事だっただろうか。
先程の隊士達のように以前自身がこの屋敷に運ばれた時のことを思い出しかけていたら、静かに開いた廊下側の襖の先に先程の女の子達がお茶と茶菓子を持って立っていた。


「私にはお構いなく」
「で、でも「それより隊士達のところに行ってあげて」


鬼との死闘の末なんとか命を繋いで帰還しても、待っているのは安堵の気持ち以上に、戦いで負った心身を阻む傷の痛みである。
むしろ鬼を前にしている時は必死が故に気付かないそれが、気の抜けた瞬間に一気に襲いかかってくる。
戦線から退いてもなお私の肌は鬼の爪で傷付いた時のあの焼けるような感覚をまだ昨日のことのように思い出せるし、それと同じように、その痛みに悶え苦しみながら数多の同胞達が命を落としていったこともまた、忘れるなんて事はこの先一生できないのだろう。


(杏寿郎様も、あの苦しみの中であの燃え盛る命の灯火を絶やされたのだろうか)


あの痛み
あの恐怖
あぁ、痛くて、辛くて、燃えるように苦しい


「あ、あの、でも…しのぶ様の大事なお客様ですから」


昔の記憶に吸い込まれるように想いを巡らせていたら、思わず低い声が出ていた。
戸惑った様子の少女達の震える声にはっと現実に引き返し、すぐに謝罪の言葉を述べて精一杯の笑顔を作る。


「…ごめんなさい、いただきます」


あぁ、杏寿郎様。
私は今、上手く笑えていますか。







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